95話:勝つための策
同点に追いついた七回。
陵應学園は追加点を取りたい所だが、神嶋の前に後続が倒れてしまい七回は同点止まりで終わってしまう。
その七回裏は羅森学園の攻撃。
打順は二番の矢野から始まる上位打線である。
「さぁシュウ。抑えるで!」
「はい!!」
マウンドで気合をいれる栗原と秀二。
その秀二は矢野に対して強気のピッチングを披露する。
「ストライク!!バッターアウト!!」
矢野をフォークで三振に打ち取りこれで11連続三振を記録。
同点になった事で秀二の調子が上がっており、矢野も手が出ない。
そして三番打者に対してもあっという間に追い込むと最後はアウトコースへストレートを投げ込んだ。
「ストライク!バッターアウト!!」
アウトコースへのストレートが決まり見逃し三振。
またそのストレートの球速がスコアボードに表示されており、その数字に球場中がどよめいた。
「153かよ、、、」
ベンチからそう呟くのは神嶋。
その表情は苦虫を潰したように悔しそうだ。
「面白くねぇぜ、、、本当に。」
これで12連続三振を奪った秀二。
二死となり打席には四番の竜崎が入る。
(竜崎か、、、)
左打席に入る竜崎を見る秀二。
先制打を打たれた時は竜崎の一打から始まった為、警戒心を強める。
竜崎との対戦が始まると秀二は初球からフォークを投じてくる。
「ストライク!」
ストンと落ちるフォークに空振りをする竜崎。
狙っていたようだがバットは当たらない。
続く二球目はストレートを投じ竜崎はこれも空振りツーストライクと追い込まれる。
「13個目くるか?!」
当然13連続三振を期待するベンチやスタンドの応援団。
だが結果は皆の予想を裏切る結果となった。
ギィィン、、、
「センター!!」
秀二の投じたのはストレート。
このボールを竜崎は見逃さず振り抜くとバットに弾き返された打球がセンター方向へと飛んでいく。
一瞬ヒヤリとする打球の角度だったが、センター谷本はゆっくりと前に出始めグラブを差し出し捕球しアウトとなった。
「アウト!チェンジ!!」
「、、、よし」
最後の打者をアウトに取りグッと小さくガッツポーズを取る秀二はマウンドからおりていく。
だが球場の観客は竜崎の打球というより秀二の記録していた連続奪三振が途切れた事にため息を漏らしていた。
連続奪三振が途切れるも秀二が奪った三振はここまで14個。
その内、連続奪三振は11個。
「こいつはぁ、、、本物だぜ。」
スタンドでビールを飲みながらそう話すおじさんの顔は嬉しそうであった。
そして試合は1対1のまま九回へと突入する。
八回の攻防は互いに三者凡退に終わる。
羅森の神嶋が七番松村を三振、八番佐野をショートへのゴロ、九番嶋本をサードゴロに打ち取ると、その裏の羅森の攻撃では秀二がこの回も圧巻のピッチングを見せる。
ギィィン。。。
「クッソ、、、!」
五番本多から始まる打線の羅森学園だったが、本多を三振に奪うと続く六番打者に対しても三振を奪い二者連続三振。
最後の七番キャッチャー向井に対してはセンターへのフライに打ち取りアウト。
チェンジとしたのだ。
そして最終回でもある九回の攻防へと突入だ。
表の陵應学園の攻撃は一番谷本から。
「よっしゃ谷本出ろや!!上位打線からや!!」
「おう!!」
ベンチから栗原の言葉が飛ぶ。
上位打線から始まる打線のため1人でもランナーが出れば同点タイムリーを打った栗原へと回ってくる。
だがここまで100球を越える球数を投げている神嶋だが調子は落ちない。
ギィィン。。。
「センター!」
谷本の打球はセンターへのフライになってしまいアウト。
一死隣二番安斎が打席へと立つが、その安斎もサードへのゴロに打ち取られてしまい二死となってしまった。
そして打席に入るのは神坂。
(ここで俺が出れば、、、栗原さんに回る!!)
何としても出たいと願う神坂。
右打席へと入る神坂はバットを構えるとマウンドに立つ神嶋をみる。
(打つ!!)
初球だった。
神嶋の投じたストレートを神坂がバットを振り抜くとボールが弾き返される。
“キィィン”と響く快音。
快音を残した打球は鋭い弾丸ライナーで三遊間を抜けていくレフトへのヒットとなったのだ。
「神坂の野郎!!」
一塁を回り止まる神坂を睨む神嶋。
二死ながら一塁に神坂をランナーに置き、一番嫌な打者を迎える事になる。
「頼むぞ栗原ー!!」
ベンチから声が飛び交う。
その声援に押されるように栗原が打席へと向かう。
「さぁ来いや神嶋。」
「ここでかよ。。。いいぜ!相手になってやるよ!」
やる気満々の神嶋。
するとキャッチャーの向井がベンチの方をチラリと目をやると監督からのサインに少し驚いた様な表情を見せながらもコクリと頷くと、神嶋にサインを出す。
「なん、、、だと!?」
向井からのサインに顔色が変わってくる神嶋はすぐに向井を呼ぶ。
タイムを取り向井がマウンドへと向かうと、神嶋はグラブで口元を隠しながらも強い語気で話を始めた。
「おい向井、、、どういう事だ!?」
「、、、これも戦略だ。」
「俺は認めねぇぞ、、、こんな弱い奴のやる事なんざ。」
「監督からの命令だ。従え。」
「うるせぇ、、、従えるかよ!俺様を誰だと思ってやがる、日本一の投手になる神嶋様だぞ!?」
「もし村神だったらこのサインを承諾していただろうな。」
「何ぃ?!」
「アイツはチームの勝利のために躊躇なくこのサインを選択するぞ。日本一の為にな。お前はどうだ?栗原は一本出れば二本、三本と打ち続ける選手だ。チームにも勢いを与える選手でもある。ここで打たれるのは非常に危険と見てのサインだ。」
向井の言葉に神嶋は何も言い返さなかった。
何より、秀二なら承諾していたという言葉が神嶋の心に響いていた。
「わかったよ、、、今回だけだ、、、」
「すまんな神嶋。」
「お前からのお願いだから聞くんだ。」
そう言いながらボールを手にする神嶋。
向井が守備位置へと戻ると座らずにそのまま左側へと大きく離れる。
その行動に球場中がざわついた。
「敬遠?」
「みたいだな。あのプライドの高い神嶋がまさか敬遠を選択するとは、、、」
「それだけ本気なんだよ。羅森学園は。」
神嶋と向井の選んだ策は敬遠。
これには球場中がざわつき出し、陵應ベンチも驚きの表情を見せる。
「こら羅森学園は意地でも日本一を狙う気だな。」
「ですね、、、」
「村神でもそうしたか?」
ベンチにいた谷本が秀二に話しかけると、他の選手も耳を傾ける。
「勿論。自分は喜んで敬遠しますよ?チームの為ですから。まぁ、、、多少は、悔しいですけど。おそらく神嶋も同じ気持ちだと思います。」
秀二の言葉に選手らは納得してしまう。
チームの為なら敬遠も喜んで受け入れるだろう、だがエースナンバーをつけた者としては敬遠という選択は悔しいという感情が出てくるのだろう。
「これは延長戦あるかもですね。」
次回へ続く。




