4話:ピンポン玉
栗原の声が響いたグラウンド。
それと時を同じくして桜月監督がグラウンドへと足を運んでおり先ほどの出来事を聞いていたのか何も言わずジッと栗原のいる集団を見つめる。
そして栗原もまた冷静になったのか頭をポリポリと掻きながら苦笑いをしながら話す。
「ん~、まぁさっきの言葉は理不尽すぎたなぁ。確かにアンタもそれなりの実力者ではあるという事やんな。そこでや、ちょい対戦してみいへんか?アンタとこの村神と神坂と。」
栗原の言葉に周りはざわついた。
先ほど威勢を張った一年生もその言葉に驚きはしたが、ニッと笑いながら話し出す。
「っつー事は、もし俺があの二人に勝てたら俺も練習に参加して良いんすかぁ?」
「おう、ええで。この二人に勝てるいう事は、二人以上の実力いう事やからな。なぁええんやろ?監督」
とすぐ近くまで来ていた桜月監督にクルリと振り向きながら話す栗原に桜月監督は顎鬚を摩りながら少し間を開け話した。
「うん。いいよ♪」
とグッと親指を立てながら軽い口調で話す桜月監督。
監督の許可がおり、唐突に対戦が始まった事で他の選手らも周りに集まりだす。
「なに?喧嘩?」
「いや。ほらあの村神と神坂に喧嘩売ってきた一年生がいてさ、最初栗原がしっ責したんだけど対戦して勝てたら上で練習参加許可をするって話になったんだよ。」
「へぇ、んで栗原本人がマスク被るんだ」
とキャッチャーの支度をする栗原を指さしながら話す選手。
その栗原はまずキャッチボールをしてアップをしている先ほどの一年生に向かって話し出す。
「おう、お前から投げてええで。それとも先打つか?確かエースと四番やったんだよな?」
「まぁ俺の本職は投手なんでぇ、先に投げますよ~」
とヘラヘラと笑いながら話す一年生選手に栗原はウンウンと頷きながらマスクを被り座る。
「おっしゃ、俺が受けたる。村神も同じやからこれで不公平はないからエエやろ。もちリードもちゃんとするから安心しいや。」
と話しながら先ほどの一年生の元へと歩いていきサインの確認をしに行くと、一年生選手は“自分、ストレートが売りなんでストレート一本で十分っすよ”とドヤ顔で言いながらニタリと笑う。
そんな彼に栗原は笑顔で“あっそ”と返しホームへと戻り座るとバットを持った神坂を呼び寄せいよいよ対戦が始まった。
(ストレート一本かぁ。こら難しいなぁ・・・どんな球威かが分からんからコースで攻めるか力で攻めるか悩むなぁ。しかし、なんやこの威圧感は。反則やぞ)
と右打席に立つ神坂を見ながら彼から漂う威圧感に反応を見せる栗原。
栗原は神坂を見ながら“こら難しいわ”と小声で呟くとパパッとサインを出す。
(フフフ。神坂から何も迫力すら感じない。アイツから小物感しかしないぜ)
と考えながらザッと大きく振りかぶり大きなフォームから一球目を投じた。
(お。言うだけあってそれなりのたm…あ。)
投げ込まれたボールを見ながら感心する栗原であるが、全ての文章を書ききる前に風を切るようにスイングされたバットにボールが乗せられるとピンポン玉の様に弾き返されたボールは栗原でも見たことのない角度とスピードでレフト方向へと飛んで、消えていった。
「あああああああああ!!」
ガクガクと震えながら言葉を漏らす投じた一年生選手。
栗原はマスクを取りながらマウンドで震えている一年生選手に向けながら言った。
「な、言うたやろ。特別やってな。こらぁ、村神も楽しみやんな」
次回へ続く。