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桜の蕾《完結》  作者: アレン
7章
80/99

80.戸惑い



「うわっ、真っ暗だ」



委員会の仕事が長引いてしまって辺りは真っ暗。

しかも私が最後に出たから辺りには誰もいない。


だけど不思議と恐怖心は感じられなかった。

今までならこんな暗い中一人でなんて怖すぎて小夜子に電話しているところなのに。

なんかつい最近までこんな暗さの中生活していた気がするのだ。



首をかしげつつ校門へと歩いていくと誰かが門にもたれかかっているのに気づいた。


こんな時間まで誰か待ってるのかな?

あれ、でも私が最後のはずたけど……


誰かは私に気づいて顔をこちらに向けた。


「おー、やっと終わったのか」

「秀……?」


予想外の出来事に私はその場で歩みを止める。


どうして秀がこんな所に。

やっとってことは私を待ってたの?


呆然としている私に近づいてきた秀はフッと笑って肩にかけたカバンをさらっていった。


「ほら帰るぞ」

「え、あ、うん」


歩き出した秀を私は慌てて追いかけた。








秀は何も言わず黙々と私の前を歩く。


どうして秀は私を待っていたんだろう。

私が委員会だったということ、いつ終わるか全く分からなかったのも分かってたはずなのに。

こんな時間まで私を送ってくれる為だけに待っていたの?


いろいろ聞きたい事はあるんだけど、どこか緊張しているような秀に私は声をかけられずただ黙ったまま彼について歩いた。








あの角を曲がれば私の家はすぐ近く。

結構会話もないまま黙々と歩き続け、なんで秀が待っててくれたのかは分からないままになってしまった。


「ここまでで大丈夫。送ってくれてありがとう」

「……」


笑顔でそう言うと振り返った秀はしばらく下を向いて、何かを覚悟したように私をまっすぐ見つめた。


「なぁちょっと話せないか?」


その真剣な顔に私は一瞬ドキリとした。

一体何の話だろう。

少し不安が過ぎるけど秀を見つめてしっかりと頷いた。


「じゃあそこの公園でも行こうか」

「うん」





私たちは明かりが照らすベンチに並んで座った。

なんとなく気まずい空気が漂う中、秀は膝の上で拳を握り話し出した。


「ごめんな、こんな時間なのに」

「ううん。大丈夫」

「なぁ俺達が初めて話した時のこと覚えてるか?」

「……うん」


ボールにぶつかった私を秀が保健室まで連れて行ってくれたんだ。


「ビックリしたなぁ。声がしてそっちを見たらボールが村上の顔に当たる瞬間だったんだから」

「え、ほんとに?!」


当たる瞬間を見られてたなんて……

私その時どんな顔してたんだろう。

少なくとも可愛い顔ではなかったはずだ。


「それから廊下で会ったら少し喋るようになって。あぁそういえば一緒に紅葉見たっけ」

「うん。誘うのすごく緊張したんだよ。あんまり仲良くなかった時だったし」

「そうだな。あの時はすごく驚いたけど……嬉しかったんだ」

「え?」


秀の方を見ると彼は微笑みながら私を見つめていた。


「2年で同じクラスになった時は柄にもなく運命なんじゃないかって思ったよ。部活の時少し離れたところで毎日見に来てくれてたのも知ってた。お前が見てるって思っただけで緊張してゴール外しかけたこと何回もあるんだぜ」


私は目を丸くして話を聞いていた。


どういうこと?

これじゃまるで秀が私の事……


笑いながら話していた秀が一変して真剣な表情になり、大きく息をはいて私を真っ直ぐ見つめた。





「俺、桜の事が好きだ」





時が止まった気がした。

いや、私の思考が停止したと言うべきか。



しばらく秀の言ったことの意味が理解出来ず彼を見つめたまま固まった。


「あっ、えっと、あの……え?」

「だから桜こと好きなんだよ」


戸惑う私に秀はもう一度はっきりと好きだと言った。

そこでようやく言葉の意味を理解する。



「え、えぇぇぇ?!」



一気に体温が上がり心臓がドキドキと鳴り出す。


秀が私を好き?!


「こ、これって夢?!」

「そんなわけないだろ!」


頬をつねってみるとすごく痛い。

ってことは今起きていることは確かに現実なんだ。


「で、でも秀が私の事好きだなんて」

「何もおかしいことないだろう」

「そ、そうだけど」


でも信じられない。

ずっと遠くから見つめているだけだった私を秀が気づいていてましてや好きになってくれてたなんて。


「本当は修学旅行の時に告白しようと思ってたんだ」

「あ、だから私を誘ったの?」

「そ。墓見に行こうっていうのは口実で、本当は二人きりになりたかったんだ」


そっか、あの時声がして、それから倒れちゃったから。


誰かの声が。

あの声は誰だったんだろう。


『……』


一瞬脳裏に声が響いた。

掠れて殆ど聞こえなかったけど、あの時聞いたものと同じような……

貴方は誰なの?



ズキリと頭が痛む。

思い出そうとするのと比例して痛みは増し、私は頭を抱えた。




「おい、どうした?」


頭を抱える私の手に秀の手が触れた。

その瞬間。




「やっ!!」



私は秀の手を振り払った。


驚く秀の顔に私は我に返る。



え、私今何を。




「どうしたんだ」

「あ、えっとごめん。ちょっとびっくりして……」


なんとも言えない空気が漂う。



そんな中、ケータイの着信音が鳴り、私たちは慌ててそちらを向く。

私のカバンから鳴る音はしばらく鳴り続け止まる。


「多分お母さんだ」

「そうだなもう遅いから心配してかけてきたんだろうな」


学校を出た時6時半くらいだったからもう7時は回っているだろう。

遅くなるとは伝えていたけどこんな時間になるとはお母さんも思っていなかっただろう。


「そろそろ帰らなきゃ」


その場から逃げ出したくて私はカバンを取って立ち上がる。

その時秀が私の腕を掴んだ。


「返事、まだ聞いてない」


見上げる真剣な目に私は戸惑った。



答えなんて決まってるのに。

私はずっと秀のこと好きだった。

その相手から告白されて『はい』以外の返事なんてないはずでしょう。


なのに言葉が出てこない。

頭の痛みが何かを訴えてくるように私の思考を奪っていく。



黙ったまま目を泳がせる私に秀はフッと息をはいて微笑んだ。


「ごめん。告っていきなり返事をなんて困るよな」

「あ、いや」

「返事はいつでもいいから。答えが出たら聞かせて?」


そう言って秀は立ち去っていった。

私はその後ろ姿を眺めながら立ち尽くす。



どうして直ぐに返事出来なかったんだろう。

秀から告白してくれるなんてずっと夢見てたことだったのに。

自分の行動も今感じる感情も何が何だかさっぱり分からず混乱する。




だけど一つだけ確かなのが、さっき秀に触れられた時、何故か別の人が頭に浮かんだ。


それが誰なのかは分からない。

一瞬浮かんだその人の顔は霧に包まれたように霞んでしまって。

秀から感じた感触と体温が私の知っているものと違うという思いだけが残っている。



どうしてこんな風に感じるんだろう。

男の人に触れられたことなんてほとんどないのに。



「もうどうなってるの……?」



自分で自分が分からなくなる。




どうして違うと感じたの?




なんで、今涙が溢れてくるんだろう。




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