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桜の蕾《完結》  作者: アレン
番外編
90/99

巡り合わせ

前回の『同窓会』より少し前の話です




「では今日はここまで」


先生がそう言った瞬間私は急いで帰り支度を始める。


「どうしたん。今日は随分急いでるな?」


私の様子に美玲ちゃんは目を丸くしている。


「ちょっと、ね」


熱くなる頬を悟られないよう私は俯きながら手を動かす。

だけど美玲ちゃんはお見通しだったようでニヤリと笑みを浮かべた。


「なるほど。今日は迎えに来てくれとんのね彼氏さん」


言葉にますます熱が上がる。



彼氏さん、か。

なんかこそばゆいな。



「そ、そういうことだから今日は先に帰るね!」

「楽しんできてねー」


美玲ちゃんに手を振って私は教室から出た。



弾む鼓動に合わすように歩みも早くなる。




あの旅行から一週間。


向こうも東京の大学だけど、ちょっと距離の離れたところだったからあれ以来電話とかメールとかしか出来ていなかった。


だけど今日やっと直接会える。



気づけば小走りになっていた。

人にすれ違う度声をかけられるけど私は止まることなく玄関へと急ぐ。



少し息を切らしながら外に出る。

入口付近に人影が。


私は駆け出した。




「義長様!」


走った勢いのまま抱きつく。


義長様は驚いた顔をしていたけどちゃんと受け止めてくれた。



この感触、匂い、温かさ。

凄く安心する。



私は彼の胸に顔を押し付けた。


「寂しかったのか?」


私の頭を撫でながら義長様はクスクス笑う。


そんなこと聞いてこなくても分かってるクセに。


「分かるでしょ?」


素直に口にするのは恥ずかしくてそんな素っ気ない言葉が口に出る。



相変わらずだな私も。



そんな可愛くない私に義長様は優しげな笑みで頬を撫でてきた。


「俺は寂しかったけどな」

「……っ」



この人も相変わらず恥ずかしいこと平然と!



一気に顔が赤くなる。



恥ずかしくてっていうのもあるけど、『俺』と言った義長様の言葉に若干萌えている。


前は『私』って言ってたから。

なんかこそばゆいしドキドキする。


やば、にやけてるかも。



「嬉しそうだな。だがその前に」


頬にあった手が離れ、私は義長様を見上げた。

その瞬間。



「ふぇ?!」


両頬をつままれる。

軽くだから全く痛くはないんだけど。


何事かと目を丸くしていると義長様が顔を近づけてきた。


「流石に様はやめてくれないかな」

「ふぇ?」


苦笑を浮かべる義長様に私は目をぱちくりさせた。



様って……




「あぁ!」



そっか、癖で義長様って呼んじゃったけど、この時代で様付けなんておかしいもんね。


だけどそれならなんて呼べば。



「呼び捨てでいいだろう」


私の考えが読めたのかそんな事を言い出す。



そ、そんなの恥ずかしすぎて出来るわけない!!

流石にハードル高すぎる。



ブンブンと首を振ると義長様は少し不機嫌な表情になった。

それにうっと私は怯んだ。


で、でも呼び捨ては流石に無理だ。

じゃあなんて呼べば……






「義長……さん」


絞り出した答えは『さん』を付けること。

名字を呼んだら本気でつねられそうだし。


真っ赤になりながら呟いた私に義長さんは頬の手を離す。


「それでいい」


彼を見てみると嬉しそうに微笑んでいる。



なんか凄く恥ずかしいな。



だけど嬉しいな。




義長さんとこんな風に会話ができるなんて。

ずっと夢見てたことが現実になってるんだ。


「そろそろ行くか」

「うんっ」


手を差し伸べられ、私はそれを笑顔でとった。










「明日暇か?」

「明日?」


駅の方へと歩いていると、義長さんがふとそんなことを聞いてきた。



えーと、明日は授業は昼までだったはず。

同好会の方もないから。



「大丈夫だけど」

「なら少し付き合ってくれないか」

「どこか行くの?」

「行くというか、実はお前を見せろとサークルの奴らがうるさくてな」


義長さんのサークルといえば、あの美男美女だらけのか。


その中に私なんかが入って行くのは少々気が引けるというか出来れば遠慮したいというか……



そんな私の気持ちに気づいたのか、義長さんは私の頭を撫でた。


「心配するな。他の奴らも彼女や彼氏を連れてくるようだし」

「そうなの?」


じゃあ私が行っても大丈夫かな。

まぁあの集団の相手は綺麗な人が多いんだろうけども。


「それに民部も彼女を連れてくるらしいぞ」

「え?!」


義長さんの言葉に目を見開く。


「民部君って彼女いたの?」

「らしいな。最近付き合いだしたらしいから相手は知らんが」


民部君の相手って誰だろう。


小夜子ってのは流石に有り得ないよね。

会う機会なんてないだろうし。







次の日迎えに来てくれた義長さんと共に居酒屋へ向かう。


「桜は酒は飲むのか?」

「少しは。でもすぐ酔っちゃうからあまり飲まないかな」

「なら今日は飲むなよ」


そう言って義長さんは私の髪を乱暴に撫でる。



あぁせっかくセットしたのに。



と思うけど、こういう行動をする時の義長さんって照れてる時。


私のこと心配してくれてるんだろうな。



小っ恥ずかしいことは平然と言うくせに、こういうことを言う時は恥ずかしがるなんて。


「可愛いね義長さんは」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味」


私の言葉にムッと拗ねる義長さんに笑いがこみ上げる。








盛り上がってる部屋の中。


私は今危機的状況に陥っていた。




「ねぇどうやって先輩のこと落としたの?」

「どこで知り合ったの?」

「あの時抱き合ってたよね!!」


テンションの高い女子に囲まれている。


質問攻めにはあってるけど、みんな悪意はなく興味津々なだけみたい。

なんでも今まで彼女をつくる様子のなかった義長さんに彼女ができてみんな驚いているんだとか。


「だってね。誰が告白しても絶対に付き合ったりしなかったんだもの」

「そーそー。大学一の美人とか、確かモデルの子とかにも告白されたって噂もあるのによ!」


興奮気味な女子達。


私は曖昧な笑みを浮かべる。



ファンの子に嫉妬の感情を向けられるよりはマシだけど、これはこれで何と答えたらいいものか。



困ってる私を他所に女子達の会話はどんどん進んでいく。


「あまりに女に興味無いからあっちの趣味なんじゃないかって噂だったのにね」

「あっち?」


首を傾げるとみんなは顔を見合わせて苦い顔をする。


「あー……彼女さんにこういうこと話すのはどつかと思うんだけどさ」

「はぁ」


少し悩んでから一人が私に手招きした。

近づくと耳元で小さく。


「私達の間では、大内先輩はホモなんじゃないかって」

「はぁ?!」


思わず声が出て慌てて手でおさえる。


少し離れたところで話をしている義長さんの様子を伺うが、幸い私の声には気づいていないみたいだった。


ホッと息をつき、私は女子の方へ向き直る。


「あの、それはどういう意味で……」

「いやだってさ。女子に興味ないんならそういう事じゃない?」

「それに先輩っていつも杉君と一緒にいるからあの二人はできてるんじゃないかってね」


頬を赤らめ盛り上がる女子達。



なるほど、あまりに女子を相手にしなかったから、腐った女子のターゲットになっていたわけだ。



「桜」


上から声がして見上げる。

義長さんが私の後ろに立っていて、それに気づいた女子達がサッとそれぞれ別の机へと移動していった。


気を使われたのか、話を聞かれたのかと焦ったのか。


何はともあれやっと解放された。


「疲れてるな」


そう言いながら義長さんは私の隣に腰掛ける。


「ひどいじゃない。一人にするなんて」


頬を膨らませて抗議する。

そんな私に義長さんは笑いながらポンポンと頭を撫でる。


「悪意があるわけではなかったからな。それにあいつらは桜に嫌な事をいう奴らじゃない」

「まぁ」


随分仲のいいサークルなんだな。


まぁおそらく自分がターゲットになっていたなんて思いもしてないんだろうけど。



「全然女の子を相手にしてなかったって聞いたけど」


ビールを飲む義長さんに尋ねる。



生まれ変わった彼は、私の知っている彼とは少し違うってことは分かってる。

生まれ変わって新しい人生を歩んできた。

例え記憶があるとしても、あの頃の彼ではない。


だから今私といてくれていることだけでも奇跡みたいなことで。

少し胸は痛むが、これまで誰かと付き合ったりしていても仕方がないことだって思ってたんだけど。


「まぁな。記憶自体を思い出したのは四年前だったが、それまでも誰かと付き合ったりはしてなかった」


四年前といえば私があの時代に行って、そして帰ってきたときと重なる。


「元々誰かを探しているような気がしていたんだ。誰かは分からなかったがな」


そう言ってた義長さんは私の頬を撫でる。



記憶を失くしていたときの私や小夜子と同じだ。



やっぱり魂の奥では覚えてて無意識に探してたのかな、なんて。



「記憶が戻って桜を思い出したときは嬉しかったな。俺がずっと求めてたのはお前だって分かったから」

「そっか」


義長さんの手に自分の手を重ねる。



生まれ変わってもなお私を想って、そして見つけてくれた義長さんが愛おしい。







「あ、民部来たか!!」


誰かの声にハッと我に返る。



そ、そうだ今二人きりじゃなかったんだっ。



義長さんから離れ辺りを見回す。

その時目が合った男の人が頬を赤くして目を逸らした。



見られてたか……



恥ずかしい。

穴があったら入りたい。


「久しぶりですね。えっと、桜さんでしたよね?」


顔を手で覆っていた私に民部が微笑みながら近づいてきた。


「あ、はい。久しぶりです」


覚えててくれたんだ。


いや、そりゃあそうか。

あの時も義長さんに抱きついてえらく目立ってたもんね。


「遅かったな」

「少し授業が長引いてしまって」

「昼に終わってたんじゃなかったか?」

「僕じゃなくて彼女の方ですよ」


話す義長さんと民部君は仲良さげで。

この時代でも二人は一緒にいるんだな。


そうホッコリしかけたけど、私はあることを思い出した。


「そ、そうだ彼女さん!」


いきなり叫んだ私に義長さんと民部君は目を丸くする。


「は、はい?」

「民部さんの彼女ってどんな人なんですか?!」

「どんな、ですか。えっと他の大学の人なんですけど、桜さんと同い年だと思いますよ」

「で、どこで出会ったの?」

「友達に連れていかれた合コンで」



合コンか……



異様に質問してくる私に民部君は不思議そうな表情をしている。

義長さんはちょっと不機嫌だけど今は気にしてられない。



他大学って所と同い年っていうのは小夜子と被る。

だけど小夜子は合コンへは行かないだろうし。


そうなるとやっぱり民部君の彼女は小夜子じゃないのかな。



なんだか寂しい気がする。


民部君だって生まれ変わった新しい人生を歩んでるんだから、他の人を好きになったっておかしくない。


だけどあの頃の二人を見てきた私にとっては、生まれ変わって今度こそ二人が一緒にいられればいいのになって思ってしまう。



「で、その彼女は?」


義長さんが聞くと民部君は困った顔をして入口付近へ指をさす。

そこには人集りが。



私みたいに囲まれたのか。

義長さんと同様ターゲットにされていた民部君の彼女さんにも興味があるのだろう。

ご愁傷さまだ。




しばらく三人で談笑していると、私の後ろに人の気配を感じた。

それも結構ご立腹そうな雰囲気を感じる。



ふ、振り返ったら怖そうだ。



「彼女を放ったらかしにするなんてひどいじゃない!」


そう発した声に私は目を見開く。



え、この声って……






「小夜子?!」


上を見上げると怒った顔を民部君の方へ向けている小夜子が。

そして目が合うと小夜子も目を丸くした。


「え、桜?!」

「どうして小夜子がここに」

「それはこっちのセリフ」


口を開けたまま見つめ合う。



えーと、この状況はいったい……



助けを求めようと義長さん達の方へ目線を送る。


「ひとまず座ったらどうだ?」


義長さんのことに小夜子は民部君の隣へ腰を下ろした。


「えっと、この人が僕の彼女の山岸小夜子さんなんですけど。知り合いだったんですか?」


私はまじまじと小夜子を見つめる。



まさか民部君の彼女が小夜子だったなんて。

合コンなんて行かないと思ってたから驚いた。


小夜子も私をじっと見つめていて、そしてフッと微笑む。


「桜、見つけたの?」


言われた言葉は一瞬意味が分からなかった。

けど小夜子の目線は隣に座る義長さんに向けられていて。



そっか。



「うん見つけたよ」



私は笑って答えた。



「小夜子も見つけたんだね」

「うん」



笑い合う私たちを義長さん達は目を合わせ首を傾げていた。




お互いちゃんとまだ見ぬ人に巡り会えた。






これから先もきっと四人で笑い合える。

だってこうしてまた出会えたんだから。






思いついてそのまま書いたのでオチが雑い…


あと何故だろう

義長と桜を二人で会話させると恥ずかしい会話になる気がする

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