世界の大勢について 崩壊暦214年8月
珍しく、歴史をプレイバックみたいなやつです。
世界は、この一年で大きく変わった。サスカトゥーンに向かう道中、東郷大将は、そんなことを思っている。
ある時、東郷大将は、そこらをほっつき歩いていたコウに話しかけた。
「なあ、コウ」
「んっ、なに?」
「君の目には、この世界はどう写る?」
「こっ、この世界?」
東郷大将の突然の質問に、コウは、度肝を抜かれたようだ。質問のスケールが大きすぎる訳である。もっとも、コウの方が生きている年数は上らしいが。
「そうだな~、昔とあまり変わらないんじゃ、ないかな。ボクは、あんまり詳しくないから、わからないけど」
「変わらない、とは、どういうことだ?」
東郷大将は、コウの呑気な発言にも、真剣に耳を傾けている。コウの言葉には、真理が含まれているような、そんな気がしたのだ。だが、二人の間の雰囲気は、重い。
「結局戦争してるし、屍人のお陰で人類が団結した訳でもないし、そういう感じかな」
「なるほどな。それと、君は、この世界について、本当に何も知らないのか?」
「殆ど知らないよ」
「例えば、大東亜連合は?」
「何、それ?」
コウは、本当に知らない様子である。その現状に、東郷大将は、ため息をつく。
「ああ、知らないか。私は、一皇民として、子どもに教育の機会が与えられないのは、不憫と思うからな。流石に、世界を知るべきだと思うぞ」
「そう」
コウには、世界を知る権利があると、東郷大将は思っている。まあ、時間があれば、何らかの待遇は与えたい訳だが。
そんな時、仕事を終えたとおぼしき東條中佐が、二人の目の前に差し掛かった。これみよがしと、東郷大将は東條中佐を捕まえる。
「東條中佐、少しいいかね?」
「はっ、はい、閣下。何のご用でしょうか」
「この子に、世界の大勢を教えようと思ってな。教えてやってくれたまえ」
「世界の大勢、ですか?はっ、はあ。いいですよ」
東條中佐は、東郷大将の無茶ぶりに少々呆れているが、素直に了承する。そして、コウに、世界のいまを教えるのであった。
世界の六大勢力は、互いに牽制しあっている。
現在、戦争が起こっているのは二ヶ所である。欧州合衆国は、アフリカ内戦に干渉し、政府軍を支えている。そして、大東亜連合とアメリカ連邦は、戦争状態にある。
同盟関係としては、伝統的に、大東亜連合は、アラブ連合と欧州合衆国とは比較的友好的な関係を築いており、ソビエト共和国とアメリカ連邦とは対立してきた。それが、現在に至るまで続いている。但し、ソビエト共和国とアメリカ連邦は、非常に仲が悪い。
アフリカ内戦は、6年前の反政府デモから始まったものだ。当初、反政府軍は、圧倒的な民衆の支持により、次々と政府軍を撃ち破った。
しかし、状況は変化した。アフリカ政府に対し、欧州合衆国が支援を表明したのだ。大国の軍隊の前に、民衆は勝てなかった。内戦は泥沼化し、現在に至っている。
そして、アメリカでの戦争についてだが、直接的な原因は、4年前に遡る。舞台はオーストラリアであった。オーストラリアは当時、混乱の中にあった。オーストラリアでは、中央政府を定めないまま、都市の連合という形態でもって、一応の独立を得ていた。
しかし、5年前、オーストラリアで最有力の都市であるシドニーが、他都市への侵攻を始めたのである。これは、シドニーがアメリカ連邦の支援を受けていたことによるものだ。即ち、アメリカ連邦が、内戦を引き起こしたのである。これより、オーストラリアの都市は幾つもの勢力にわかれ、骨肉の内戦が始まった。
そして、4年前、帝国軍は、反シドニー勢力と同盟し、オーストラリアの平定に乗り出した。内戦に疲れた民衆は、賛成も反対もしなかったが、およそ、オーストラリアは平定されていった。
だが、そこで、アメリカ連邦が異を唱えた。曰く、不法な侵略行為は止めろと言うのだ。当然、帝国は、オーストラリアの自治を認めるつもりであったから、これに抗議した、そもそも、侵略を始めたのはアメリカ連邦であり、我々は平和を求めるだけであると。
だが、アメリカは態度を変えず、遂には、オーストラリアからの完全撤退まで宣告してきたのだ。そして、多くの資源の禁輸すら、宣告してきた。
これに対し、帝国は、オーストラリア大陸の平和と、帝国と東亜の自存のため、宣戦を決定したのだ。現在では、オーストラリアは平定され、アメリカは締め出され、平和が訪れている。もっとも、帝国が戦争に突入してしまったが。
だが、これは表面的な理由であって、根本には、アメリカ連邦の太平洋進出政策と、大東亜連合との衝突がある。現在では、南アメリカはアメリカ連邦の支配下にある。まあ、これは語らずとも良いだろう。
「へえ、東條さん、ありがとう」
「いえいえ、やれと言われただけですから」
「ご苦労、中佐」
三人は、それぞれの目的地へと、散っていった。