泣いたイケメン
会社の先輩の家に遊びに行った時の事である。
会社の先輩には、中学生と小学生の子どもたちがいる。
私は、その子たちが小さい頃に読んでいた絵本たちを見せて頂いていた。
世代を超えて親しまれているお話(お猿のジョージやバーバパパ)に、桃太郎といった王道の童話。
懐かしい気分で絵本のタイトルを眺める。
ふと、一冊の本が目に止まった。
『泣いた あかおに』である。
「泣いた 赤鬼!!懐かしい!初めて読んだ時、超泣いた!」
先輩はしれっと答えた。
「そう?子どもたちの反応はイマイチだったわ・・・。全体的に興味を引かないみたい。泣いた赤鬼っていってもねえ。そもそも今の子は手にとらないでしょ。」
「あんな名作なのに、何てもったいない!!読んでみれば面白いのに!」
そこで思いついてしまった。
「タイトルを『泣いたイケメン』に変えよう!!」
青鬼の手紙を読みながら膝を崩して泣き崩れるイケメンの画像が脳裏を駆け巡った。
美麗イラストで絵本化して欲しい。
「絶対人気でる!」と息巻く私に、一緒に来ていた後輩が「面白いかも~。」と相槌を打つ。
基本、職場の後輩は先輩の意見に逆らわないのがデフォルトである。それを考えると、今の後輩の態度は、まあ普通で、とくに面白いと思ってないけど適当に相槌した感じだ。
後輩の反応は放っておくとして。
イケメンがなぜ、村人から嫌われて人里離れて一人暮らしをしているのか。
鬼の血が入っているとか適当な理由でもつけてやればよい。
なんだか行けそうな気がしてきた。
しかし、昨今のイケメンブームに、美人すぎる〇〇など、見た目が良いことを良しとする社会の風潮に、古典童話の世界まで乗っかって良いものか。
昔は、「見目形麗しき」とか詩的に表現されていたものが、もはや「イケメン」。直球すぎてどことなく下卑て感じるのは私だけではないだろう。
子どもの頃から「イケメン=正義」みたいな社会の風潮に染まって欲しくない。それに、「イケメンが可哀想。」とか言って泣く子どもは見たくない気がする。
子どもには、「泣いた赤鬼」のままで、でも大人な私は「泣いたイケメン」をちょっと見てみたいと思ったのだった。