政府の命令
日本航空艦隊を撃退し、ひとまずの脅威を排除し終えた後に始まるのは、あの論争である。
だが、そこに新たな情報が入っていた。
「日本軍には増援が来る、か。これは本当か。それともこれも嘘か」
そうは言うものの、チャールズ元帥は、どちらも偽情報だろうと踏んでいる。特に理由もないが、長年の勘というやつがそう告げていた。
「撤退は日本軍が増援を待っている証拠。すぐに攻撃し、少しでも優位に立つべきです」
相変わらず、参謀達は即時攻撃を主張している。
彼らの主張はそれなりに筋は通っている。いくつかの要素を完全に無視しているが。
さて、チャールズ元帥が効果的な反論を考えている時、不運にも、凶報が訪れた。
「閣下、連邦政府より、即時攻撃と日本軍殲滅の命令が届きました。最優先すべしとの但し書きもあります」
命令書いわく、
「南方、北方いずれの都市も陥落寸前である。
そしてこれは、サンフランシスコ防衛に複数の艦を引き抜いたからである。
サンフランシスコ防衛艦隊は、他の都市の犠牲と引き換えに局地的優位を保っている。
それが、日本軍相手に怯んでいるのは言語道断。
直ちに日本軍を殲滅し、他の都市の救援に向かえ」
と、のたまう。
「はぁ、防衛艦隊の増強は政府が勝手にやったんだがな。それに、任務は防衛ではなかったのかな」
チャールズ元帥は呆れた様子でぼやく。チャールズ元帥は、別段、サンフランシスコ防衛艦隊の増強を望んだことはなかった。
むしろ、増強前の戦力の方が上手く戦えたのでは、他の都市も守り切れたのではないか、そんな気持ちが彼の中に燻っている。
「このような愚かな命令など無視しましょう。将兵の命を政府の都合で失わせる訳にはいきません」
ハーバー中将は強く進言する。
彼は勝利に固執するタイプの人間だ。その為には、政府への抗命も辞さない構えである。
だが、そんな主張には参謀達が黙っていない。自らの主張に正当性を確保した彼らは、矢継ぎ早に持論を並べ立てた。
「政府の命なのです。従うのは軍人として当然ではないのですか!」「今こそ、全力で攻撃する時です!」
「静粛に!」
ハーバー中将はこれまでの様子とはうって変わって怒鳴りつける。
「元帥閣下、決定を」
結局、すべてを決めるのはチャールズ元帥その人である。
だが、チャールズ元帥は意外な決断を下した。
「私は、文民統制の原則を破るのは、軍人としては禁忌であると思う。例えそれが理不尽でも、例外を作ってしまえば、原則は形骸化してしまう。それは、避けたい。で、あるから、これより、全航空戦力をもっての攻撃を命じる。また、総攻撃の用意もするよう全艦隊に通達してくれ」
「…元帥の命ならば、慎んで、従いましょう」
ハーバー中将は軍の序列を理解する人間である。チャールズ元帥の言葉で少し冷静さを欠いていたことに気づいたようだ。
そして、元帥の命令は絶対だ。すぐさま将兵は動き出す。
かくして、米軍の攻撃が始まった。




