~第一話~ 春
冬。
日曜。
朝。
この三語で連想する形容詞。そう、一つしかないだろう、
「眠い」
相変わらず窓からは日が差している。なのに、
「寒い」
布団に潜り込む。足が冷える。
遠くから、正午を告げるサイレンが鳴る。じゃあもう朝じゃねぇじゃん……
河上渡、それが僕の名前。外見中二、中身は小二、実際高一射手座のA型。
名前、身分、星座、血液型はおそらく間違っていないが、それでも高校生という身分を名乗っていいのかは甚だ謎なところ。
で、外見が中二というのもあながち間違いではない。趣味のサッカー観戦は未だに中学生チケットで入場できるんだからね。「みみっちい」とか思わないでくれよ。一シーズンフルで観に行けば実に三千円の得になる。
中身はと言えば、精神的には外見のそれを超えるだろうが、学力からみれば一ダース年くらい現年齢を下回る。九九で挫折したのは言うに及ばず。あ、七の段ね。7×8=54。8×7=56。ちなみに繰り下がりのある引き算も苦手中の苦手だ!
「ふぁぁあ……」
大きなあくびをして、嫌々布団から脱する。
もう昼ではあるけれども、特に焦りはしない。それは今日が全国一斉休閑デーだからかも知れないが、僕にはもっと理由がある。それがさっき言った、僕が明確な身分を名乗れない理由でもある。
もったいぶっていても仕方ないから言うが、今は中三の春休みなのだ。
つまりは、受験と言う名の、日本が平和主義を謳ってなお終結しない戦争の一つを過ぎたばかりであり、そしてその仁義無き戦いで僕は見事勝利を収めたのだった。
それでも日本なんてまだ生易しいものなんだよな。韓国と言ったか中国と言ったか、定かではないが、発展途上国かと問われればそうではないかも知れないがかと言って先進国と断定すれば誤っているかも知れない程度の東アジア諸国なんかはもう本当に、地雷の代わりに核兵器を埋めんばかりの知略の限りを尽くしたし烈な争いが続くそうじゃないか。
ともかくそんなことはさて置いて、先日の合格者説明会で配られた予習ワークにもさらさら手を付ける気も起こらず、残り少ななフリーダム生活を消日するのだった。
いや、こう言い換えても良い。するはずだった、と――
さて、話を戻そう。
いつも通り気ままな時間に起きては適当な時間にメシを食べ、また恐らくかつての吉田兼好さんより徒然なるままに携帯ゲームで一狩りして過ごす一日。
でも、毎日毎日そんなことをしていては流石に飽きもやってくる訳だし、何よりいくら将来の夢がニートだからと言って一週間も外出しないでいては健康にも悪い。これまた布団と同様、嫌々ながらもトレンチコートを着てちょっと散歩することにした。
玄関を出ると、初春とは言え寒さはやって来る。冬の肌をつんざくような、というほどではないけど、それでも吐息が空気中で白く滲むくらいではあった。
自慢じゃないが家の近くにはどんなに居ても飽きない店がずらりと立ち並んでいる。都会な方ではないけど一高校生が暇を潰すには最適の立地条件にあった。
さて、どこから行こうかな。
一直線に続く道で歩を進めながら、とりあえず僕が向かった先は、レンタルビデオショップ兼書店だった。
携帯で時間を見るに今は二時半。
面倒だし、夜までこの辺で暇潰ししてよう。