サスカトゥーン出立
崩壊暦214年8月23日08:34
「全艦、離陸せよ。これより、カルガリー奪還作戦を開始する」
サスカトゥーンより、米艦隊は飛び立つ。セントポールでの傷を癒した艦と合流し、戦力を補強した艦隊である。その数は、日本艦隊の増援を合わせたとしてもなお、それを凌駕するものである。
また、この3日で、ケラウノスの準備も整った。昔は、カルガリーの防衛が初の実戦であったケラウノスだが、今や、カルガリーの奪還に使っている。チャールズ元帥としては、感慨深いものである。
結局、ケラウノスでもってもカルガリーは守り通せなかったが、今こそ反撃の時である。
さて、今回の作戦は、最も堅実なものでいく。即ち、艦隊を横に広げ、敵を押し潰す作戦だ。大まかに艦隊を3つに分け、戦闘を展開する予定である。また、米艦隊は巨大であるため、その一つ一つですら、立派な空母機動艦隊となる。
チャールズ元帥のアイオワは、空母3隻を抱える中央艦隊に入る。また、今回は、セントポールのように艦隊を分断するつもりはない。
「こちらの方が多くの艦を持つとは言え、油断は禁物です。サンフランシスコの二の舞にならないよう、常に敵を観察し続けるべきでしょう」
「ああ、サンフランシスコでは、2倍近い戦力でありながら、都市を奪われたからな」
この全域的において、米艦隊は、日本艦隊より強い。それは、間違いないことである。しかし、ハーバー中将が言う通り、サンフランシスコでは、今よりも有利な状況でありながら、敗北を喫したのである。この轍を踏むのは、避けなければならない。
それに、今回の米艦隊は、西部とは格が違う大戦力であるから、それが壊滅すれば、損害は計り知れない。無駄死には極力避けたい訳である。
だが、そこで、作戦を揺るがす衝撃の知らせが舞い込んできた。
その重大さたるや、チャールズ元帥がその知らせを聞くや、10秒ほど固まったほどである。
「な、敵が既にいる、だと?」
カルガリーから460km付近で、舞い込んできた知らせ。それは、日本軍の増援が、既に合流しているというものだった。それは、あまりにも早すぎる。情報では、あと2日はかかる筈だったのに。
「情報部は何をやっていたんだ!?」
チャールズ元帥は、完全に的を外した情報部に怒りをぶつける。不運にも、無実のオペレータが、その被害に遭っているが。
見かねたハーバー中将は、チャールズ元帥を諌めにかかる。
「閣下、まずは落ち着いてください。我々がすべきなのは、如何なる状況でも最善を見つけ出し、実行することです。今は、建設的な議論を交わすべきでしょう」
「ああ、そうだったな、将校というものは」
チャールズ元帥は、すぐにいつもの調子に戻る。まあ、一瞬だけ鬼の形相を見せてすぐに戻るのは、元帥の癖であるが。それに、カルガリーで艦隊を危機に晒したことを心に留めているのだろう。
「さて、どうしようか。これで、敵にはプラズマ砲とやらが追加された訳だが」
「現実的に考えて、現代の技術では、長射程のプラズマ砲を作れるとは思えません。従って、敵に近寄らなければ、プラズマ砲は脅威ではないでしょう」
プラズマ砲の原理は、各国が理解しているが、それを実用化してきたのは日本軍が初めてである。だが、実際は大したものではないだろうと、ハーバー中将は踏んでいる。
「では、我々は、遠くからちまちまと敵の戦力を削ればよいということか?」
ニミッツ大将は言う。
「はい、閣下。もっとも、通常の砲撃戦に影響が出るほど、敵のプラズマ砲が優れているとは思えませんが」
敵のプラズマ砲の威力は未知数である。それは、いくら聡明な将軍でも推し量れないだろう。結果として、現状では、作戦が明確に立てられないのだ。
「まあいい。プラズマ砲がその程度であるならば、作戦に大きな変更はない。敵の突撃をいなせば、問題はない筈だ」
「はい。私も、同様に考えていました。閣下の思うように戦うのが、ベストでしょう」
プラズマ砲とて恐るるに足らず。
それが米艦隊の結論である。十分に警戒する必要はあるが、近寄られなければ問題はない。
だが、逆に、こちらから接近戦が出来ない以上、戦闘の決め手には欠ける。戦闘が以前の見込みより長くなるのは、間違いないだろう。