サスカトゥーン到着
今更なんですけど、陸軍が艦隊作って空で戦うってだいぶカオスですよね。
米艦隊は、サスカトゥーン東方100kmにまで接近している。将兵はみな、来るべき決戦に備えている。
だが、そこで、チャールズ元帥は、驚愕の事実を宣告された。
「さ、サスカトゥーンには、一切の敵軍が、いません」
「は?いっ、いない?」
普段は冷静なチャールズ元帥も、この時ばかりは、すっとんきょうな声をあげざるを得なかった。壮絶な覚悟で戦うつもりであった敵が、いないのである。
「敵は、こんなにゴミのように都市を捨てると?数ヶ月の努力を無に帰すと?」
まさか、サスカトゥーンからも退くとは、チャールズ元帥には、予想外である。サスカトゥーンは、日本軍からすれば、ロッキー山脈での多大な犠牲の末に獲得した都市だ。また、サスカトゥーンを米艦隊が制圧すれば、敵の前線は大きく後退することになる。
「敵には増援が来ているというのは、嘘か?」
「いえ、閣下。確実に増援は迫っており、現在はアラスカ上空で進軍中とのことです」
「ああ、わかっている。わかってはいるんだ」
チャールズ元帥は、遂に、増援の存在まで疑い始める。それほどまでに、敵の行為は奇怪である。サスカトゥーンを捨てることは、デメリットが大きすぎる。
増援が来ているならば、それまで持久戦を展開すればいいのだから、捨てる意味がない。
日本とアメリカの戦争では、戦闘が起きれば殆ど毎回都市が奪われているため、誤解されがちだが、本来は、こんな簡単に国境は動かない。これは、東郷大将もチャールズ元帥も人道主義者で、都市での過剰な戦いを好まないからである。
それでも、サスカトゥーンの敵国市民の命と戦争の勝敗を比べれば、勝敗の方が重いと、チャールズ元帥は思うのである。
だがそこで、新たな情報が入ってきた。
「閣下、情報部によると、敵は、新型のプラズマ砲を増援に加えているとのことです」
「なに、プラズマ砲だと?」
暗号解読や、スパイから仕入れた情報から、「プラズマ砲」という単語が導き出された。それも、察するに、戦局をひっくり返す代物のようだ。この要素を加えて、今後の方策を討議しなければならない。
「今すぐに攻めるべきです。敵がひとりでも少ない内に、敵を殲滅すべきです」
ニミッツ大将は、速攻を主張する。
「いえ、今は戦力を整える時です。戦闘中に敵の増援が来襲する可能性は高く、我が軍に相当な被害が出る危険性があるでしょう」
一方、ハーバー中将は、慎重派である。
「それでは、立派に整った日本艦隊を相手取ることになり、むしろ、我が軍の被害が増すのではないでしょうか?」
「いえ、我が軍も同時に、十分な戦力で挑むことができます。よって、むしろ、我が軍の被害は、不確定要素の多い速攻案よりも少なくなるでしょう」
議論は、平行線を辿る。今すぐに、半壊した日本艦隊を、増援が来る前に殲滅するか。或いは、しばらく戦力を整え、こちらも艦隊を増強した後に、敵の増援もろとも殲滅するか。その二択は、選びがたいものである。
「ああ、諸君、つまり、こういうことだな。もし、我が軍が、敵の増援が来る前に敵を殲滅できるのならば、我々は、すぐにここを発つべきである。そして、そうでないなら、我々は、艦の修復、東部からの増援を待つべきである。即ち、我が軍の現在の能力について、論じるべきだな」
チャールズ元帥は、会議を結論に導きたいのだ。部下の上申は大切にするが、それをうまく制御するのも、上官の務めである。
「私は、時間内に敵を殲滅するのは可能かと考えます。現在の戦力差は、開戦以来最大です」
「相手は、これまで我々を何度も破ってきた知将です。時間稼ぎをしようと思えば、最後まで耐えられる可能性が高いでしょう」
「しかし、…………」
なおも、議論は水掛論に終始している。チャールズ元帥も、自らを信じたい気持ちと不安とが葛藤している。だがそこで、思わぬ介入が、議論の流れを変える。
「連邦政府より、可能な限り早く、ロッキー山脈を奪還せよ、との通達があります」
「また、政府か」
アメリカ連邦政府は、また、攻撃命令を出してきた。速攻派の強力な後ろ盾である。
「閣下、連邦政府も命じているのですから、今すぐにカルガリーを攻めるべきです。今の敵は、半壊した日本艦隊の残りに過ぎません。ですが、こうして議論している間にも、敵は、着々を戦力を補充してるのですよ」
連邦政府からの指令は、決して、非合理的なわけではない。十分に合理的な選択肢である。で、あれば、チャールズ元帥が選ぶものは決まっている。いや、選ばざるを得ないのだ。
「私は、決定した。これより、カルガリー奪還の準備をせよ。2日後には、ここを飛び立つぞ」
サスカトゥーンを奪還してもなお、米軍の進撃は止まらないのだ。