表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

2-4 ( 衣装の人の話 )




アジア雑貨の人、兼、衣装の人の話



(サッカーボールの少年とその友達の話は特に重要でもないように思えた。そういえば加害者の話にはメイクの人の他にもう一人おおきく関わってる人物がいた。その人物に話をきいた。)



1



えと、代々木公園ですか?

よくイベントやってますよね、タイフェスとか武道館ライブとか。

イベントがない日でも路上ライブの練習の人とかサッカー少年とかお香焚いてる人とかいますよ。

行ったことないから見たことないですけど。

いや、いかなくてもそれぐらいのことはわかりますよ。

例えば気になるイベントがあったりしてそのフライヤー見たり検索したりすると会場があそこ、とかよくあることだし、個人的に局所的なフリマやりに行ってる友達の話きいてると大体そんな感じですからね。

興味はあるし行ったら行ったで面白いんだろうけどなんか毎回スルーなんですよね。まあそこら辺だけからでもいかにワタシが行動力がないかがわかっちゃうんですけど。

あ、でも違いました。一度だけ行ったことありましたよ、代々木公園。

ちょっと前に友達づてで頼み事されて、衣装を用意したんですよ。

その衣装を着てある場所に行く、とか言ってて、最初全く興味なくて衣装貸すだけ貸したら放置で終わったら返してね、ぐらいの気でいたんだけど、話きいてるうちに気になっちゃって。

ついて行っていい?とかきくのもストレートすぎるからちょっとひねりをきかせて、尾行することにしたんですよ。

その場所が代々木公園だったんです。

もちろん代々木公園に行くぐらいで衣装が必要になるなんてことはあんまりないんだけどそのときは理由があったんですよ。

知ってます?代々木公園の泉の妖怪の話。


“代々木公園の泉に物を沈めると妖怪がでてきて金と銀に強制変換される”


ていうのなんです。




2



この代々木公園の泉の話てよくヴァージョンアップするんですけど、最初は全然違ったんです。最初はものすごいザックリしてたんですよ。

まず代々木公園には泉は無いんです。噴水はあるんだけど。でもあの噴水、構造がおかしいのか狙ってるのか、雨が降ると盆が溢れるんですよ。

代々木公園の泉の妖怪の話は最初、噴水が溢れてる状態のときにあそこに、


”なんか投げ込むとなんか起こる”


ていうのだったんです。

この話はきいたとたんに話した人をばかにしたくなるぐらいザックリしてるから、投げ込んでなんか起こる、ていうことそのものよりもそのザックリさを笑う為のネタなんですよ。多分元々はワタシの友達が考えたものなんです。

本人が言ってましたからね、アタシが広めた、て。

でもその友達とは全然脈絡無いとこにもそのネタが広まってたからもしかしたらウソなのかも知れないですね。

自分が広めた、ということそのものがネタだったとかで。

2ちゃんとかでも広まってたからそっちのネタの方だったかもしれないです。あの人パソコン触りませんからね。

それも又聞きで広まったってことも考えられるから、結局どっちかわかんないです。

でも普通、このネタがそんなに広まるとは思わないですよね。

広まる程の要素ないですから。

でも広まったんですよ。このネタが少し変わったからだと思うんですけど。

なんか、”あそこになんか投げ込むとなんか起こる”、の代わりに、


”あそこになんか投げ込むと妖怪がでてくる”


に変わったんです。

どうやってその話が広まったのかも、その話がなんでそんな風に変わったのかもわかんないんだけど、とりあえず知り合いがそれに過剰に反応したんですよ。

その知り合いって、なんか水木しげる的なものが大好きみたいでその話を聞かせたら”妖怪がでてくる”てとこに異様に食いついて、”妖怪、ラヴ!愛してる!だから妖怪も俺を愛するべきなんだ”とか叫んでダッシュしてどっか行っちゃったんですよ。

そのとき池袋でみんなでお昼ご飯食べてたんですけど、あのときの豹変ぶりは面白かったですね。

何を話してたか忘れたんだけど、さっきネタ考えた人がいた、ていったじゃないですか。”なんか起こる”を広めたのは自分だ、て言った人。

あの人がご飯食べ終わった後に誰に言うともなく、ぽつり、と言ったんですよ。


”あの噂なんだけどさ、なんか知らないうちに別のができてんのよねー。”


て。

それで別の友達が、どんなの?てきいたら、


”なんかね、あそこになんか投げ込むと妖怪がでてくる、てやつ。”


て言ったんです。前のアンタが広めたネタとあんまり変わってないじゃん!て思って、すぐ突っ込もうと思ったんですよ。

でもそのまえに横に座ってた友達が、ガタタッ、て椅子を揺らして立ち上がってから両手をいっぱいに勢いよく広げながら叫んだんですよ。


”妖怪、ラヴ!”


て。

妖怪ラヴじゃねえよ、て感じだったんですけどね。

しかも叫びながら広げた手がワタシに当たりそうになったんですよ。

ワタシは避けたから大丈夫だったんですけど反対側に座ってた友達は直撃したみたいで鼻おさえて軽くうつむいてました。

妖怪好きのその人はそのまま何も持たないでダッシュでお店をでて走ってっちゃったんですよ。

それまではものすごく眠そうで食べながら寝てたのに、妖怪、て聞いた直後にそんな感じで。

そのお店て通り沿いにあって通りの側はガラス張りで、ワタシ達はそのガラス戸のそばの席にいたんですよ。

だからダッシュした友達がガラス戸越しに見えたんですけど、顔がすごい生き生きしてましたね。あの人の会計しないで行っちゃったんだけど、あんまりうれしそうだったからそのまま見送っちゃいました。

向こうはワタシ達が見えてなかったと思いますし。

人2、3人轢きそうな勢いでしたから。

実際、轢いてましたからね。外に出たら倒れてる人が数人いて、その人たち軽く痙攣してましたから。


それで話ずれたんですけど、とりあえずその妖怪好きな友達はいいとして、”あそこになんか投げ込むと妖怪がでてくる”て話は広まってたんですよ。

別のところでも変形された方の代々木公園の話を聞いたから、あの人が自分のネタを変形させたってわけじゃないみたいでした。

でもやっぱり”なんかでてくる”が”妖怪がでてくる”に変わっただけで、突っ込み待ちのネタにしか見えない、ていうことに変わりはないし、実行する人はいなかったんですよ。

……、池袋からダッシュで代々木公園まで行ったていう妖怪好きの友達ですか?あの人も試してなかったんですよ。なんか、走ってる途中で疲れたから帰った、とか言って、要するに途中で飽きたみたいです。

まあ、池袋から代々木公園まで全速力で走る、て時点で無理があるんですけど。駅5個分くらいありますからね。

そんな感じで代々木公園の話は流れるだけ流れて誰も試さないでに放置されてたんですけど、試した人が出たんです。

一ヶ月ぶりぐらいに出た授業で聞いたんですよ。




3



その授業は行きたくないというよりもめんどくさいから行ってなかったんです。

授業自体は別につまんなくはないんですよ。逆に出たら出たで面白いんです。大教室なのに席は大体埋まってるし寝てる人もあんまりいないくらいですから。

でも出席カードで済んじゃうから出る気しないんですよ。

出席だけしてテストはある程度まともなこと書ければ単位はくれるし、出席カードで出席が管理されてるから誰かに頼んで出席カード出してもらえばわざわざ出なくても出席したことになりますからね。

ワタシは友達何人かであの授業とって、じゃんけんで負けた人がみんなの分の出席カードを持って授業に出てカード出してるんです。

まあじゃんけんで負けて出席カード出しに行くことになってもカードを回収されるのは授業の最初の方だから、最初だけ出てあとは脱出すればいいんですけどね。教室までいく、ていうのがめんどいだけで。

同じようなことやってる人は割といるんだけど、出る人は出る人で割と多いから人気講義で、だから抽選で漏れて悔しがってる人も結構いるみたいなんです。

でも、教室の空いてる席の数よりも出席カードだけ出して脱出する人の数の方がワタシが知ってるだけでも多いんですよ。たまたま学食で後ろに座った人があの授業のこと話してるとかあるから、実はあの授業とってる、て人は結構いると思うんですよ。

前じゃんけんで負けて出席カード出しに行ったとき何となく見てたらほとんど全員カード出してたからモグリの数が多いわけでもないみたいだし。だから普通に全員出席したら席が足りなくて立ち見が出ることになるんです。

なに考えてんでしょうね、あの大学。

まあ立ち見が出たことはないんですけど。不思議です。


それで、一ヶ月くらい出なかったのはワタシがたまたまじゃんけんでの勝ちが続いてたからなんだけど、負けたから出ることになったんです。

でいつも通りに出席カード出してからさっさと帰ろうと思ってたんだけど、なんていうかな、その日は先生が変だったんですよ。

いつもはよれよれのスーツにぼさぼさの髪でヒゲは微妙に生えてる、ていう、下手すると上野公園に住んでそうな見た目なんだけどその日はなんか、キラッキラしてたんですよ。

いや、キラッキラ、ていっても王子様的なキラキラじゃなくて、着てるもの、というかアクセサリーがキラキラしてたんです。

服はいつも通りよれよれなんだけど、指輪とかネックレスとかつけてたんですよ、いつもはつけてないのに。

しかもそれがアクセント程度に身につけてて気づく人は気づく、みたいなさりげなさは全然なくて、ものすごい量つけてたんです。

数えてないですけどネックレスだけで20本ぐらいあったんだと思いますね。

ぜんぶ金属光沢放ってるんです。

物理的にキラッキラいってるんです。

オーラとかがキラッキラいってるんじゃなくて。

半分くらい金でしたね。

金塊、て見た事あります?結構前に六本木の美術館で金の展覧会やってて、ワタシはそれ見に行ったから金塊とか見たことあるんだけど、金、て鉄とか他の金属の塊に比べるまでもないくらい金属光沢が強いんですよ。

だから見れば金だって判るし、あれだけの量の金のネックレスをつけてたら、うざいくらいキラッキラするんです。

うざいくらい、ていうかうざかったんですよ、先生が。いつも以上に。

指輪も両手に全部で20個くらいはめて、しかも冠までかぶってたんです。

すごい重そうでしたね。

なんかの罰ゲームかと思いました。それか百の輝輪にでも出るとか。

違ってましたけど。

先生の格好見て、つっこみ待ちか?でもつっこむのって一体、誰が?とか思って不安になったんだけどちゃんと空気を読んで、出席カードを回収したあとで自分から話してくれたんです。

で、その内容がおかしかったんですよ。

なんか、泉の妖怪と会ってきた、とか。


あの先生は前からまことしやかに、薬中だ、とか囁かれてて、あの先生の研究室には膨大な書籍があるのに書籍の質量よりもリタリンの質量の方が多い、とか研究生のブログに写真付きで上がってたのを2ちゃんねるに晒されてたこともあって、あの先生はいつか壊れる、て言われてたんです。

じゃらつくネックレスにつぶされそうな先生を見て、”いつか壊れる”の”いつか”てもしかして、今日!?とか思ってわくわくしたんです。

それも違ってたんですよ。

代々木公園の泉に出る、ていう妖怪の話を確かめてきて、色々試したみたいだったんですよ。

まず代々木公園の話を試しに行った、て時点で先生の冥福を祈って十字を切る人もいましたけど一応、正気みたいでした。気持ちはよくわかるんですけどね。

あの先生、ものすごい尊大だけど論理がしっかりしてるから誰もあんまり文句が言えない、ていう特徴を持ってるんだけど、そのときもそんな感じだったから残念ながら正気でしたね。

まあ正気なら正気できいてみたいからきいたんです、先生の話。

なんか、たまたま代々木公園に行ったときに泉の妖怪の話を思い出して、そのときたまたま持ってたエクスカリバーを試しに投げ込んでみたらしいんです。

そしたら泉から妖怪が出てきて、「旅人よ、」とかいって質問してきたから正直に答えたら「正直な旅人よ」とか言って金のエクスカリバーと銀のエクスカリバーをよこすだけよこして忽然と消えた、て。

で、手元に残ったのは金のエクスカリバーと銀のエクスカリバーで、エクスカリバーは聖剣ゆえに軽いのだが金や銀にされ最早、重いだけのものとなった、ならばこんなものは要らぬ、て思って、”ちゃんと然るべき場所に捨てるべし”、とか言って燃えるゴミのカゴに捨てたみたいです。

燃えないと思うんですけどね。

それで、なんかそのゴミのカゴの横に「たからばこ」が二つあって、片方を空けたら紙くずが入ってたらしいんです。

腹いせにその紙くずを泉に投げ込んだらまた泉から妖怪が出てきて紙くずを金と銀に変えるだけ変えてまた忽然と消えて、でもその金と銀の紙くずが思いのほか豪華だったから装備したらしいんですよ。

そのとき装備した金と銀の紙くずが、今日も身につけてる、ていうか私が授業出た日に先生がつけてた大量のネックレスとか指輪とか冠だとかいってたんですよ。

それをきいて、この先生やっぱり面白い、今日は講義を聴いていこう、とか思ったんですけどそのあと何の脈絡もなく原文の論語をとりだして講義を始めちゃったんですよ。論語て東洋哲学じゃないですか。講義要項には西洋哲学て書いてあった気がするんですけど、講義要項に書かれてることは軽くスルーみたいなんです。自分で書いたはずなのに。

まあ普通の講義でも面白いとは思うんですけど、部室に行った方が面白いから予定通り脱出しちゃいました。どうせ論語はテストに出ませんからね。テストは先生に有益な情報を書けば単位はくれるみたいです。カレーのおいしい作り方とか書いて単位もらった人もいたみたいだし。


それで教室を出て部室でも行こうかなーとか思って何気なく横を見たら、知り合いがいたんです。




4



その人はいつもなら授業に出てるんだけど、そのときはさぼって教室を出てきたんですよ。

珍しいな、とか思ってその人の方を見てたら向こうも気づいて。

ごはんでも誘うか、とか思ってたら向こうから話しかけてきたんですけど、意味の分かんないこと言ってきたんですよ。

なんか、


泉の妖怪に会いに行くから手伝ってくれ、


て。

ああこいつもか、とか思って反射的に十字を切ったんですけど、その人の話を聞いてみると正気は失ってないみたいだったんです。なんかその人、


泉の妖怪の話は前から気になってて何となく行く気になれなかったけどさっきの先生の話を聞いて信憑性があると思ったからすぐにでも行くことにした。


とか行ったんですよ。

それはそれで狂気に走ってる感じがしたんだけど、とりあえずはつっこまずにおいたんですね。それよりもその人が誰かに手を借りたいなんて言い出す方が意外だったんです。

その人、学校で有名な人なんですよ。知らない人はいない、てくらい。

演劇研究会に入ってて、劇をやるたび役にものすごい熱を入れるからすごい目立つんです。細かい話はめんどくさいから端折りますけど。

そんな人が自分の役作りの為に、手伝ってほしい、とかいうからどうしたのかと思いましたね。

とりあえずご飯に誘って一緒に食べながら話してたんだけど、いつも家とか服とか言葉遣いとか自分でやってすごいことになってるからワタシに頼むより自分で揃えた方がいいんじゃない、て言ったんです。

でもいつもは自分で揃えてるわけじゃなくて、サークルのつてで揃えてるらしいんです。演劇美術研究会、てとこらしいんですけど。そのときは劇じゃないから頼みづらいらしくて、それでワタシに頼もうと思ったみたいなんですよ。

ていうか知り合いの誰かに頼もうと思ってて教室を出て真っ先に会った知り合いがワタシだった、てだけみたいなんですけど。

まあ手伝うのはいいとして、泉の妖怪に会いに行くくらいでなんで役作りなんてやるんだろう、て思って、普通に行って適当になんか投げ込んでくればいいじゃん、て言ったんだけど、それじゃ駄目らしいんですよ。

泉の妖怪が「旅人よ、」とか言うんだったらこちらも旅人の格好をするべきだろう、て。

それはそれでつっこみポイントだと思うんだけど、そのまま泳がせた方が面白そうだったから黙ってたんですよ。

でもワタシもそんなに乗り気じゃないから、演劇とかよくわかんないから演劇美術研究会の人がつくってるやつよりもクオリティ下がると思うよ、て言ったら、誰かに見せるわけじゃないから最高のクオリティじゃなくてもいい、て返ってきたんですよ。

それ聞いて、なにこの失礼な人、とか思ったんです。

でもそこで断るのも勘違いされたままで嫌だから演劇の人がいつも揃えてるのよりもクオリティの高いものを揃えてやることにしたんですよ。

それだけの自信はありますからね。

とりあえず旅人の格好をしたいみたいだからまずは服をどうしよう、て思ったんです。

でも、旅人って何?て感じじゃないですか。

そのことは演劇の人も考えてなかったみたいで、きいたら首を捻ってたんですよ。

泉の妖怪が「旅人よ、」て言うの知ったのはちょっと前の授業で聞いたときでしたからね。

あの先生の場合は見た目がアレだから素で旅人でもいいとして、普通は旅人ていったらどんな感じなんだろう、て思ってちょっと迷ったんですよ。旅人、てそんなにいないしあんま見たことも無いから旅人とか言われてもすぐに絵が思い浮かばないいんですよね。

でも迷ったのはちょっとだけで、すぐ思いついたんですよ。厳密に旅人が着てるような服を用意するよりも、実は旅人が着ないような服でもイメージ的に旅人が着てそうな服があればその方がいいかも、て。本物の旅人でも想像してるのと違ったら旅人とは思われないと思うし、見る人の想像と近い旅人の方が旅人と思われやすいんじゃないか、て思ったんです。

それなら簡単で、「たびびとのふく」をきていれば間違いないじゃないですか。それと「どうのつるぎ」も装備してたら完璧ですよね。そのぐらいなら用意するのも難しくなさそうだし。

演劇の人はその案を聞いて手を叩いて喜んでたんだけど、ワタシは旅人の格好をするだけだと不完全だと思ったんですよ。

服だけ旅人でもその人自身が旅してきたような雰囲気を持ってなかったら旅人というよりも単に旅人の格好をした普通の人くらいにしか見えないんじゃないかな、て。それだと単なるコスプレですからね。ウエディングピ○チのコスプレをしてる人を見て本物のウエディングピ○チだと思う人なんていないと思うし。

それでどうすれば旅人の雰囲気を出せるか考えたんだけど、どうするといい感じになるかもすぐに思いついたんです。


友達にハリウッドメイク専門学校に行ってる人がいるんだけど、その人は結構優秀で、学校に行きながらたまに映画とかの仕事を請けてたりたりしてるらしいんですよ。その人に化粧を任せれば旅人の雰囲気も出るな、て思ったんです。演劇と映画だと化粧のやり方とか結構ちがうみたいですけど、その人ならそのくらいなんとかしますからね。

それで演劇の人をその人のとこに連れて行くことにしたんですよ。

でも、すぐ行こうと思って化粧の人に電話したんだけどつながんなかったんですね。

だからとりあえず用意ができたら呼ぶ、てことで、ご飯も食べ終わったし、じゃあね、てなったんです。

そのあと服とかどうやって用意するか考えたんですよ。「どうのつるぎ」はバイト先のお店から無断で借りて何食わぬ顔で返せばいいとして、「たびびとのふく」はどうしようとか思ってたんです。で、ちょうどそこに電話がかかってきたんですよ。

化粧の人からだと思ったら違くて、理工学部の友達からだったんです。


何の用かなと思ったら、実験につきあってくれない?とかいってるんです。なんか実習でつくったものがちゃんと動くかどうかを確かめたいらしくて。

実習でつくったのはなんかの装置で、それを使うとどんな場所でも一瞬で移動できるみたいなんです。でも実習のときにその友達、部品一つ無くしちゃったみたいで、代わりにそのときたまたま持ってた自作の装置を組み込んだらしいんですよ。それでまともに動くか不安だから代わりに試してくれ、て。

自分でやればいいじゃん、とか言ったんですけど、そんな怖いマネできるか、て返って来て。

断るに決まってるじゃないですか。

だから電話を切ろうとしたら、うまいぼう一箱おごるから、とかいわれて引き受けることにしたんです、二つ返事で、ぜひ!て。




5



実習で作った装置は西棟第三実験準備室にあるからそこにきてくれ、とか言われたんだけど、理工学部はたまに図書館使いたいときに行くくらいでそんなに行かないから結構迷って、わかんなかったから電話して迎えに来てもらったんです。

で装置を見たんだけど、想像してたのと違ったんですよ。

装置って言うくらいだからタイラントとか入ってそうなホルマリンの水槽みたいなのを想像してたんですけど全然ちがくって、ドアみたいな形だったんです。

ドアみたい、ていうか完全にドアでしたね。

垂直に立ってて、倒れないように土台みたいなのがついてるんです。裏面が板張りになってて表が金属の取手付きのドアだったんですよ。

たしか、どこへでもドアー、て名前だったと思いますけど違う名前だったかもです。

理論がよくわかんなかったんですけど、使い方としては行きたい場所を考えながらドアを開くだけでいいみたいでしたね。

たしか理論は、思考流体が取手の金属を伝ってドア裏面の不定平面を歪め現在地と目的地の空間同士を接続する、とかそうゆうのだったんだけど、そんなことワタシに言われても、て感じで。思考流体とか高校のときにちょっと立ち読みした程度の知識しかないですからね。

どうやって動いてんのかとか考えても時間の無駄だし、とりあえずドア開けばいいんでしょ、て思ってやってみたんですよ。

たぶん欠陥品なんだろうなとか思ってやってみたら意外とまともで、ちゃんと別の場所につながったんですよ。

ドアの向こうは実験準備室じゃなかったんです。


ただ、ちょっと変だったんですけど、景色がなんか広々としてるんですよ。

ひさしぶりにういろう食べたいから大阪、とか思いながら開けたんですけど、なんかすっきりしてるんですよ。

大阪だったら大都市だから普通に食い倒れ人形とか本物のマクロスとかが見れると思ったんだけど、ビルは建ってないし空は広いし道も整備されてなかったんです。絶対変だと思って、どこへでもドアーから離れてちょっと歩いたら建物が見えてきたんだけどその建物も崩れそうな木造で、薪は積んであるしマサカリは立てかけてあるし藁とか積まれてるし、これもしかしてどっかの農家かな、とか思ってたら、そのとき話し声が聞こえたんです。

声は下から遠くの方で話してる感じだから場所が分かんなかったんだけど、ちょっと歩いたら崖があってその下の道から聞こえてきてたんですよ。

そっちの方に行ってみてみたら「たびびとのふく」をきてる人が二、三人いて、人力車ひいてるんです。

あの「たびびとのふく」なら演劇の人にぴったりだなとか思ったんですけどそれよりも、ここ絶対大阪じゃないな、国外か映画のセットだ、て思ったんです。

ということはあのどこへでもドアーは欠陥品で、目的地から大きく外れたところに移動するもの、てことになるから、あとで文句を言おう、て思ったんですよ。

うまいぼう一箱じゃ割にあわない、二箱請求しよう、て。

それで帰ろうと思って、どこへでもドアーのところに戻ってきたら、ドアの近くに「たびびとのふく」をきた人が5、6人いたんですよ。

その人たち、ドアに触ったり叩いたりしてたんです。

で、うわっどうしよ、とか思ったんですよ。

そこが映画セットだったら無断で入ったことをなんか言われるだろうし、国外だったら言葉が通じないだろうし。

だからちょっと待つことにしたんですよ。

その人たちがどっかいくまで待ってよう、て。

でもそれじゃまずかったみたいで、その人たち、立てかけてあったマサカリを持ってきて、ドアの方に行ってマサカリを振り上げたんですよ。

そのままみてたらあのどこへでもドアー壊されそうだったんです。

いくら話しかけるのに気が進まないからって壊されるのを黙ってみてたら徒歩で帰んなきゃ行けないし、歩いて帰るのは嫌だからその人たちを止めることにしたんです。でも顔見られたりしたら面倒だったから、問答無用で昏倒させたんですよ。

あの人たちが弱くてよかったです。間合いを一気に詰めて手刀を首筋に叩き込む、全部不意打ちで、てかんじで。一秒かかんなかったです。少林寺拳法習ってなかったら危ないところでした。

それですぐ帰ろうとしたんですけど、折角そんなとこにきたんだからなんかもって帰ろうと思ったんです。

でもさっき言ったけどそこは広々としてるから何もないんですよ。見る限り大自然なんですね。持って帰れるもの、ていったら落ち葉とか小枝とかなんですよ。そんなもの持ち帰っても、てかんじじゃないですか。

だからそんなものには最初から期待してなくて、「たびびとのふく」を着た人たちに目を付けてたんです。

もちろん一着は「たびびとのふく」を演劇の人用にもらって行くとして、他はその人たちが持ってるものをテキトーにもらって行こうと思ったんです。

でもその人たち何も持ってなかったんですよ。

だからがっかりして仕方なく全員の「たびびとのふく」を剥いでいったんです。

あ、大丈夫でした、その人たち、ふんどしつけてましたから。さすがにふんどしは要らないですからね。




6



で、どこへでもドアーで帰ってきたんです。

どこへでもドアーがまた変な場所につながってたら、うまいぼう4箱じゃ済まさないぞ、とか思ってたんですけどそんなことはなくてちゃんと実験準備室に帰れたんです。

ただ、一つだけ変だったんですけど、帰ってきたとき理工学部の友達が目の前にいて、その友達がものっすごいびっくりしてたんですよ。

びっくりした勢いで一歩下がって棚にぶつかってたんだけど、そのせいで棚の中のビンいくつか倒れましたからね。倒れたビンの中身がこぼれて紫色の煙とか上がってました。なんかその倒れたビン、ドクロマーク描かれてたんです。棚はガラス戸だったんですけど全部しまってたから紫色の煙は漏れてこなかったです。

でも普通にどこへでもドアーを開けて出てきただけなのになんでそんなにびっくりしてるのか不思議だったんですよ。

どうしたの?てきいたら、なんでもない、て言ったんです。何でもないようには見えなかったんですけどね。

でもそんなことよりももらってきた「たびびとのふく」を見せびらかしたかったから見せたら首かしげられて、なににつかうんだよそれ?とか聞かれたから、思わず、どうしよう、とりあえず持って帰る、とか言ったと思うんですけど。

一着は要るけど他は特に用ないですからね。始末に困ってとりあえずお店にしまっとくことにしたんですよ。「どうのつるぎ」を持ってくるついでに。


そんなふうにたまたま「たびびとのふく」が用意できたから演劇の人に電話したんです。頼まれてから一時間も経ってないから、もう用意できたんだ!みたいな反応を期待してたのに、待ちかねたぞ!て返ってきたから、あれ、てかんじだったんですけど。

それで、あとは化粧だな、て思って化粧の人に電話したら今度はつながって、ワタシがしゃべるまえに、文カフェでご飯食べない?て言ってきて、さっき食べたんだけどな、とか思いながらまあいいか、て感じで、行く、て答えたんです。

答えるついでに知り合いが泉の妖怪に会いに行くから手伝って上げてくれない?ていったら一瞬間があってから、いいよ、て返ってきたんです。電話切った後すぐ演劇の人に電話して、いまから文カフェきて、て伝えたんです。文カフェ、ていうのは文学部の学食のことなんですけど。




7



それで演劇の人と文カフェに行って化粧の人に、電話でも言ったけど演劇の人が泉の妖怪に会いに行くから手伝ってあげてくれない?て言ったんだけど、


なんであたしのとこにくるんだ?行きたきゃ行けよ、


みたいな顔されたんですね。

いや、なんで、て、わかるよねえ?て演劇の人と首かしげたんだけど、もしかしたら化粧の人、演劇の人のこと知らないのかもしれない、て思ったんです。

その化粧の人、ダブルスクールでメイクの学校いってるんだけど大学の授業ほとんど出てないからダブルスクールどころか普通にシングルスクール、とか言ってたし、授業に出ないのはサボるというより仕事で来れないみたいだから演劇の人がどんだけ目立ってても学校に来ないんじゃ知りようがないな、て。

そのわりに何故か部室では結構見るんですけどね。

で化粧の人に演劇の人のことを話したら納得しかけたんだけど、すぐにつっこんで来たんです。


普段着で行けば?


て。

的確な突っ込みだったから思わず、さすが!とか思ったんだけどそこで話が止まっちゃったんですよ。

この人、勘いいのになんでかな、て思って考えたんです。

そこで演劇の人が、泉の妖怪が最初に言う言葉を知らないんじゃない?て指摘したんです。たしかに「旅人よ、」て話しかけてくることは知られてなかったですからね。ワタシもその日に出た授業で聞いて知りましたから、それもそうか、て。泉の妖怪の話は知られてるから台詞のことも知ってると思ったんですね。

演劇の人は化粧の人にそう言うと、どうだ、もうわかっただろう、みたいな顔になったんですよ。

でも化粧の人は首を傾げて、


いや、わかんないんだけど、


て言ったんです。

本当は気づいてるんだと思うんだけど、多分わざとわかんない振りをしたんですよ。

あの人、自信満々に説明されるとわざとわかんないふりをして相手のリアクションをみて楽しむ、ていうよくわかんない癖があるんです。今回もそれだな、てワタシはわかったけど何も言わないでおいたんですよ。ワタシも見たかったですからね、演劇の人のリアクション。

まあひどかったんですけど。

演劇の人は化粧の人のその癖を知らないから素でびっくりして、ムンクの絵みたいな顔になったんです。

ムンクの絵ていうのは顔を両手で支えるみたいにして叫んでる絵ですけど、あんな感じに。いや、ていうかムンクをやろうとして失敗して、ムンクになりきれなくてピカソの絵みたいな顔になってたんですよ。

もっと面白いリアクションしてくれると思ったんですけど、60点でしたね、10000点満点で。

化粧の人もがっかりして、からかうのをやめて、旅人の化粧をしたいんですね、て言ったら演劇の人はがっかりされたのに気づいてなくて普通にほっとしてました。

でもそこで演劇の人が、旅人の化粧だからそんなに凝んなくても泥とかちょっとまぶせばいいんじゃないか、とか言っちゃったんです。

化粧の人が、ピク、てしたのがはっきりわかりましたね。

見てすぐわかるくらいあからさまに、イラ、てしてまず、化粧なめんな、て言い放ったんですよ。

そのあと一時間近く一方的に化粧について語って、語り終わる頃には完全に演劇の人はへろへろになってて、もう全部任せます、みたいになってました。

それで演劇の人は「たびびとのふく」に着替えてから化粧してもらってたんです。

準備ができたみたいだから、じゃあ泉の妖怪によろしくね、て見送ろうとしたら、


”ちょっとカンダタ倒してくるわ!”


とかいってどっか言っちゃったんですよ。泉の妖怪は?て感じだったんですけど。

しかも、あとで聞いたらカンダタ倒しに行ったのにバラモス城に行ったみたいなんですよ。さらにそのあと王様に「しんでしまうとはなにごとだ」とか言われてたらしいんですけど。

結局その後に泉の妖怪には会えたみたいです。エンゼルを投げ込んで金のエンゼルと銀のエンゼルをゲットした、とか聞きましたから。

でも、エンゼルってなんなんでしょうね。

それで演劇の人の用は済んだんですけど「たびびとのふく」が5着ぐらい余ってどうしようかなとか思ってたんだけど、何故か立て続けに5人くらい、旅人の格好したい、ていう人がワタシのとこに来て全部さばけたからどうするかは考えなくてよくなったんですよ。


それはそうと、もともとはワタシが代々木公園に行った話だったんですよね。

なんかまた話がそれたけど、とりあえず代々木公園の泉の妖怪の話自体はそんな感じなんです。

ワタシが代々木公園に一度行ったことがある、ていうのは少し別の話なんだけど、さっき、妖怪がラヴな友達がいる、て言ったじゃないですか。

その友達から連絡があって、知り合いが泉の妖怪に会いに行くから手伝ってくれない?ていわれたんです。

なんか同じようなこと別の人に頼んだことあるような、とか思いながら、いいよ、て答えたんです。なんでか知らないですけどワタシよく、服を用意してくれないか、とか頼まれるんですよ。

そのときもそれで、どうせ用意するものはバイト先で探すからワタシがシフト入ってるとき来て、ていったんです。

そのときはコンビニで立ち読みしてて、電話を切った後に、さて立ち読みの続きをするか、て思ったらまた電話がかかってきたんです。

今度は化粧の人からで、なんか「たびびとのふく」がどうとか言ってて、そこら辺は忘れたんですけど、要するに一度お店に来てみたいから行っていい?てことだったんです。

まあいいんだけど今度シフト入ってるときにおいで、て言って電話を切ったんです。

切った後で妖怪が好きな友達が来ることを思い出して、でも時間は決めてないからあの人と化粧の人は同じ時間には来ないだろうし大丈夫か、て思ったんです。




8



で、なんか同じ時間に来たんですけどね、妖怪好きの人と化粧の人。

少しだけ化粧の人が早く来て雑談で盛り上がってたんだけど、そのとき入り口に妖怪好きの友達が来たのが見えたんですよ。

でも盛り上がってるのをみて遠慮したのか、ワタシのところには来なくて一緒に来てた人とお店の中をみてましたね。ちょっと悪いな、とかその友達に思ったんだけど雑談に区切りがついてからでいいか、て思ってそのまま雑談してたんですよ。

それで区切りがついて化粧の人がお店をみてみたい、て言ったから、じゃあワタシはちょっとやることがあるからテキトーにみてて、ていってお店の仕入れ表を見てたんです。

そのタイミングで妖怪好きの人が来て、一緒に来た人を指して、この人が代々木公園の妖怪に会いに行きたい人、て紹介してくれたんです。で妖怪好きの人と一緒に来た人はまず言ってきたんですよ。


カウガールの服ありますか?


て。

ねえよ。

言ってなかったですけどバイト先のお店はアジア雑貨のお店なんですよ。バリの衣装とかヴァジュラとかはあってもカウガールの衣装なんてないんです。そんなもん東急ハンズで探した方がいいでしょ、とか思ったんだけど、ワタシを頼ってきてるのにそれだとなんか癪じゃないですか。

だからなんかないかな、て考えたら一つ思い当たるものがあったんです。

あの店アジア雑貨の店なんだけど仕入れ先に古物商がいて、よく変なものが仕入れられるんですよ。『歩く教会』とかいう修道服とか『罪歌』ていう妖刀とか、

そういうのの中に


認識迷彩の羽衣、


ていうのがあって、それがカウガールの服の代わりになると思ったんです。

なんか見る人の認識を操作する服で、人によって見え方が変わるみたいなんですよ。メイド服に見える人もいるし魔法使いの服に見える人もいるし、スパルタ人の服に見える人もいるしパリコレの微妙な服に見える人もいるし艦長とかの服に見える人もいるし。

どう見えるかはその人が一番強く印象に残ってる服はなにかによって変わるんだと思います。

ワタシには宮廷ドレスに見えたんですけど。宮廷ドレスていうのは、あの、ぶわ、てしたやつです。わかります?あの、マリーアントワネットみたいな服なんですけど。

店長は振り袖に見える、て言ってましたけどね。

で、その認識迷彩の羽衣を渡して試着してもらったら、わあ、イメージ通りのカウガール!とかいって喜んでました。

宮廷ドレス着ときながらカウガールとか言うなんて、危ない奴。この人の精神、重力振り切ってんじゃないの?笑える!とか思ったんですけど、その服が認識迷彩の羽衣だってことを思い出して納得したんです。

ちょっと油断したら認識迷彩の羽衣だってことを忘れるくらい完璧に認識に迷彩がかかるんですよ。そこまで完璧なくらいだから別の効果もあるのかもしれないですね。

まあ実際にその人が着たのは別の日だったんですけど。

その日は試着しないで見せるだけで、それでもあの人は軽く興奮してましたね。

その勢いで妖怪好きの人に、化粧したらもっといい感じかも!とか言ってて、ああちょうど今化粧の人いるな、とか思ったときには妖怪好きな人が化粧の人を呼んでて、化粧してあげてくれない?て頼んだら化粧の人は、面白そうだからいいよ、とか言ったんです。

すぐ行くのかなとか思ってたんだけど、カウガールの人が言うには雨が降ったあとじゃないと駄目みたいなんですよ。


その時点での代々木公園の妖怪の話は、”代々木公園の泉になんか投げ込むと金と銀に強制変換される”、だったんですけど、カウガールの人が言うにはちょっと違ってたんです。

なんか途中からは同じなんですけど、最初の方に、”雨が降ったあとの代々木公園にできる水たまりになんか投げ込むと”、て足されてたんです。

また変形したかあの話、とか思いましたね。

多分それガセなんですけど、でもガセこそがファンタジーの存在理由だからカウガールの人の夢を壊してはいけない、とか思って普通に、へーそーなんだー、とか言ってそっとしときました。

今考えると色々とワタシ勝手なこと考えてるんですけどね。カウガールの人の夢、て。

それで、雨が降ったら呼ぶ、てことになってその日は、じゃあね、てなったんです。




9



週間天気予報は全部晴れマークだったから、しばらくはないな、とか思ってたんだけどその二日後に雨が降ったんですよ。

でもあの日の天気、変だったんですよね。

その日は授業が二限だけあってバイトのシフトは遅番だから昼頃からバイトの時間まで暇で、たまたま会った友達とだべりながらひなたぼっこしてたんですよ、公園で芝生に寝そべって。

会話が途切れて何となく空を眺めたら普通に白い雲が流れてたんです。

で、ああ広いな空、とか思ってたらいきなり視界の端の方から、ぞわわ、て黒い雲が流れてきて視界を全部埋めたと思ったら雨が、ざーっ、て降ってきたんですよ。

いくらにわか雨だからってにわか過ぎるでしょ、とか思ってダッシュで移動して、その公園の近くのファミレスで雨宿りしたんです。サイべリヤ、ていうファミレスなんですけど。

雨宿りに行くぐらいだから傘なんか持ってなかったし、にわか雨だからすぐ止むかなとか思って、止むまでミラノドリアでも食べながらだべろう、てことになったんです。

止んでもだべってましたけどね。

そんなことしてるうちにバイトの時間が近づいたから、そろそろいくか、て会計済ませようと思ったんだけどなんか伝票来てなくて。どうする?て友達と話し合った結果、払わなくていいか、てことになってそのままお店でてきて、ちょうどサイべリヤを出たところで偶然友達に会ったんですよ。

なんかその友達ずぶぬれで、雨でそんなになったんだな、とか思ってたら違うらしくて、なんか、川に投げ込まれた、とか言ってるんですよ。

友達とそれきいて二人で首捻ったんです。川?て。

ずぶぬれでそんなとこ歩いてるぐらいだから或る程度は近いとこにいた筈だし、近いとこに川なんてあったか?て。


まあ川はあるんですよ、忘れてただけで。あんまその道通らないし。ずぶぬれの友達が思い出させてくれたんです。

でもその川、けっこう深いんですよね。4メートルぐらいある、堀?堀、ていうんだっけ?忘れましたけど4メートルぐらいある堀に流れてる川があるんですよ。

そこに投げ込まれる、て結構きついと思うんですよね。

4メートル分しっかり水が流れてるんだったらいいんだけど、水嵩30センチぐらいなんですよ、上から見た感じだと。

いや30センチも無いかな、5センチくらいかも。

そこに投げ込まれたら溺れるよりもまず痛いでしょ、て。

よく骨とか折れなかったな、とか思ってよく見たら、たぶん骨は折れてないと思うんですけど背中からうすく血がにじんでてちょっと怖かったですね。

それで川に投げ込まれて微妙にぬれたと思ったらそのすぐ雨降ってきてずぶぬれになった、て。

川があるとこからサイベリヤまではそんなに遠くなくて、ワタシが友達とサイベリアに入ってから結構経ってるから、なんでそんなに時間がかかったのかとか思ったんですけど堀から這い上がるのに苦労したみたいだったんですよ。

それで、ぎりぎり授業間に合うから出てから帰る、とか言ってるんです。一緒にだべってた友達と同じ授業みたいで、一緒に行こう、て友達に言って。

まあ止めましたけどね。そのままだと教室の一角が濡れて使えなくなるし、ずぶぬれの友達には、とりあえず帰れ、て言っといたんです。

それでずぶぬれの友達は帰って、ワタシとだべってた方の友達は授業が始まるから授業に行って、ワタシはバイトに行ったんです。


そういえばいいましたっけ?バイトしてる場所が竹下通りだってこと。

そのサイべリヤから竹下通り、て結構遠いんですよ。大体30分ぐらいかな、いやもっとか。どれくらいかかるかは知らないんだけど。

とりあえず竹下通りに行く途中で電話がかかってきたんです。代々木公園の妖怪に会いたいとか言ってたカウガールの人から。いい感じに雨降ったから今から行っていい?て。

その電話くるまでそのこと忘れてて、そういえばそうだった、どうしよう、とか思ったんですけどよく考えたらすぐにバイトだから、そこ集合、てことにしよう、て思ってそう伝えたら、じゃあそれで、てなったんです。

化粧の人に連絡とるか、と思ってたらそれを言う前にカウガールの人が、じゃあわたし化粧の人に言っとくから、ていって電話切っちゃったんですよ。ぶち、て。

まあどっちでもいいか、て思って、そんなかんじでバイト先に行ったんです。




10



取りあえず控え室に荷物を置いてワタシがレジに入って、代わりに早番の人が控え室に入って、そのときにカウガールの人が来たんです。

さっき電話してからあんまり経ってないのに早いな、とか思いながら認識迷彩の羽衣を棚から出して、はい、て渡したらそのまま試着室に駆け込んで、一分くらいで出てきたんです。

ワタシには認識迷彩の羽衣が宮廷ドレスに見えてて、着替えはそんなに早く終わんないと思っててたから、なんかあったのかな、と思ったら着替え終わってるんですよ。

速すぎだろ、て。

そんなに急いで着替えたら着方とか間違うんじゃないの?ボタンの掛け違いとか、て思ったんですけど完璧に着こなしてるんですよ。

どうやったんだろう、て思ってたら、わあ、この服やっぱり、わたしのカウガールのイメージ通り、て言って浮かれてるんです。

それ聞いて、ああ、て納得したんです。

ワタシにはその服、宮廷ドレスにしか見えなかったですからね。着替えに軽く一時間はかかるんじゃないか、て思ってたんだけど、カウガールの服ならそんなにかかんないだろうから急げば1分でもいけるか、て。

でもどうなってんのか全然わかんないんですよね、あの認識迷彩の羽衣。認識に迷彩をかけるためにはかかる側が認識している必要があるんだけど、逆に言うと認識してないならかからないことになりますよね。普通は認識している人は何人もいるけど、試着室みたいに本人以外に認識する人がいないなら時間にも迷彩がかかるのかも、とか、今でもわかんないんですけど、そのときもそんなこと考えて首かしげてたんです。

ちょうどそのタイミングで化粧の人が来て、宮廷ドレスのカウガールの人は化粧されにかかったんです。

そのとき、珍しかったんだけど化粧の人がちょっと迷ってたんですよ。

どう手を付けよう、みたいに。

何回かあの人が化粧するとこ見たことあるんだけど、いつもは何の迷いもなく化粧をするんですよ。まずファンデ塗ってシャドウはこんな感じで睫毛はこういう風にカールかけてそれでチークはこう、て。

いや化粧あんましないからよくわかんないんだけど、それでもあの人がすごいうまいんだな、てことはわかるんです。

でもそのときはなんか迷ってたんですよ。迷ってたのは多分2、3秒ぐらいだけど、あの人にしては結構遅れた方だと思いますね。

今思ったんですけどそれだけ遅れた理由て、認識迷彩の服の影響かも知れないです。

あの人にあの服がどう見えてたかわかんないけど、とりあえずカウガールには見えてなくて、でも着てる本人はカウガール、て言ってるから迷ったのかもですね。

カウガールにするか、それとも見た目通りにするか、て。

でもなんかそこらへんは考えるのやめたみたいで、カウガールとか、特定のなんかに合わせた化粧じゃなかったんです。

あの人のことだから多分、今回はフリーテーマ!とか考えてたんだと思いますね。

それでメイクし終わったんだけど、出来上がったの見たら、うわ、て思ったんですよ。

この宮廷ガール、完璧じゃん、て。

完璧じゃないものがあるとしたらこの宮廷ガールじゃなくて景色の方だな、ていうかこの格好て代々木公園歩くわけ?笑える!とか思って、言ったと思うけど、もともと代々木公園に行く気なかったけど、こっそり追けることにしたんです。

だって面白そうじゃないですか、他の人には違うように見えてるとしてもワタシには宮廷ガールにしか見えないし、その宮廷ガールが代々木公園を練り歩くんですよ?想像するだけで、なんか、すごいじゃないですか。

そんなこと考えてたら宮廷ガールが、ありがとう、じゃ行ってくるよ、てお店の階段おりて行ったんですよ。

化粧の人は帰る気だったみたいで手を、ひら、て振って、じゃまたね、て言って階段おりて行こうとしたんです。

宮廷ガールのあとをつけるのはいいとして、一人で行くのはちょっと寂しいからこの人も連れて行こう、て思って、歩きかけてた化粧の人の後ろ襟首を掴んで止めたんです。

それで首が絞められたみたいになったのか、ぐえ、てなってこっちを向いて文句を言ってたみたいなんですけどワタシはそれよりも宮廷ガールの方が気になってたから出口の方を指差して、あと追けよ?て言ったんです。

一人であと追けるのも寂しいからついてきて、て。

あの人も宮廷ガールのこと気になってるだろうなとか思ってたらそうでもなかったみたいで、それよりもあたしは帰ってマ○オカートやりたいんだ、て言ってて、でもそんなときはいつもハーゲンダッツをおごる、て言っとけば来るからそういったら、ぜひ!とかいって一緒に行くことになったんです。

もちろんワタシがそのまま出て行ったらお店に誰もいなくなっちゃうし、それだとまずいんだけど、そのときは早番のシフトの人がまだ控え室にいて、ちょっとでいいからレジ代わってくれない?て頼んで、ワタシが戻るまでいてもらったんです。

あとでごはんおごらされましたけど。キューフロントでタコライス。


それで階段おりてお店を出てから、宮廷ガールまだいるかな、て思って捜したらいなかったんです。

まあ場所はわかってるし、いっか、て思ってたら化粧の人が、見失っちゃったね、帰ろうか、とか言って。行き先知ってるでしょ、てつっこみましたけど。

こいつそんなに帰りたいか、とか思ったんですけどそうじゃなくて、その前にも同じようなこと化粧の人と一緒にしたことあって、そのときはあとを追けて見届けることよりも追けることそのものの方が目的だったんですよ。

今回もそれだと思ったらしくて。今回は違う、て言ったら驚いてましたけど。

それで代々木公園に着いたんです。


先回りして隠れて待ってよう、と思ったんですけど、もしかしたらワタシ達の方が遅れたかも知れない、と思って、宮廷ガールを捜してみたんです。

そしたら誰かがワタシの襟首を後ろから、がし、て掴んだんです。それで、ぐえ、てなって咳き込みながら後ろを向いたら化粧の人で、そのまま木の陰の方に引っ張られたんですよ。

え何?とか思って戻ろうとしたらちょうどそのとき宮廷ガールが歩いてきて、いそいで木の陰に隠れ直したんです。

あとを追けてきたことは多分気づかれてなかったんだと思うけど、化粧の人に後ろ襟首掴んだこと文句言ってる間に見失ったんですよ。

どうしよう、て言ったら、今度も場所わかるんでしょ?てつっこまれたんだけど代々木公園に来るの初めてだから噴水の場所なんて知らないんですよ。

でも歩き回ったりしたら宮廷ガールに見つかるかも知れないし、折角あとをつけてるんだからばれたらつまんないじゃないですか。

それで、うわ、こりゃ二人して路頭に迷うか、とか言ってたら遠くの方から少年が叫んでるのが聞こえたんですよ。

なんか技名みたいなので、


メラゾ○マ!


とか叫んでたんですよ。




11



よく聞こえなかったから違ってるかも知れないんですけど。

メラゾ○マか、懐かしいな、メ○ミは使えるんだけどメラゾ○マはまだできないな、とか思ってたら化粧の人がなんか少年の叫び声が聞こえた方にダッシュし始めたんですよ。

だだだ、て。

なにやってんのアンタ、信じらんない、て言いながら止めようと腕を掴もうとして掴めなくて、ちょっと走ってから追いついて今度は腕を掴んで止めれたんですよ。

そのとき視界の端っこの方に変なものが見えたんです。

代々木公園ぽくない色合いの布の固まりで、目立つ場所にあったら写メで激写される感じのものだったから、なんだろう、て思って見てみたら宮廷ガールだったんです。

宮廷ドレスて遠目には布の固まりに見えるんですよ。

で、そこで宮廷ガールに振り向かれたらワタシ達がついてきたことがばれる、かくれなきゃ、と思って、近くに植え込みがあったからそこに隠れたんです。

化粧の人もそこに引っ張り込んだんですけどあの人、え、何?とか言ってて、宮廷ガールがいることに気づいてないっぽかったから、植え込みの後ろに座らせてから宮廷ガールの方を指したら納得したみたいでした。

それでワタシも座ろうとしたとき、なんかものすごい速さのものが宮廷ガールの方を飛んでったんですよ、光りながら尾を引いて、宮廷ガールのすぐ横を通って空の方に飛んでったんです。

そのまま見てたら空の奥の方に、きゅぴーん、ていって消えたんですよ。

きゅぴーん、て本当になるんですね。

ああ空の奥になんか飛んでったな、て空を眺めてたら、その光りながら空の奥に消えたものが飛んできた方向から、ええー、またあ?て言ってるのが聞こえて、そっちの方を見たら少年がいたんです。

だから光って飛んでったものは多分あの少年が飛ばしたものだったんだと思うんです。多分、メラゾ○マ、て叫んだのはあの少年で、飛んでったものはメラゾ○マだったんですよ。でもメラゾ○マにしては色が違ってたし、威力も微妙だったから違うかもですけど。あのくらいだったらワタシもできますからね。メラゾ○マだったらもうちょっとすごいと思います。

でもメラゾ○マじゃないって言ってもそれなりの威力はあったんですよ。メラゾ○マが飛んでったとこの地面は抉れて、ものすごい砂煙があがって周りにあったものも吹き飛ばされてたんです。葉っぱとかゴミとか全自動冷蔵庫とか、あと、なんか肉片みたいなものも巻き込まれて宮廷ガールよりも奥の当たりに飛ばされてたんですよ。

あれ当たったら結構いたいと思うんですよね。二、三日は動けなくなると思うんですよ。前ワタシがそんな感じでしたから。

でもあの宮廷ガール、メラゾ○マが当たりそうになったのに片手で帽子を直しながら立ってるんですよ、振り向かずに。

ぎりぎりで当たんなくても普通、メラゾ○マ撃った人に文句くらい言うと思うんですけど、なんか呆然と立ってるんです。

どうしたんだろ、と思って見てたんですけど、そのとき変な人が出てきたんですよ、宮廷ガールの前に。

いや歩いて出てきたんじゃなくて、瞬間移動みたいに出てきたんです。


出てきたときその人の足下からなんかがたくさん飛び散って、何だろうと思ってよく見たら、そこは代々木公園の噴水の真ん中辺りで、飛び散ったのは水みたいだったから中からでてきたんだな、てわかったんです。噴水の水は止まってましたけどね。

あと噴水の水、ちょっと濁ってたんです、薄緑色に。

あれ絶対バスクリン使ってましたね、複数。

炭酸みたいに泡立ってたし。

バスクリンで濁った噴水の真ん中に変な人が出てきたからあの宮廷ガール、呆然と立ってたんですね。

でバスクリンの噴水の人なんですけど、ものすごい怪しかったんですよ。あの格好で皇居の前を通りすぎたら確実にどこかに連行されるだろうな、てくらいに。

噴水から出てきたのはいいとして、まずバスクリンて時点でアウトじゃないですか。

泡立ってるし。

それと見た目なんだけど、まず髪とヒゲが駄目っぽい感じにのびてて、ちょっと手入れすればいい感じになりそうなのに手入れしてないから縮れてて一体化してるんですよ。

それでローマ人が着てそうな服着てるんです。多分あれ、トーガですね。ローマの民族衣装にそういう名前のがあるんです。

いや、服はいいとして光るのはおかしいと思うんですよ。言ってなかったけど、あのバスクリンの人、出てきてから光りだしたんです。

昼間から光るなんてなんてうっとおしい。なにこの怪しいバスクリン男!とか思ったんですけど、そこで気づいたんです。

もしかしてこの人が最近よく聞く泉の妖怪?て。

そこまで考えたところで、バスクリン男が宮廷ガールに言ったんです。



「旅人よ、お前が落とした斧は金か、銀か?」



て。




12



思わず、ビンゴ!とかつぶやいちゃいましたね。

妖怪、ていうからにはそれはもう怪しいんだろうな、とは思ってたんだけど、見た目だけじゃなくて言動も怪しいなんて想像以上でしたから。

想像だけのものだと思ってたからびっくりしたんですけど。うわ、本当にいたんだ!て。

でも本当にいて、あそこまで無かった事にしてもいいと思えるものは初めてでしたね。2ちゃんねるとかに書き込む人はいると思いますけど。

化粧の人は隣で、沈めたのは肉片なのになんで金の斧?とか言ってて、そう言えばなんか沈めなきゃ妖怪出てこないんだっけ、て思い出して、ね。ばかなんじゃないの?あの妖怪。とか言ってたんですよ。

言いながら、そっかさっきメラゾ○マで飛ばされた肉片が沈んだんだ、て気づいて、改めてあの妖怪は怪しい、て思ったんです。


肉片がなんで斧?


て。

それで折角だから二人でバスクリン男を罵倒してて、宮廷ガールはバスクリン男の台詞を聞いたあと少し間を空けてから言ったんです。



「いいえ、わたしが沈めたのはそれじゃないです。」



て。

まあそうだよね、て思ったんですけど、その間もバスクリン男、光ってるから眩しくて、顔を背けたんです。化粧の人の方を向いて、あのバスクリン男うざいね、て顔で言ったらうなづいて、立ち上がりかけたんです。

え、どこいくの、とか思ったところで、宮廷ガールが言ったんです。



「わたしが落としたのはスーパーファミコン内蔵型152型ハイビジョンテレビです。」



それを聞いて化粧の人が立ち上がるのをすごい勢いでやめて座り直して、バスクリン男の方を向いたんです。

そのときワタシも立ち上がりかけてたんだけど化粧の人が急に座り直したからぶつかってこけたんですよ。

いきなり、何!?とか思って化粧の人に文句を言おうとしたんだけど、あの人、顔が妙に活き活きしてたから、そのとき文句言うのも悪いな、て思って、あとで文句を言うことにして、とりあえず座り直そ、て思ったところでバスクリン男が言ったんです。



「旅人よ、お前が落としたのはそれではない、不正直なお前の沈めた肉片は私が焼いておいしくいただく。さらばだ。」



て。それで、バスクリン水に浸かった肉を焼いておいしく食べるんだ、すごいなバスクリン男、さすが。でもメラゾ○マで炙られたからもう焼けてるか、それならあとはおいしく食べるだけだな、とか思ったんですよ。

そのときワタシはまだ化粧の人の背中にぶつかってこけたままだったんですけど、化粧の人が手を貸してくれたんです。

でもバスクリン男はそのままいなくなりそうだし、それなら見ててもつまんないから帰ろうかな、とか思ってたら宮廷ガールがバスクリン男に、



「いやいや沈めたんだって、スーパーファミコン内蔵型172型ハイビジョンテレビ。」



て言ったんです。それを聞いて化粧の人の動きが止まったんです。

ピタ、て。

ワタシが座り直すのに手を貸してる途中だってことは忘れたみたいで。仕方ないから自分で座り直したんだけど、そこで思い出したんですよ、この人の家にスーパーファミコン内蔵型ハイビジョンテレビあったな、て。

型とかよくわかんないですけど、このくらいの大きさで20型じゃなかったっけ?多分50センチ近くだと思いますけど、それがあの人の家にあるんですよ。

それが20型だとしたら、ものっすごい大きいですよね、172型て。欲しかったのかも知れないですね。

まあスーパーファミコン内蔵型ハイビジョンテレビはそんなに珍しくないですけど。地元の電気屋に売ってますからね、タイムセール、一機なんと300ユーロ!て。

微妙に高いせいか売れてないですけど。

去年実家帰ったときにそんな感じで、今年帰ったときに見てみたら去年と全く同じ感じでワゴンに詰まってて、タイムセール、て書かれた紙が変色してましたからね。

破けてたりガムテープで直してあったり。

常にタイムセールみたいなんです。どこらへんがタイムセールなのかは謎です。

それと数え方が、機、て合ってるのかどうかはつっこんだら負けなんだと思います。今度あの人を地元に誘ってみようかな。

まあそれはいいとして、そんなに欲しいか?スーパーファミコン内蔵型172型ハイビジョンテレビ、て化粧の人に向かって首を傾げて表現したら柔らかくうなずいてバスクリン男の方を向いたんです。

ワタシはそれを見てまた首を傾げながらバスクリン男の方を向いたところでバスクリン男が宮廷ガールに返したんですよ。



「莫迦な。お前が落としたのは肉片でスーパーファミコン内蔵型172型ハイビジョンテレビではない。」



て。

確かにそうだな、て思ってたら、



「2つ、間違ってる!わたしが落としたのは肉片でもスーパーファミコン内蔵型172型ハイビジョンテレビでもなくてスーパーファミコン内蔵型256型ハイビジョンテレビなの、さっさとよこしなさい、この、ムサいヒゲ野郎!」



てイラッとしたかんじで宮廷ガールが返したんです。

型番増えてるし、ムサいヒゲ野郎、て、あのバスクリン男にぴったりだな、やるな宮廷ガール、とか思ったら横で化粧の人がぷるぷる震えてるんです。

どうしたのかと思ったら声を押し殺して笑ってるんですよ。

ムサいヒゲ野郎、ていうのがツボだったみたいです。

それをみてワタシももらい笑いしてましたけど、そんなに面白かったかな、今の罵倒、て。

それで、



「さっきはスーパーファミコン内蔵型156型ハイビジョンテレビと言ったではないか、」



てバスクリン男が言って、そのときは化粧の人、ムサいヒゲ野郎、の笑いが収まりかけてたんだけど、バスクリン男がそのすぐあとに続けて、



「それと私はムサいヒゲ野郎ではない、ハンサムなナイスガイだ。」



て言ったから今度はワタシが吹いちゃったんです、ブフッ、て。

ムサいヒゲ野郎じゃない、て言うのはまだいいとしても、ハンサムなナイスガイは無いな、て思ったんですよ。

ワタシはそれで済んだんですけど今度は化粧の人がもらい笑いして、でも爆笑しちゃったらそこにいるのが宮廷ガールにばれるから笑いをおさめようと後ろを向いてから手でぺちぺち地面を叩いて必死に我慢してたんです。

でも駄目だったんですよ、宮廷ガールがバスクリン男に、



「なにいってんの?ワタシが沈めたのはスーパーファミコン内蔵型302型ハイビジョンテレビであんたはうざいコスプレマニア。ハンサムなナイスガイ、て何?死語だよそれ」



て返したからそこで声を立てて笑い始めちゃったんですよ。

それで、うざいコスプレマニア!?もう無理!もう無理!とか言いながらどっか行っちゃったんです。

いや確かに面白いけど、そこまでじゃないでしょ、とか思ったんですけどそのまま化粧の人を見送ってワタシは宮廷ガールの方を見てたんです。うざいコスプレマニアか、完璧だな、でも死語、て言葉自体、死語だと思うな、て心の中でつっこみをいれながら。

で、宮廷ガールのその台詞に対してバスクリン男は、



「いや死語という言葉も死語だろう。」



て突っ込んだんです。

ていうか、突っ込もうとしたんだと思います。

その台詞の途中で、



「もういい、死ね」



て言葉が聞こえて、宮廷ガールがものすごい速さで腕を振ったと思ったら、なんか、なんていうんだろ。ばつっ、て音がして、そこで台詞が途切れたんです。


それで、バスクリン男をみたら、顔が無かったんですよ。




13



顔以外は何にも変わってなくて。

顔が消えても血は出てなくて、でも意識は無いのか、死んでるのかとかわかんないんだけど、とりあえずそのまま崩れたんですよ。

膝の辺りから、くらっ、て曲がったと思ったら後ろ向きに傾いていって、そのまま全身で水面に、ばしゃあ、て水しぶきを上げて噴水の中に倒れたんです。

でも水しぶきが収まった後、噴水にはにはバスクリン男はいなくなってたんですよ。

死んでるにしてもそうじゃないにしても意識が無いんだったら人ってふつう水に浮かぶと思うんだけど、少なくともワタシのいた所からは見えなかったですね。


そのときの宮廷ガールなんですけど、ちょっと前までの宮廷ガールとは違ってたんです。

宮廷ガールが最後にバスクリン男に答えたあたりからなんだけど、声が多分、別のものみたいに聞こえたんです。

それまでの宮廷ガールの声みたいな高い声じゃなくて、というか高い声なんですけど子供、というか声変わりする前の男の子みたいな、いや違うな。男で高い声の人いるじゃないですか、そういう感じの声に聞こえたんですよ。

あと声が聞こえてくる方向も宮廷ガールがいる位置からというか、宮廷ガールのいる所の向こう側とワタシの後ろの方から同時に聞こえてくるような、どこから聞こえてくるのかわからないような聞こえ方だったんです。

その声が聞こえた後の宮廷ガールの動きなんだけど、なんかの武術っぽかったんですよ。

こんなかんじで、まず左足を引いて半身になって、こう体を左にねじるようにしながら右手を左足の膝の方に持ってってかがんだと思ったら、こっちの引いた左足で反動をつけてもう片方の右足を軸にして飛び出すように前に出ながら、こうやって右手を左下から右の方に水平に弧を描くように強く振ったんです。居合いの動きっぽかったですね。

それで右手のその勢いで軸にした右足ごと1メートルくらい前に滑るように動いて、バスクリン男のあたりから、ばつっ、て音がしたんです。

バスクリン男から聞こえたその音は、なんかを勢いよく閉じるときの音みたいだったんですよ。ドアとかを閉じる音じゃなくて、板と板をぴったりと閉じると鳴る音、みたいな。

そのあと宮廷ガールはワタシの方を振り返って、目が合ったんです。


少し前だったら、やべ、ばれた!て思って焦ってたと思うんだけど、特に焦る事も驚く事もなかったんですよ。

一目見て、別人だ、て判りましたからね。

別人ていうか、別の人格になってる、て。

表情がお店で見たときと全然違ってたし、黒目の部分が赤く光ってましたからね。

たまにいるんですよ、目が赤く光ってる人。

そういう人ってワタシの経験上、例外なく何かに憑依されてる人なんですよ。

すれ違った人でも目が赤く光ってる事があるから憑依されてるのか、そういう体質なのか判らないていうのもあるけど、ワタシが知ってる人がそうなってるときはいつも別人ですから。その人がしゃべる内容もしゃべり方も動き方も目が光ってないときは大体違うんです。

高校のときにそういうのに遭った事があるんですよ。

詳しい話は端折りますけど。

とりあえず目が赤く光ってる人の目は憑依されてる人の目で、代々木公園での宮廷ガールの場合もそうだったんですよ。

それで、宮廷ガールはワタシと目が合って近づいて来て、さっき言ったみたいなどこから話しかけてるのか判らないような話し方で言ったんです。


”草薙剣を探している。あの髭の男に奪われたのだ。取り戻さねばならぬ。"


で、つづけて、


"お前は草薙剣の在処を知っているな?”


て。

知らねえよ。


泉の妖精は今日初めて見たんだし知り合いでもないんだから知るわけないし、とか即答で返したら、宮廷ガールはバスクリン男にやった居合いの動きみたいなやつをワタシにやってきたんです。




14



多分、殺す気でやったんだと思います。

その動きの予備動作で、それをやる、ていうのはわかったから簡単に避けれたんだけど、避けたときワタシの後ろのあたりで、ばつっ、て音がしたのが聞こえたんです。

バスクリン男にやったみたいなのを撃って地面に当たったんだからきっと溝でもできてるんだろうな、て思って、後で見たらやっぱり溝みたいなのができてたんですけど、そのときはわかんなかったし、確かめようとして後ろを向いたらまた居合いみたいなやつをやられそうだし、後ろを向いてるときに同じのやられたら避けれないと思って、そのときは振り向かずに宮廷ガールの方を見てたんです。

また同じようなのをやって来たら問答無用でつぶそう、て思ってたら残念ながらやってこなくて代わりに顔が青ざめたみたいになって、


”己にはお前の心が図像として読める。お前はどこかで草薙剣を見た事がある。”


とか言って来たんです。

その台詞に対して、どう答えるかよりもまず、その台詞が恥ずかしいじゃないですか。


“心が図像として読める”て何?中二病?


とか思って、どういうふうにその恥ずかしさを伝えようかと思ってたら宮廷ガールの顔が赤くなって来たから、ああ心を読めるのは本当なんだな、て判ったんです。

宮廷ガールに憑依しているのが何だったのかは今でも判らないんだけど、あの言葉遣いからすると普通に200年以上前の人だから、中二病、ていう言葉は判らないと思うんだけど、中二病、て言葉に思いっきりばかにするニュアンスを込めて考えたんですよ。中二病の残念な感じはニュアンスだけで伝わりますからね。顔が赤くなったのはそれを読み取ったからなんだと思います。

でも心を読めるのが本当なら草薙の剣とかいうのををワタシが見た事あるのも本当なんだろうなと思ったんですよ。

見た事があるにしても草薙の剣て名前のものは知らないし、だったら宮廷ガールに憑依した中二病の人が言う草薙の剣は別の名前で知ってるのかも知れないけど、ていうか草薙の剣て一体何!?とか思って、どういうふうにそれを伝えようか考えてたら、中二病の人が、成程、とか言って勝手にうなずいて説明してくれたんです。

勝手に人の心読んで勝手に納得したみたいでしたね。心を読む人、てめんどいけど便利だな、て思いました。

それで草薙の剣について説明してくれたんだけど説明の仕方が独特で、絵を見せてくれたんです。絵、ていっても地面に枝で描いてくれたとかそういうのじゃなくて、立体だったんです。

中二病の人が両手を拝むみたいに合わせて、そのまま手を開いたら右手と左手の真ん中あたりに半透明のものが浮いて回ってたんです。

気功をつかった技で、頭で思い描いたイメージを見えるようにできる、ていうのがあるって話は聞いたことあるんだけど、見たのはそのときが初めてでしたね。

それで、


”己は頭に描いた像を架空のものとして現出する事ができる。草薙剣はこのような形をしている。八本ある龍神の剣の一つで、元々は我々の所有物なのだ。”


とか中二病が言ったんです。

右手と左手の真ん中に浮いて見えるのは透けてても確かに剣だったんです。剣ていっても十字軍とかが持ってそうな西洋の剣じゃなくて、忍者とか武士とかが持ってそうな刀だったんですよ。

でも普通の斬る為の刀というより飾られる刀みたいだったんです。

ほら、あるじゃないですか、お寺とかで神棚に供えられてるやつで、盗もうとすると結界で跳ね返されるアレです。あ、お寺じゃなくて神社ですね。神社の神棚に飾られてるみたいなやつです。

うん、そうです、あの微妙に短くて振りにくいやつです。

そういう刀だったんだけど中二病が見せてくれたのはなんか、ごつごつしてたんですよ。


ごつごつしてた、て言っても刀の形が岩みたいだったとかそういうのじゃなくて、えーと、ヴァーチャルファイターて知ってます?セガサターンのゲームなんですけど。

3Dのゲームが出始めの頃のやつで、木彫りの人形みたいにごつごつしたキャラクターが、十年早ぇんだよ!とか言うやつです。

ああいうふうにごつごつしてたんですよ、中二病がワタシに見せた草薙の剣。

今のヴァーチャルファイターてヴァーチャルファイター9とかでしたっけ?ファミ通でちょっと見ただけだからあんまり知らないんだけど、一番新しいやつ、てキャラクターが丸いじゃないですか。丸いていうか、滑らかじゃないですか。

宮廷ガールが見せてくれたやつはそんなに滑らかじゃなかったんです。

一番最初に出たヴァーチャルファイターみたいにごつごつしたポリゴンみたいなのだったんです。滑らかなポリゴンじゃなかったんです。

ていうかあれ絶対、ポリゴンでした。

頭で思い描いた像なのになんでポリゴンなんだろう、て思って宮廷ガールを見たんだけど、中二病は草薙の剣をワタシに見せたまま顔は空を見上げててワタシの方を見てないんです。

心が読めてるんだったらなんでポリゴンなのかに答えてくれてもいいと思うんだけど、答える気がなさそうなんですよ。それどころか答えたくなさそうに苦虫を噛み潰したみたいに渋い顔をしてたんです。

ていうふうに考えてる事も読めてると思うのに答える気がないように見えるのは答えたくないんだな、仕方ないから今度ネタにしよう、と思ったら中二病の顔がまた赤くなったからやっぱり心は読めてるみたいでした。

心が読める、て多分、意図して読めるというより勝手に流れ込んでくるんだと思います。読もうとしなきゃ読めないんだったら、読みたくないときは読まなければいいだけですからね。

心を読めるのも考えものみたいです。

それでごつごつした草薙の剣なんだけど、確かに見た事があるんですよ。

中二病がそのとき着てた認識迷彩の羽衣を買ったときにくじ引きをやって、当たったのがその草薙の剣だったんです。

まあ、なんでくじ引きがあったのか不思議なんですけどね。古物商のお店に買いに行ってキャンペーンとかでくじ引きがあったんだったらわかるんだけど、古物商は売りに来たんですからね。売りに来たのにくじ引きがある、てことは、いつもくじ引きを持ち歩いてるの?とか思ってるんだけどいまだにわからないんですよ。

今度来たときにききだそう、ていつも思うんだけどいつも忘れるんですよね。しかもあの古物商はあんまり来ませんからね。海外に仕入れに行ってるみたいで、売り回るのに時間がかかるみたいです。

しかも仕入れ先が普通の国じゃないみたいでビザが降りるのに毎回いろんな手続きがあるらしいんですよね。

なんていったかな、アトランティスかルルイエとかって名前の国だったと思うんだけど、たまに島ごと海の中に沈むみたいで滞在日数すぎると死活問題みたいです。

いや、沈む、ていうのは満潮とかで沈むとかそういうレベルじゃなくて、なんかがっつり沈むみたいなんです。700メートルの展望台のあるビルが完全に沈んでみえなくなるくらい。観光名所みたいだから一度行ってみたいんですけどね。あれ、でも違ったかな。違う国と勘違いしてるかも知れないです。

まあそれはそうと、くじ引きで当たった草薙の剣なんだけど、名前が違うんですよ。

難しい漢字だったから読み方違ってるかも知れないんだけど、あめのむらくもけん、て名前だと思うんです。

いや今でも思い出せないんですよ。

あめのむらくもけんは中二病の人には渡してないし、売れなくて店長が捨てちゃったから古物商から買った後は見てないんです。


でもそのときは捨てたことなんて知らないし、お店にあると思ったから、それなら知ってるよ、て、あめのむらくもけんを思い浮かべながら中二病の人に言ったんです。

そしたら中二病は、”そ、れ、だ!”ていうかんじでものすごい食いついて来て、


”其れを譲って貰えないか”


て言ってきたんです。

多分、最初は力づくで奪うつもりだったんだけど、力づくで奪おうとしても返り討ちにされる事がわかったから、奪うんじゃなくて頼んできたんだと思います。

……、え?そんなのワタシに決まってるじゃないですか。

ワタシが返り討ちにしないで誰がやるんですか。

譲る、て言ってもその宮廷ガールじゃなくて宮廷ガールに取り憑いてる中二病の人にだから、それだと宮廷ガールの私物は使えなくて取りあえずは交渉次第だな、て思ったけどとりあえず認識迷彩の羽衣を返してほしいから、譲るかどうかは返してもらった後で決めよう、て話になったんですよ。

だからまずはお店に来てもらう事にしたんだけど、化粧の人を放っといて行くのも悪いし、何かに取り憑かれてる宮廷ガールを化粧の人に会わせると説明がうざいことになりそうだったから、中二病にはちょっと待ってもらって、あとでお店に来るように言ったんです。

でも道順どうやって教えようかなとか考えてたら、


”思い浮かべて呉れれば理解できる”


て言われて、代々木公園からお店までの道順を思い浮かべたんです。そしたらワタシが思い浮かべたのを読み取ってわかったみたいでした。

心を読める、て微妙に便利ですね。

携帯とかで見た方が勝手に心が流れ込んでこない分だけ便利だと思うんだけど。


そういうかんじで中二病は待たせておいて化粧の人を捜しに行ったんです。

化粧の人は、宮廷ガールがバスクリン男を、うざいコスプレマニア、てばかにしたとこで耐えられなくなってどっか行っちゃってて、どこに行ったかわかんなかったんだけどすぐ見つかったんですよ。

で、まだ笑いが収まってなかったんです。

そんなに面白かったか?どんだけだよ、て思ったんだけどそこはつっこまずに放置して、代々木公園まで宮廷ガールの後を追ける、ていう用は済んだしお店に戻るけどどうする?てきいたんです。

でも化粧の人は、もう十分笑ったからいい、て言って、お店には寄らずに帰る事にしたんですよ。

化粧の人がやったのは化粧だけだし、化粧は自分で落とせばいいからその後に化粧の人がいなきゃまずいような事は無かったですから。

それでお店には寄らないけど駅まで一緒に行こう、て話になって代々木公園から原宿まで歩いて、じゃあね、てなったんです。

そのときに化粧の人が、あの後どうなった?てきいてきたんだけど、ワタシもよくわかってなくて、バスクリン男が消えて草薙の剣が欲しいみたい、ていったら、ふーん?て首傾げてました。

今思ったんだけど、宮廷ガールに中二病の人が憑依したのって、化粧の人がなんかやったからなのかも知れないですね。別人になるメイク、とか。あの人ならやりそう。


それで化粧の人を駅まで行って見送ってからお店に行ったら中二病がもう来ててお店の中を見てたんです。

レジを任せてたもう一人のバイトの人に代わりにレジやっててくれた事のお礼を言ってレジに入ったんだけどそのとき中二病の人を見て、


あのフラダンサー、何?


とかきいてきたから、ああこの人には認識迷彩の羽衣、フラダンサーの服に見えるんだな、て思ったんです。とりあえず、


単なる意味の分からないお客さんなんじゃない?


て答えときましたけど。

それでその人とレジ代わってから、まず草薙の剣がどこにあるか探したんです。中二病に交渉次第で草薙の剣を渡すにしても、まず草薙の剣がなきゃだし。

でも見つかんなかったんですよ。

店長なら多分、どこに草薙の剣をしまったのか知ってると思ったんですけど、その日は店長が来ない日だったんですよ。

その次の日なら店長は来るし、その日はワタシもバイト入ってたからそのときまで待ってもらうか、て思ってとりあえず中二病には認識迷彩の服から宮廷ガールが元々着てた服に着替えてもらって、次の日にまた来て、て言ったんです。

それまでは中二病は宮廷ガールの家にいればいいと思ったんですけど、家の場所わかるかどうか心配だったんです。

ワタシは知らないし。

でも中二病はわかってるみたいで、”では明日、改めて”とか言って帰ってったんです。


で次の日に店長に草薙の剣の事をきいたら、アレなら捨てたよ、て言われたんですよ。

なんか邪魔だし売れなかったみたいだから、て。

それで、うっわーどうしよう、とか思って。

中二病には一応謝っとこう、て思って待ってたんだけど来なかったんです。

でもそのまま放っとくのもワタシが気持ち悪いから電話したんですよ。

そしたら出たのは中二病じゃなくて宮廷ガールで、


しばらく雨降りそうにないし代々木公園のアレはもういいや、ごめん、ありがと!


て言われたんです。

え?て感じで。

昨日雨降って行ったじゃん!とか思ったんです。

じゃあ草薙の剣は?てきいたら、なにそれ?て言われたんですよ。

だから草薙の剣は店長に捨てられてても大丈夫だったんだけど。

なんか腑に落ちないんですよね。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ