三中【ナヲナノル】
「というわけで自己紹介をしようか」
さきほど大笑いをして僕の頰に指を突き刺していた女の人が腰に手を当ててそう言った。
なんで胸を張っているのかは不明である。
「私は一二三だ。ひーちゃんでも、ふみさんでも一二三様でも構わない。気軽に呼んでくれ。ちなみに二段だ」
様とか………。
僕は内心苦笑いをしつつ彼女の自己紹介を聞いた。
そう思っているのは自分だけではなく先ほどの弓を引いていた女子も自分と同じような反応をしていた。
「んで、好きなものは肉だな」
…………りょ、猟奇的だなこの先輩。
「んで私の相棒はこいつだ」
そう言って彼女がとってきたのは一つの弓であった。
その弓はなんというか未経験者から見ても異質だった。
形は波立っていて色は先ほどの女子が持っていた黒を基調としたものではなく暗い赤を基調としたもので手に持つであろうところには真っ赤というかなんだろうビビットピンクという蛍光色の赤いラインの入った黒だった。
…………………ん、というか弓矢にかける紐をつけていなかった。
「あの、弓って紐をつけるものじゃないんですか?」
ポロリと何も包み隠さずに出てしまったのだが良かったのだろうか?まぁ何も知らない自分では判断のしようがないのも事実だが………。
「紐て………」
「紐…………」
ん?やはりおかしなことを言ってしまったのだろう、二人とも完全に被ってつぶやいていた。
そして、一二三と名乗った彼女はしばらく「紐って、紐って………」と何回も言いながらひとしきり笑っていた。
そんなに笑わなくてもいいじゃないですかと言おうと思ったら「まぁ、そこんところは良いから彼女自己紹介お願いできるかな?」と逸らされてしまった。
完全にスルーだ、なんてこった、なんでそこまでおかしかったのか聞きたかったのに…………。
僕は自らの顔が赤くなっているのがわかるほど恥ずかしくなっていた。
「あ、はい。私は瑞樹です。一年三組です。よろしくお願いします」
と先ほどの見せたようにぺこりと丁寧にお辞儀をして黒髪が流れた。
「(黒髪いいな)」
とポツリと一二三先輩がこぼすのを聞き逃さなかった。やっぱいいですよね黒髪ロング………。しかも弓道の袴によく映えているんだこれが。どこがいいかと聞かれると全部いいというが、強いて言うなら強いて言うならば流れる感じ、その流れる感じかなんとも言えないと思う。しかもメガネですよメガネm……。
「で君は?」
「僕もそう思いますねぇ、くろg」
なんだろう何か言われたような気がするが。
そしてなんかちょっと冷ややかな眼差し……。
「……………………ん?」
「ん? どうしたん?」
「……いやいや、どうもしてないですよどうもシテナイデスヨ」
危ない危ない危うく内に秘めているのが出そうになってしまった、身を引き締めないと。
「三回いうとかかなり怪しんだが………まぁいいか。で君は?」
「的前弓一です。クラスは一年一組です」
よ、よしこれでいいはずだ何も変なことは言っていないはずだ………よね?
だがしかし、自分の予想は普通に跳ね除けられた。
「的前弓一とか…すごい名前だな…驚き通り越して運命感じたわ」
「そうですね、弓道をやらないといけないんじゃないかという名前じゃないですか…」
一二三先輩は驚いた目をして瑞樹と名乗った彼女はキラキラとした目をしている。
……そっちの反応をしてくるとは…言われてみると確かにそう思うな。
「で弓一君は入部希望なのかな?」
「そうですねぇ…」
確かに今まで弓道のとかそんなの気にする人いなかったから気が付かなかったな。
「瑞樹ちゃんは?」
「はい、もちろん入部希望です」
じいちゃんすごい名前だなつけてくれたな……今まで何も起こらなかったことが不思議だ。
「では、明日また来てくれ、入部希望書を持ってくるから」
「あ、はいありがとうございます」
では、またなと一二三はその場を後にどこかに行ってしまった。
「弓一さんよろしくお願いしますね」
「あ、うん。よろしく」
………………ん?
何に?
というわけで気が付かないうちに弓道部に入部していたのを知るのはその後だった。
というわけで理不尽に的確に弓道部に入れられた主人公弓一君
さて彼の高校生活はどのような変化が起こるのだろうか?