セントポール攻防戦Ⅲ
崩壊暦214年8月5日15:56
米艦隊は、敵の予想外の突撃の前に、統制を乱されていた。中央と左翼では、艦隊が敵の挟撃にあい、被害は甚大である。
しかし、未だに合計した戦力においては、米艦隊が勝っており、勝ち目がなくなったというには程遠い。
アイオワでは、チャールズ元帥が、艦隊の制御に努めている。しかし、それだけでは済ませない。彼は、大規模な反撃を画策しているのだ。
「右翼艦隊、敵に同じことをかましてやれ!敵の左翼へ突撃せよ!中央、左翼艦隊は、その場で持ちこたえ、防御に努めよ!」
日本艦隊は、米艦隊がその左翼を敵中に放っておくとは思わないはずだ。恐らくは、一度体勢を整えようと、全艦隊で集まったところを囲み込んで、殲滅するつもりだろう。米艦隊の右翼さえ叩けば、米艦隊の戦闘力は大きく削がれるからである。
しかし、チャールズ元帥は、そんな堅実な策は選ばない。
敵の罠に嵌まっても勝機は十分にあるが、チャールズ元帥は、より完璧に近い勝利を求めた。
「全艦怯むな!敵を貫け!」
右翼艦隊は、敵の左翼に対し、日本艦隊がやったように突撃を開始する。今度は、こちらのターンである。
味方の左翼は放置し、米艦隊は一直線に敵に向かっていく。
対艦ミサイルと、主砲は火を噴き、日本艦隊にじわじわと被害を与えていく。
敵の左翼は、こちらの元左翼への攻撃と、右翼艦隊の迎撃に追われ、有効な攻撃をできていない。確かに、米艦隊のそこらに砲弾は当たっているが、米艦隊の勢いを削ぐには至っていない。
「くっ、当たったか。進めるか、ハーバー中将?」
その時、アイオワにも敵の砲弾は飛来した。アイオワは上下に激しく揺れる。しかし、いくら艦か傾こうが、進めるものは進むのである。
「はい、問題ありません。対空砲が少々破損したのみです」
「よし、アイオワが止まっては示しがつかないからな。進め!」
既に、数隻の艦は大地に落ちていっている。しかし、艦隊の主力は、煙を上げているが、今なお健在である。米艦隊は、鬼神の如し勢いで、日本艦隊に迫る。
「最後に、全対艦ミサイルを斉射し、敵中に突撃!そのまま敵を貫け!」
両艦隊は、再び極近距離に迫る。米艦隊が対艦ミサイルを放つと、敵も同時に対艦ミサイルを放った。
そして、ついに両軍は激突する。
日本艦隊の間に米艦隊が入り込み、砲弾を四方八方に撒き散らし、敵に新たな混乱をもたらす。
米艦隊はところ構わず砲弾をぶちまけているが、敵は、味方に当たる可能性から、全力を出せないのだ。例え囲まれようが、米艦隊の優位は揺らがない。
日本艦隊の陣形は裂け、米艦隊はその裂け目を更に拡げていく。至近距離で撃ち込まれた砲弾は絶大な破壊力を発揮し、鉄屑が地上に次から次へと地上に落下していく。
「敵の背後にまで進め!敵の殲滅は目的ではない!」
チャールズ元帥は、混戦に入った米艦隊を整え始める。そもそも、目的は敵の背後に回り、敵を挟撃することである。
米艦隊は、敵を砲撃するや、次々と前進していく。日本艦隊は、完全に真っ二つに裂けた。
「単縦陣を再編!敵を砲撃しつつ、味方の救援に向かえ!」
米艦隊は、その背後で陣形を整え、裂けた敵に砲撃を開始した。同時に、現在、左翼と中央を攻撃している日本艦隊に向かって進路をとった。
「ニミッツ大将に、攻撃に移れと伝えてくれ。我々は敵を挟撃する」
チャールズ元帥と反対側では、ニミッツ大将率いる左翼と中央が、攻勢を強める。同時に、チャールズ元帥は、その敵の後ろをとる。
未だに数の優位は保たれている。チャールズ元帥は、勝利を確信した。




