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桜の蕾《完結》  作者: アレン
番外編
89/99

同窓会 二


「あっ小夜子ちゃん、桜ちゃん!」


女子の声がし、ボーとしていた意識をそちらへと向ける。


入口付近に人集りが出来ていて、その中心には小夜子と桜が。


「久しぶり遅かったね」

「ごめんね。用事が長引いた挙句桜が道に迷っちゃってさ」

「ちょっと、バラさないでよ」


小夜子の言葉に顔を赤らめている桜。

二年前より確実に綺麗になっている。


化粧をしているからだろうか。




いや、それだけじゃない。

あの頃に感じた悲しげな雰囲気がなくなっている。



遠くから彼女を眺めながら俺はまた過去を思い出す。







修学旅行から一週間。

俺はモヤモヤとした気分で友達の話を聞いていた。


「なぁ村上って変わったよな」

「なんか大人っぽいなったってゆうか、色っぽくなった!」


目の前で発せられる言葉に内心イラつきがこみ上げる。





桜は変わった。

と、いっても性格とか何が大幅に変わったというわけではなく雰囲気がどことなく大人っぽくなった。


話せば今まで通りの桜なのだが、ふとした瞬間見せる瞳、そして悲しげに微笑む表情。


その全てが大人びているというか、なんだか今にも消えてしまいそうで守ってやらなければという思いが沸き起こる。


そう感じているのは俺だけではないらしく、最近毎日誰かに呼び出され、そして告白されている。

昨日なんて先輩から呼び出されていた。


どうやら誰の告白も受け入れていないらしいが、俺の心はざわついている。



このまま指をくわえて見ていて桜を誰かに盗られてもいいのか?



そう自分に問いかけ、そして決心した。







今日、桜に告白する。








委員会で遅くなる桜を待ち、家まで送った。


その間緊張し過ぎて全く会話をする余裕なんてなくて、あっという間に桜の家についてしまった。



「ここまでで大丈夫。送ってくれてありがとう」


微笑んで言う桜。



このままじゃ駄目だ。

今日告白するって決めただろう!



自分を奮い立たせ、俺は桜を真っ直ぐ見つめた。


「なぁちょっと話さないか?」


緊張を悟られないように平然とした声で。

そう意識したけど、声は少し震えていた。


俺の言葉にうなづいてくれた桜を近くの公園まで連れていく。



そして……





「俺、桜の事が好きだ」




言った瞬間桜は目を見開いて固まった。

しばらくして彼女から出たのは俺の言葉が信じられないというものだった。



ヒドイな、これでも相当勇気をふりしぼって言ったのに。



心の中で苦笑を浮かべつつ、俺はもう一度桜に好きだと伝えた。


まだ信じられないのか頬をつねりだす。


その仕草が可愛くて思わず笑みがこぼれた。

頬を赤く染めている桜の反応は期待してもいいのだろうか。


そう期待しかけたが、修学旅行の時に告白しようとしたという話をした瞬間桜の様子が一変した。



悲しげな瞳をし、頭を抱える。



これってあの時と一緒じゃ……



そう浮かんだ瞬間俺は桜の方へと手を伸ばした。


そして彼女の手に触れる。




「やっ!!」




触れた瞬間その手は振り払われた。


驚き目を見開くと、桜も信じられないという表情で自分の手を見つめている。


何ともいえない空気が漂う。

その中で桜のケータイが鳴り、彼女は帰ろうと立ち上がろうとした。


それを俺は引き止めた。

そうしなければいけない気がしたから。


「返事、まだ聞いてない」


我ながら女々しい。


手を振り払われてしまったのにまだ希望はあると抗おうとしている。



俺の言葉に桜は困ったように目を泳がせる。


その様子に苦笑が浮かぶ。


「ごめん。告っていきなり返事をなんて困るよな」

「あ、いや」

「返事はいつでもいいから。答えが出たら聞かせて?」


そう言って俺はその場から立ち去った。



返事はいつでもいいとか。

ただ桜の返事が聞きたくなかっただけだ。



あの時俺が触れた瞬間、泣き出しそうな顔をしていた。

完全な拒絶の表情。


多分俺が嫌だったとかそういうんじゃないと思うけど、俺じゃ駄目なのだと痛感させられた。


時折悲しそうな瞳をする桜を笑わせてやれるのは俺じゃない。



「くそっ」



返事を聞く前に失恋したって分かるなんて惨めだな。


それでもなお、もしかしたらと思っている自分に怒りを通り越して呆れる。










「俺って女々しいよな」

「は?」


思わず零れた言葉に今枝が眉を顰める。


「お前が女々しかったらこの世の男の殆どが女々しいだろ」


そう自信あり気にいう今枝に笑いがこみ上げた。



全然検討違いのこと言ってるじゃねぇか。

てゆうかこいつの中の俺ってどんだけ美化されてるんだよ。



だけどこういう呑気な今枝の言葉に暗くなっていた心が明るくなった。



顔を上げ前を見る。

人集りは減る様子もなくむしろ増えている気がする。


まだ捕まってるのか。

きっと桜は律儀に全員に返事してるんだろうな。


「よ、久しぶり」


肩を叩かれ顔を向けると小夜子が笑みを浮かべていた。


「あれ、お前捕まってたんじゃなかったのか?」

「そんなの逃げてきたわよ。律儀に相手してたら身が持たないからね」


やれやれと首を振る小夜子。

こういう状況には慣れているんだろう。

と、いうことはあの人集りを全て桜相手してるのか。


「元気にやってた?」

「ん?まぁボチボチだな」

「ふぅん」


そう言いながら小夜子は俺の隣に腰を下ろす。


「なんだなんだ?お前らいい感じの雰囲気醸し出して。もしかしてできてるのか?」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら今枝が俺たちを交互に眺める。



こいつの頭はそれしか考えられねぇのかよ。



「ちげぇよ」

「そうよ。私ちゃんと彼氏いるしね」

「「え?!」」


さらっと言われた言葉に俺と今枝は目を見開く。


「何よ。私に彼氏がいたらおかしいわけ?」

「いや、そうじゃないけど……」


小夜子は高校時代、高嶺の花的存在だった。

というのも告白しても絶対に振られていたからだ。


そんな彼女に彼氏がなんて。

この場に集まった男子は夢にも思っていなかっただろう。

おそらくこの場を期に小夜子と仲良くなれればと思ってた奴もいるかもしれない。


その証拠に今枝は開いた口が塞がらないようだ。


「大丈夫か?」


心配になって軽く叩くと、今枝はハッと我に返って引き攣った笑みを俺に向けた。


「い、いやまだだ!まだ村上がいるだろう?!」


あまりの必死さに圧倒される。


いや、お前二年の時桜を怒らせたことあっただろう。

多分万に一つも可能性はないんじゃ……


「あ、桜もダメよ」


俺たちに向けニヤリと笑みを浮かべる小夜子。


なんだこの雰囲気は。


首を傾げた瞬間。



「きゃー!!桜ちゃんそれって指輪?!」


叫び声が聞こえバッと目を向ける。


「う、うん」

「左薬指ってことは彼氏だよね!」


彼女らの会話にその場の全員が耳をすませる。


「うん……」


顔を赤らめながらうなづく桜。


「「ぐわっ」」


男子が一斉に頭を抱える崩れ落ちる。


「なんてことだ……俺らの希望の花が両方誰かのものになっていようとは!」

「あぁもう絶望的だぁ!」


あまりにも大袈裟な反応に女子は全員目を丸くしている。

もちろん桜も。


「えらい騒ぎになってるわね」


その中で小夜子だけが面白そうに笑っていた。









「秀」


ようやくその場が落ち着き桜が俺たちの所に来た。

ただし今枝はまだダメージを受けているが。


「久しぶり」

「久しぶり。桜、彼氏が出来てたんだな」

「へへ。この前できたばっかりなんだけどね」


口元に手をあてる彼女の指には指輪が。



付き合って直ぐに指輪ってどんだけだよ。



なんて場違いな嫉妬が湧き上がる。



あぁやっぱり女々しいな。

友達でいいからと自分で言っておきながら、俺はまだ桜のことが好きなんだ。


彼氏がいるんだから脈なんて全くないのに。



小夜子と談笑している桜を眺めながら痛む胸を抑えた。





「桜ちゃんお迎えが来てるよー」


しばらくしてもう解散するかという雰囲気になった時、そう女子が桜に声をかけた。


入口へと目を向けるとそこには一人の男性が。


俺たちより年上だろう。

男でも見惚れるような顔立ちだ。


その場の全員が彼に目を奪われた。


「桜」


そう微笑んだ男に女子の黄色い声が湧き上がる。


呼ばれは本人を見てみると恥ずかしそうに顔を手で被っていた。


「ほら早く行きな」

「う、うん。みんなまた会おうね」


小夜子に背を押され桜は荷物を持って走っていった。



「もういきなり現れないでよ」

「ちゃんと連絡したけどな」

「えっ?!」


男の言葉に桜は慌ててカバンを漁る。

そんな彼女の様子に男はクスクスと笑っていた。



誰がみてもお似合いのカップル。

桜はこの前からだって言っていたが、何年も一緒にいるような雰囲気を醸し出している。


これは敵わないと男子は肩を落とし、女子は羨ましげな瞳をしている。




そんな中、俺の中には違う感情が浮かんでいた。





良かった。

二人が一緒にいて。




何故か心の底からそう思った。


何でだろう。

桜をまだ好きなのに嫉妬や悔しさはほんの少ししか感じない。


それよりも嬉しいのだ。

桜と男が二人笑いあっているのが。



フッと笑みをこぼす。



あぁなんだろこの気分は。



「ちょっと秀」


小夜子が異変に気づき俺に声をかけた。

だけどそれを無視して俺は二人の元へと歩いていく。


その場の空気が止まった気がした。

全員が俺に目を向けている。



「桜」


声をかけると二人が俺の方を向く。

男は俺の顔を見て目を見開いた。


「お前は……」


小さく呟かれた声には困惑と驚きが滲んでいた。



まぁいきなり来たんだから驚くよな。



桜も目を丸くしていたが、ハッと我に返った。


「あ、えっと。この人がさっき言った私のか、彼氏の大内義長さん」


その場がザワつく。


そりゃあそうだ。

まさか古先に嫌という程聞かされた名前が出てくるなんて。



だけど俺は驚きはしなかった。

代わりに、やっぱりやという思いが浮かんだ。



「そっか」


呟いた俺を桜は心配そうな目で見つめている。

その瞳には悲しみが滲んでいた。



そんな顔するなよ。

俺はもう大丈夫だから。



「桜、この人がお前の言ってた好きなやつか?」


俺の言葉に桜は驚いた顔をする。

そして少し悩んでから目を見開く。



ちゃんと俺の言いたいこと分かったんだろう。



桜は悲しみのない笑みを浮かべた。


「うん」


その表情に俺も笑みを浮かべる。


「じゃあ、今幸せか?」


そう聞くと桜は一瞬隣に目を向け、そして満面の笑みを浮かべた。


「うん」


悲しみなんて一切ない幸せそうな笑顔。



あぁ俺はこの笑顔を桜にしてほしいとずっと願っていた気がする。

ずっとずっと長い間。




「そっか」



自然と笑みが零れた。



モヤモヤとした気持ちのないスッキリとした気分だ。


桜への気持ち完全に無くなったわけではないが、二人を見る前とは違う気持ちが俺の中に芽生えていた。






この二人がずっと一緒笑っていられればいい。



そう心から思った。





なんだか秀の話を書くとどうしても切なくなってしまう……


スッキリとした終わり方ではないかもしれませんね

もう少し自分に文才があれば(´;ω;`)

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