ウィニペグ制圧
両軍が激突するのは、まだもう少し先です。
崩壊暦214年8月18日09:23
「ウィニペグは、もぬけの殻だな」
「はい、閣下」
米艦隊は、セントポールから、ウィニペグ奪還を掲げて出撃した。しかし、当の日本軍はとうの昔に撤退しており、その為、奪還したという喜びもさほど起こらないまま、米艦隊はウィニペグに降り立っている。
アイオワもまた、ウィニペグに着陸し、燃料弾薬の補給を受けている。
「なんだか、奪還した気がしないな」
「戦わずして勝ったのです。これが戦争である限り、素直に喜ぶべきでしょう」
チャールズ元帥も、ハーバー中将も、釈然としない思いを抱いている。少なくとも、ウィニペグは無傷で奪還できだが、これから、日本軍が何をしてくるかわからない。
「敵は、まだ勝算があって、退いたのかな」
「私が思うに、敵は、ロッキー山脈に立て籠るつもりやもしれません」
「それもそうだ。だが、私はどうも、敵には裏がある気がするんだよ」
チャールズ元帥は、何とはなしに不安に見回れている。ロッキー山脈で防衛戦を展開するつもりだと言えば、そうなのかも知れないが、敵は、まだ他の策を持っていると、彼は感づいている。
「閣下、過度に敵を恐れないほうが良いでしょう。将兵の士気に関わります」
「そうだな」
だが、ハーバー中将は、敵には打つ手なしと断じている。証拠無しには、何事も信じないのが、ハーバー中将である。
だが、その証拠が飛び込んできた。艦橋に早足で訪れたのは、ニミッツ大将である。
「閣下、先ほど、日本軍の第六艦隊が動き出したとの報がありました。現在は、カムチャッカ半島の東650km付近にて、サスカトゥーン方向に進行しているとのことです」
「増援、か。日本軍も、相当追い詰められていると見える」
第六艦隊が出た時点で、日本本土には艦隊が残らない。それは、ソビエト共和国等と開戦した場合に、戦力が不足するばかりか、これ以上の戦略予備が無くなることを意味する。即ち、限界まで、戦力をこちらに回してきたということだ。
「ですが、厄介であることには、変わりはありません」
ハーバー中将は、敵の増援は危険だと言う。
「そうだな。だとすれば、ここは、サスカトゥーンまで速攻で攻めいるべきかな」
「私も、そう思います。補給は済んでいます。一刻も早く、攻撃に移るべきでしょう」
敵が合流する前に潰す。その戦略には、誰しもが賛成している。
「では、全軍に、出撃の支度をさせてくれ」
「承知しました」
ウィニペグは、急にあわただしくなる。ここに来てから僅かに1日で出撃するだろうとは、誰も思わなかったのである。だが、着々と、出撃の準備は整っていく。各所を点検し、燃料弾薬を積み込む。
「敵がサスカトゥーンにたどり着く前に、サスカトゥーンにたどり着かなければならないな」
「敵が全力で来たとしても、およそ7日はかかります。対して、ここからサスカトゥーンへは、17時間程度。間に合うでしょう」
日本本土と、サスカトゥーンとの距離は非常に長い。飛行艦で来る場合には、およそ7日がかかるのだ。よって、敵の増援が来る前にサスカトゥーンを落とすのは、容易だと思われる。
「よし、では、電撃戦といこうか。この戦いは、結果によっては、戦争の勝敗を決めるものだ。全軍、心してかかれ。全軍、離陸せよ」
サスカトゥーンに居座る日本艦隊は、北アメリカ大陸の日本軍全体の60%にあたる。それを壊滅させれば、戦争の天秤は、アメリカに大きく傾くだろう。
米艦隊は、僅かに2日でウィニペグを飛び立った。