5話:なんとも言えない情報
神坂の特大ホームランでざわつくグラウンド。
2,3年生も一年生の打球に驚きを隠せずにいた。
「あれが神坂か」
「推定飛距離140位はいってたんじゃね?」
と話す2,3年生とは真逆に1年生は言葉も出なかった。
同じ1年生として規格外の飛距離に度肝を抜かれており、“これは適わない”という気持ちにさえなっていた。
(ん~、こら本物やな。ホンマ、来てくれて嬉しい限りやな)
と神坂を見ながら心の中で話す栗原。
その栗原はマスクを取りながら神坂に話しかける。
「どいやった?アイツの球」
「いえ。スピードの割には、物凄い軽かったです。今でも打った感覚はないですが。でも打球は向こうへ跳んだので当たったんだと思います。」
と素直な感想を言う神坂に栗原は思わず笑ってしまった。
まさかここまで言い倒すとは思いもしなかったのだ。
勿論その話を聞いていたマウンドの一年生もガンとショックを受けるも、ぐうの根も出なかった。
「さてまずは打を見せつけられた訳やが、投の方は・・・・なんかアカンそうやな」
とマウンド上で放心状態に陥っている一年生に栗原はポリポリと頭をかきながら近づくとユサユサと肩を揺らしながら話しかける。
「お~い。どないすんのや~?俺も忙しいんやけど~?」
「あああああ…そんなバカな。これはマグレだマグレだマグレだマグレだ」
「うん。こらアカンわ。はい撤収~、練習始めよか~」
と腕を振りながらマウンドから降りていく栗原。
放心状態の一年生選手は他の一年生に引きずられるように降りていった。
「おう村神。悪いな準備してたんに」
「い、いえ」
と苦笑いを見せる栗原に笑みを浮かべながら返事を返す秀二。
秀二も少し残念そうに栗原の後をついていくように練習へと向かう。
「神坂ナイバッチ」
「ありがとう。でもマジで打った感覚がない。あんなの初めてだ。それにあの投手は全国出てたらしいが記憶にないんだが?」
「ん~、確かいたような…でも当たっては無いよね。当たってたら分かるはずだし。」
と話をしながら練習へと向かう秀二と神坂。
余談ではあるが、マウンドで投げた一年生投手は中学3年生の最後の大会で対戦相手が自滅したりと、あれよあれよと勝ち上がり全国に出場した選手である。
全国での結果はと言うと、本人は試合当日の腹痛で試合には出ておらずベンチで座っておりチームは初回に8点を献上するなど結果21-9で敗北。
なんとも言えない結果と、彼の情報。
その彼はと言うとやっと我に返ったのか、すごすごと他の一年生とともに練習へと向かって行った。
初日の練習は多少の出来事はあったが無事に終了し、秀二ら一年生達は最後にグラウンド整備を行って終了となる。
すでに空は暗くなっており、練習用のグラウンドは照明があり昼間のように明るいが一歩出るとすでに暗くなっている。
トボトボと帰っていく秀二達。
すると嶋本が話し出した。
「そういやぁここって女子マネいないの?」
「いるぞ。今日は初日という事で教室でマネージャーを集めての研修みたいな事をやってる」
と嶋本の問いに答える浦原。
どうやら女子マネージャーの事が気になっていた嶋本、また嶋本以外にも気になっていたらしく女子マネージャーの存在に安堵の表情を浮かべる一年生達である。
因みに女子専用の寮もあり、他の部活動と混合での寮生活を行っており、中には実家から通う生徒も男女問わず存在する。
現に一年生野球部にも通いの選手がおり大会期間中以外はほぼ毎日実家から通っているんである。
「そんじゃあ明日から来るんか」
「の予定だな」
「いいねぇ、やる気出てきたぜ~」
「全く、達也は女子の目ばかり気にする」
とノリノリな嶋本が小走りで集団の先を行くと晋太郎はハァッとため息をつき、神坂や秀二らは苦笑いをしながら嶋本の後を付いていくように歩く。
初日はある意味ハードな物となったが、秀二はどこか疲れより先にこの後の生活にワクワク感を持っていた。
そして、静岡の地で頑張る俊哉の事も気になった。
(トシは大丈夫だろうか。。。でも前に電話した時は練習も楽しく出来たって言ってたし、それに何人か有望な選手が来てるって言ってたしな。まぁトシなら大丈夫だろう)
と自分で納得する秀二。
他人の心配よりまずは自分の事をと自分の胸に言い聞かせ寮へと戻るのであった。
次回へ続く。