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Change the World ~失ハレル世界~  作者: 青鷺 長閑
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~第五話~ 第二の鍵


〝お前は生きる世界を失った″


 さっき男に言われた事を僕は反芻する。

「第一の鍵を見つけ出したな」

 背後から突然声がかかる。でも、もう驚きはしなかった。

「そういうことか」

「そういうことだ」

 脳裏には『絶望』の二文字しかなかった。

 この世界の僕は「存在しなかった」ことになるのか……

「では第二の鍵を探してもらおう。まだ予定の四十八時間は過ぎていないが、繰り上げて指示を出す」

「次は何だ。これをして何になる」

「何になると言う問題ではない。この使命を為さねば、お前は烏有に帰すのだ」

 ったく、何だってんだよ……

「第二の鍵、これも今から四十八時間後までに探しておくことだ」

 言うと、男はやはり最初からそこには誰もいなかったかのように薄っすらと消えた。


 ただし、今度は僕も巻き込んで。

「うわぁぁあっ!」

 闇に呑みこまれたイメージ。凄まじく頭がくらくらする。酔いそうだ。


~・~・~・~・~・


 気付いたらそこは夜の自宅だった。

 僕はもう慌てることもなく電気をつけ、テーブルに放置された新聞を読む。

 ヘッダには


〈毎日日報・2011年3月30日(水)〉


 と書かれていた。

「戻ってきた……のか……?」

 それにしては人気に乏しい。家の中に居てもそれくらいは分かった。

 外へ出ると、そこはやはりさっきと変わらぬ街並みで、やはり、僕の知る地元ではなかった。

 すると僕は時間旅行は終えたけれど、その第二の鍵とやらをこの反実世界で見つけ出さなきゃならないのか。


 さて、どうする。


 この世界に僕は存在しない。だが理論的に言えば、今度は両親や妹がいるはずだ。でも家にはいない。

 つまり、家という「物体」だけは存在しても、僕の家族自体が消滅してしまったと考えて良いだろう。

 ではどこまでいないのだろう。一親等? それとも二親等?

まさか由緒正しき河上家先祖代々なかったことになってるんじゃないだろうな。

 家を見渡すと、そこには一つ、見慣れないものがあった。

「僕の……写真?」

 そこには青い背景に写し出された僕の笑顔があった。しかも凄く幼い。

 


 その下には、


 

~・~・~・~・~・


 

 外は荒れていた。

 でも僕はそんなのお構いなしに、昔からよく来ていた河上家の墓前に居座った。

「親父、母さん――」

 存在しないのではなかった。


 この時代で既に死んでいた。

 死因なんて分からない。比較的新しいその墓には妹の名も刻まれており、卒塔婆は四つ。


 つまり、こうも刻まれていた。


〈長男・渡 平成十一年 五月三日 没〉


 なんと、まあ。

 僕は平成七年生まれ。この世界でもそうだったのなら、僕は四才という若さでこの世を去ったというのか。

 道理で、稔も知らなかった訳だ。いくら小学校から友達だったからと言って、入学時点で存在していないのなら知ろうはずもない。


「そういうことだったのか……」

 だがこれが第二の鍵だとはどうも思えない。

 第一の鍵で僕が周りの人達にとって知られた存在でないのは明かされた。今分かった事実は、その追記みたいなものだ。


~・~・~・~・~・


 帰り道。


 帰宅するにはやはりいつもの商店街を通らねばならなかった。


 行きの時は気付かなかった。並ぶ店が見知ったものになっているということに。町の名が元に戻っているということに。国道が311号線と標されているということに。


「……戻ってる?」

 いや、そうではない。だって隣家は全然知らない人の家だったから。

 すると、この店だけが僕の世界のものにトレースされているのか。それとも、元々こうだったのか。元々こうで、三十年後には全て違う店にリニューアルされていたのか。


「見つけたようだな」

 今度は家の外で、背後から声が聞こえた。

「何をだ」

「第二の鍵だ」

「待て、僕はこの世界この時代で二つ、見つけた事実がある」

「どちらも、鍵だ」

「分からん」

「だろうな。お前のような脳無しには到底分かるまい」

「馬鹿にするのは構わん。説明しろ」

「鍵は全部で三つだ。全て見つけだせたなら、お前は元の世界へ戻ることが出来る。今も生きてる世界にな。しかし、」

「まだ何かあるのか」

「第二の鍵で見つけた。お前がこの世界に長く居れば居るほど、お前から見た元の世界とパラレルワールドは入れ替わってゆく」

「何だそれ」

「タイムオーバーならば。お前のもと居た世界は全てこちらにトレースされ、入れ替わりにこちらにあったものはあちらに行く。つまり――」

「こっちで生活しろってか」

「タイムオーバー後、お前が解答を見つけ出し元の世界に戻れば、そこは名も知らぬ近隣に囲まれ、名も知らぬ店の常連にならざるを得ない『存在するだけ』の世界と為り、しからばと言いこちらの世界に居らば、近隣、店を知ろうともお前を知る者は誰一人としていない世界と為ろう。即ち――」

「時間切れになる前に第三の鍵を見つけろってか」

「全てを含めた制限時間は三日間だ」



 最初に来たのが二十七日。……猶予はあと今日だけってことか。



「では問おう、少年よ」


 第三の鍵は問題形式なのか。


 こちとら答えやすくて良いがな。


 ところが、訊かれたのは僕の分かるはずもないことだった。脳無しだと思うのならもっと簡単なの出せよな。




「私は誰だ」



 脳軟化症か、コイツ。


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