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桜の蕾《完結》  作者: アレン
番外編
98/99

聖夜のプレゼント 上

「しんっじられる!!!」


 世の中がクリスマス一色で、カップルが1年で1番イチャつく日、12月24日。


 の、はずなのに……



 女子っぽい雰囲気の内装に、沢山のスイーツが並んでいて、それをキラキラした表情で選んでいる女子達。

 女子限定、クリスマススイーツバイキング。どうして私はここにいるのだろうか。


「まぁ落ち着きなさいな。取り敢えず恥ずかしいから座りなさい」


 ケーキを食べながら、小夜子は呆れ顔を浮かべている。


 いやいや、これは緊急事態よ。落ち着いてなんていられるわけないじゃない。


「だって、今日はクリスマス・イブよ! なのに、なのになんで」


 握る拳がワナワナと震える。

 片手にはスマホ。そこには、さっき返ってきたばかりのメッセージが表示されている。


『義長さん:そうか。二人で楽しんでくれ』


 スマホを投げたい気分だ。


 分かってるの? 今日はカップルにとっては一大イベントのはずよね?! そして、今年は私は独り身じゃなく、彼氏がいるはずよね!!

 なのにぃぃ。


「どーして、デートの一つ誘ってくれないのよぉぉ!!」




 義長さんと付き合って初めてのクリスマス。

 私は1ヶ月前くらいか、この日を楽しみにしていた。

 別段クリスマスへの夢があるわけではない。これまで、クリスマスにはしゃぐカップルを見て、楽しそうだなぁとは思ったことはあっても、羨ましいとは思ったことはない。断じてない。

 でも、だけど!


「今年は特別だと思わない?!」


 ショートケーキにフォークを刺しながら、行き場のないイラつきを吐き出す。


「まぁ、桜の言わんとすることは分かるけどね」


 ゼリーを頬張りながら、小夜子は苦笑を浮かべる。


「なんだっけ、1週間放置されてるんだって?」

「うぅぅ。そうなのよぉ」


 私は崩れるように机に突っ伏す。


 1週間前、クリスマスは一緒に過ごすんだとばかり思っていた私は、ウキウキしながら当日何を着ていこうか悩んでいた。

 その時、あのメールは来たのだ。


『義長さん:すまん。当分忙しくて会えない』


 流石にその時は放心状態になり、スマホを床に落としてしまった。



「それから連絡なかったのよね」

「そー。義長さんスマホ使うの苦手らしくて、私もそんな頻繁に連絡しないから、何日も連絡ないのは普通なんだけどさ」

「流石にそんなメッセージが最後じゃ、気になって仕方なかったわけか」

「そうなのよ」


 ショートケーキを食べ終え、モンブランに手を伸ばす。


「でも、忙しいって言ってるのに、連絡しまくるわけにはいかないでしょ?」

「で、いい子ちゃんになっちゃったと」

「うっ」


 なんで忙しのか。当分って、いつまでなのか。もしかして、他の子と会ってるんじゃ…… う、浮気なんてことないよね?!


 全く納得出来なかったし、聞きたいことは沢山あった。

 だけど、結局私はその返信を。


『桜:分かった! 落ち着いたら連絡してね』


 我ながらヘタレだ。



「さよこぉ。まさか浮気なんてことないよね、ね!」


 情けない声で助けを求めた私に、小夜子はニコッと微笑んで手招きをした。私は顔を小夜子の方に近づける。


「バッカヤロー」

「いたっ」


 完全に棒読みなセリフと共に、チョップをお見舞いされた。これが痛いのなんの。私は涙目になりながら小夜子を見た。


「い、痛いよ」

「あんた馬鹿でしょ。それ本気で言ってるの?」

「で、でも」

「不安になってるのは分かるけどさ、大内さんが浮気するような人だと本気で思ってるの?」


 小夜子の言葉にシュンとする。


 義長さんが私を騙して浮気なんてするわけない。義長さんのことは信頼してるし、彼は私が傷つくような嘘は言わないって信じている。


「大内さんって桜にべた惚れよ。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいね」


 小夜子と民部君とはよく4人で飲んだりしているから、小夜子は私達のことよく知ってる。


「そう、かな」

「そーよ。だから浮気なんて変な心配する必要ないと思うわよ?」


 ハッキリと言ってくれる小夜子のおかげで、モヤモヤしてた気持ちが少し晴れた。


「そういえば、今更だけど今日は私に付き合ってもらっちゃって良かったの? 小夜子だって、民部君とクリスマス過ごしたいでしょ?」

「大丈夫。夜に会う約束してるから」


 素っ気ない言葉とは裏腹に、ケーキを頬張る小夜子の表情はとても嬉しそうだ。


 相変わらずラブラブだなぁ。

 民部君と付き合い始めてから、小夜子は幸せそうな顔をしている。それは喜ばしい事なんだけど、親友の身からすると、小夜子を奪っていかれた気がして複雑な気持ちになる時がある。まぁ、相手が民部君だから仕方ないけど。


「あ、そうだ。桜に報告する事があるの」

「報告?」

「そ。私ね、民部にプロポーズされたんだ」

「へー。プロポーズか」


 ん? プロポーズ……?


「えぇぇぇ!! プロポーズぅ?!!」


 驚きすぎて、危うく椅子から落ちそうになる。


「え、えぇ?! プロポーズって、あのプロポーズだよね」

「結婚をしてくれって提案される意味のプロポーズよ」


 開いた口が塞がらない。


「取り敢えず落ち着いて、倒したコップなんとかしなさい」

「あ、はい」


 驚いた時に倒してしまったコップを戻しながら、もう1度頭の中を整理する。

 民部君が小夜子にプロポーズした、と。


「まだお互い大学生だよね?」


 まぁこのご時世、高校生で結婚なんてのもザラではあるけれども。


「あ、プロポーズって言っても、直ぐにっていうんじゃないのよ」

「そうなの?」

「経緯を説明するとちょっと長いんだけど……」


 と言いつつ、話を聞いてほしそうな顔をしている。


「どうぞどうぞ。傷心中の私に惚気話を聞かせて下さいな」

「実はさ、私未だに告白されることがあるんだ。大学では彼氏いるって言ってるし、たまに民部が迎えに来てくれたりするんだけどさ」

「ほぉ。小夜子の人気は衰え知らずだね」

「で、告白されてるところを民部に見られちゃった時があったの」

「それはそれは」


 彼氏の立場からすると、面白くないだろうな。


「ちゃんと相手には、彼氏がいるからって断ったし、民部にも説明してその時はそれで終わりだったから、スッカリ忘れてたんだけどね。この前のデートの時に、急に真剣な顔してさ」

「ほうほう。それで?」

「突然、結婚してくれ、って」

「そ、それは」


 思わず顔が赤くなる。民部君、ほんわかした雰囲気を醸し出してるのに、意外と大胆だな。


「私もびっくりして聞き返しちゃったのよ。そしたら、顔真っ赤にして慌て始めてさ。別に今すぐって訳じゃなくて、お互い大学卒業して、落ち着いたらって言われたの」


 小夜子は紅茶をひと口飲む。本人は何でもないような態度をとっているつもりっぽいけど、耳が赤い。


「で、小夜子はなんて答えたの?」


 ニヤニヤしながら聞くと、小夜子はコップを置き。


「もちろん。こちらこそって言ったわ」


 幸せそうな笑みを浮かべた。

 私は小夜子の手を握る。


「おめでとうってのは早いかもしてないけど、良かったね」

「うん。ありがとう」


 嬉しい。民部君と小夜子が出会って、付き合うことになったってことだけでも凄く嬉しいのに、結婚なんて。二人の中の『二人』も喜んでるだろうな。


「いいなぁ。羨ましいー」

「何言ってるのよ。羨ましがらなくても、桜はいつか絶対に言われるわよ?」


 ため息をつきながら机に突っ伏す私に、小夜子はポンポンと頭を撫でてきた。


「もちろん。大内さんにね」


 そうウインクする小夜子。私は恥ずかしくて顔を机につけた。


 結婚、か。義長さんとは夫婦みたいな関係だったんだから、今更恥ずかしいなんておかしいけど。やっぱり憧れる。


 私も、義長さんとずっと一緒にいられるんだという印が欲しい。

 彼が私のもので、私は彼のものなんだっていう印が。




『お客様にご連絡します。もうまもなくお時間となります。繰り返します』

「あ、そろそろ時間ね」


 バイキングの終了の放送か流れる。私達は残ったケーキを平らげ、お店の外に出た。

 外はスッカリ暗くなり、色とりどりのネオンが輝きクリスマス一色で、大勢のカップルが仲良さそうに歩いている。


 あーあ。私だって、義長さんと今日を過ごしたかったのに。


「このあとどうする? 買い物でもする?」

「ううん、私帰るよ。民部君と約束してるんでしょ?」

「まだ時間あるから大丈夫よ?」

「んーん。これ以上、ラブラブカップル様に、私の為に時間を割いて頂くのは忍びないからね」

「何言ってんのよ。恋人を理由に親友との時間を無くすなんて嫌よ。ほんとに私は全然大丈夫だから」

「でも……」


 心配してくれる小夜子をどう説得しようか悩んでいると、ケータイが鳴った。メールを受信した音だ。


「ちょっとメールが」


 開いて見てみる。その様子を見ていた小夜子が、一つため息をつき、ニッと笑う。


「あら、心配いらなくなったみたいね」


 その言葉に頬が熱くなる。


『義長さん:今から会えるか?』


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