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青色の下で・・・神奈川陵應編  作者: オレッち
第壱章~新たな出会い~
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10話:宮間峻というエース

練習試合が終わった翌日から、野球部は普段通りの練習が始まる。

早朝にグラウンドで軽く汗を流し登校。

一日授業を受け、放課後から夜暗くなるまで練習といつも通りの日常である。

変わったことと言えば、村神、神坂、木内の3人が一軍へ上がった事くらいである。


流石1軍とあってか、選手たちの動きやレベルが格段と違う。

全員が陵應の1軍というプライドを持ってやっていると言って良いだろう。


(これが5年連続甲子園へ出てる実力…前の練習試合でもそうだったけど、ひとりひとりのスイングや走塁、守備にも自信がある)


と感心するしかない村神。

そんな日々が過ぎていく中のとある日。

選手全員が寮の食堂に呼び出されると桜月監督が話を始めた。



「さて、ゴールデンウィークの練習試合の件なんじゃが。今年は全部で4試合を行う。最初はウチのグラウンドでダブルヘッダーを含めて3試合。一日置いて遠征で1試合をこなすぞい。最後の二日間は休みじゃな」


とゴールデンウィーク丸々使い練習試合をするのだ。

分かってはいたが世間では行楽する連休であっても休みは最後の二日間のみ。


「これが夏前の大きな連続での練習試合は最後となる。あとは皆々が課題を持って取り込んでくれい」


と話すと『はい!』と声が飛び交う。

この話で解散となり選手たちは自分たちの部屋へと戻っていく。



「秀二」


「何?龍司」


と神坂に呼び止められた秀二。


「おそらく、この練習試合で一軍でスタメンになれるかどうかが決まる。レギュラーを奪い取るぞ」


「もちろん!!」


と神坂に笑顔で返事を返す秀二に神坂も笑顔を見せる。

いきなりの一軍だが、彼らは遠慮することはなかった。

周りに負けず劣らずの力を見せつけている事は間違いない。

彼らには上に行くことしか考えていないのである。


それからゴールデンウィークに向けて練習が始まった。

投手陣はブルペンでの練習が多かったが、グラウンドへ出てのシートバッティングや試合を意識しての練習を多く取り入れていく。

そんな中で、目立つのは秀二であったがひと際異彩を放つ選手がいた。


「…セカン!!」


打者の打ったボテボテのゴロを素早く捕りに行きセカンドへストライク送球を左腕から放つ選手がいた。

彼の名前は宮間峻みやま しゅん

三年生の投手であり、現時点ではチームのエースである。

実力も申し分なく一年の秋からエース番号を渡され甲子園出場に大きく貢献。

140キロ後半の速球と正確なコントロールに多彩な変化球を武器に持ち、プロからも注目される左腕である。

秀二にとって憧れの選手であり、彼のプレーには秀二も目を輝かせながら見ている。


「すごいな…」


と言葉を漏らす秀二。

すると宮間峻が秀二へと近づき言葉をかける。


「俺も負けないよ?」


「え!?いや、宮間さんに比べたら自分は…」


「謙遜しないで。村神君は俺より上だよ」


「いや、はぁ。有難う御座います」


「でも、俺はエースを譲るつもりはないからね。今年で最後なんだから」


と話す宮間峻。

その今年で最後という言葉に秀二は止まってしまった。

あと数ヶ月で3年生は引退し、2年生と1年生で新しいチームへと変わっていく。


短い付き合いの3年生たちであるが、どこか寂しさすら感じてしまう秀二であった。


「よし宮間はあがれ!ちゃんとケアしとけよ!!」


そうコーチから指示が出ると宮間峻は一礼してノックから外れる。

他の選手たちと少しだが早めに終わる宮間峻には理由があった。



宮間峻、彼は実力はプロ注目で陵應の絶対的なエースとして支えている選手である。

しかし彼には、大きなモノを抱えていた。


彼の左肘は故障しているのである。



陵應のエースである宮間峻。

彼は絶対的なエースであるが、その左肘は故障していた。

チームはの打撃力はピカイチであるが大きな課題がある。

それは投手力不足である。

強力な打撃力で予選を突破し甲子園へと出ている程のレベルであるが、1試合での失点は約5~6点と決して良くはない。

そんな中で宮間峻の入学は願ってもない収穫であり、課題を克服する存在であった。


だが、彼に頼りすぎるがゆえに彼の左腕が悲鳴を上げてしまったのだ。

宮間峻が2年生の夏予選の決勝後に違和感を感じ病院へと向かい結果は良くはなかった。


その年の甲子園では一度も登板すること無くチームも3回戦で敗退。

秋の大会は登板するが長いイニングを投げれず継投でどうにか切り抜けていき、選抜には出場できたものの2回戦敗退となってしまった。


投手力の面で再び大きな穴が出来てしまったが、この春それを解消する事が起きた。

村神秀二の入学である。

チームとしても喉から手が出る程欲しかった選手が入学してきてくれたことで穴を埋めてくれると期待感が増していく。

だが、宮間の二の舞にはさせたくないというジレンマもある。


桜月監督もその辺は頭を悩ませていた。

正直なところあと1,2人ほどのいい投手が来てくれればと思っていたのだ。


「さてはて、連休の試合の先発はどうしようかの…」


と夜自分の部屋で考え込む桜月監督。


「情けない限りじゃ…捕手出身であるのに投手ひとり大事に育てられん…これじゃあ監督失敗じゃの…」


とため息をつきながらお茶を啜る桜月監督。

そして夜は更けていくのであった。


翌日の学校。

放課後の練習ではブルペンで秀二が宮間から色々教わっていた。


「うん。そうそう。肘を下げすぎないで」


とフォームチェックを入念に教えてくれる宮間に秀二は真剣に聞いている様子である。


「それなら肘の負担も無い。それに疲れてきたら肘が下がっていく傾向があるから、その辺を意識していけばケガの面では問題ないかな」


「有難う御座います。すごい分かりやすかったです。」


「まぁこの肘のお陰かな。」


と左腕をプラプラと振りながら話す宮間。

秀二はただ笑みを浮かべるしか出来なかった。

おそらく彼は秀二の為に教えてくれているんだろうと感じており、秀二本人もその思いにこたえたいと思っていた。

その光景を目にしていたのは桜月監督。


(ふむ、宮間がいれば心配はなさそうじゃな…だが、あと2人は投手が欲しいのう)


とトボトボと歩きながらグラウンドで練習する選手らを見て回る。

最後に内野ノックをしているグラウンドへと足を運び桜月監督はため息をつきながら呟く。


「ふむ、前途多難じゃの~」


と話す桜月監督。

その隣ではワナワナと怒りに震えている女子生徒がいた。


「何が…前途多難ですか…ナチュナルに人のお尻を触らないでください!!」


「ぎゃん!!」


と言いボコッと桜月監督を殴る女子マネージャー。


「な、殴るんでない!!老人虐待じゃ!!」


「黙れセクハラじじぃ!!」



まさに前途多難な一年が始まる。




次回へ続く。


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