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桜の蕾《完結》  作者: アレン
5章
59/99

59.新しい

私の体を包む香り。

すごく安心できてずっと包まれていたい。


頬に心地いい感触がして私は目を開けた。


「すまん。起こしたか」


微笑む義長様の顔。

つられて私も微笑む。


だけど頭が冴えていき気づく。


今私義長様の膝の上に頭乗せてる。

いわゆる膝枕状態。


「ご、ごめん!」


バッと起き上る。


まさか義長様の膝で寝てしまうなんて。

しかも久しぶりに昼間にゆっくり時間する時間が出来て話してたのに。


「ごめんなさいいつの間にか寝ちゃったみたいで」

「気にするな」


そう言って義長様は私をもう一度自分の膝に寝かせた。


「ちょっと」

「まだ休んでいたらいい。疲れておるのだろう」


こんな状況で眠気なんて……


と思っていたけど、頭を撫でられていると段々ウトウトとしてくる。



そして私はそのまま寝てしまった。




***************


「蕾。おい蕾」


服を強く引かれハッと我に返る。


持っていた野菜が今にも手から滑り落ちそうになっていた。


「わわっと」


慌てて持ち直す。


危なかった。

包丁とかじゃなくてよかったよ。


「大丈夫か?」


心配そうに鶴寿丸君が私を見上げる。


「ありがとう。大丈夫」


微笑むと鶴寿丸君が照れたように俯いた。


口調は相変わらずだけど、最近は私に懐いてくれたみたい。

なんだかすごくかわいく思える。


「もう少しで終わるから待っててくれる?」

「分かった。早くしろよ」


頷いて去っていく鶴寿丸君を見送る。


「よしっ」


さっさと終わらすか。



***************


「どうぞ」

「ありがとう小夜ちゃん」


小夜ちゃんは私にお茶を手渡して座った。


貰ったお茶を飲もうとしたけど、欠伸が出る。


「眠そうですね」

「うん。最近ずっと眠たくて。ちゃんと寝てるんだけど昼間でも眠気が来るの」

「お疲れなんでしょうか」


どうなんだろう。

眠気もだけどちょっと体がだるいんだよね。


「あまり無理なさらないでくださいね」

「ありがとう」


今度こそお茶を一口。

体に沁みてホッとする。


「なぁ蕾。お主に聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

「蕾が殿の寵姫だと聞いたのだが本当なのか?」

「ぶっ」


小夜ちゃんがお茶を吹き出した。

ゴホゴホと咽る小夜ちゃんの背を擦ってあげる。


どうしたんだろう。

そんなに変なこと聞いてきたのかな。


「小夜ちゃんちょうきって何?」

「ええっと……」


小夜ちゃんは少し恥ずかしそうに顔を掻いた。

なんだか言いにくそうだ。


「あ……っと。寵姫というのは、君主に寵愛を頂いている女性のことで。つまり蕾様は殿の」

「うん分かった。それ以上はもういいよ」


恥ずかしくて顔が赤くなる。


寵姫って私が義長様の恋人かってことだよね。

なんてこと聞いてくるんだよ。


「で、どうなんだ?」

「うっ、えっと」


鶴寿丸君の純粋な瞳に戸惑う。


正直に言えばいいんだけど、堂々と言うのは気恥ずかしすぎる。


答えない私に鶴寿丸君は眉を顰めた。


「違うのか?それとも叔父上とという方が本当なのか?」

「は?!」


私と内藤さんがなんて誰が言ったのよ!


「違う違う。内藤さんとはそんなんじゃないよ」

「ならどっちなんだ?」


詰め寄ってくる鶴寿丸君に私は負けて息を吐いた。


「私が好きなのは殿。だからそういう事なの!」


どうしてこんな恥ずかしいこと言わなきゃならないのよ。


恥ずかしい。

穴があったら入りたい。


「では蕾は側室という事か?」


私が側室?


小夜ちゃんの方を見た。


「そうですね。蕾様は殿の側室という事になると思います」


そうかこの時代では私たちの関係ってそういう事になるんだ。


「では蕾は姫なのか?全くそうは見えんな」

「鶴寿丸様それは失礼ですよ」

「だがそうだろう。私が今まで見てきた姫はもっと可憐でお淑やかだった」


それはどういう意味なのかな。


カチンときたけど、鶴寿丸君の言うことは当たっている。


「私は姫なんかじゃないからね」


そんな大層なものじゃない。

何にも持ってないただの女だもの。


「ただ殿に拾ってもらっただけなのよ」


鶴寿丸君は首を傾げる。


私はただ義長様のことが好きなだけ。

それ以上でも以下でもない。


「分からんな」


悩む鶴寿丸君に私は小夜ちゃんと顔を見合わせて笑った。


彼には少し早すぎたかな。


「もう少し大きくなれば分かるよ」


微笑んで頭を撫でてあげると、鶴寿丸君はムッと口を尖らせた。


「馬鹿にしてるのか」


その様子にますます笑いが込み上げた。




「あら楽しそうですわね」


声がして振り返ると、百合さんがこちらに近づいてきた。


「私もご一緒してよろしいかしら」

「うんどうぞ」


頷くと百合さんは空いているところに座り、そして鶴寿丸君の方に笑いかけた。


「鶴寿丸様もいらしたのですね」

「あ、あぁ」


ぎこちなく頷き私の陰に隠れてしまう。


鶴寿丸君は百合さんのこと苦手なのかな。

もしかしたら何かやらかしてこってり絞られたのかもしれない。


「あら?蕾様少し顔が赤いですね」

「それは……」


多分さっきまでの会話のせいだと思う。


そう言う前に百合さんの手がおでこに触れた。


「やはり少し熱がありますね」

「え?」


あれ話のせいじゃなかったの。


「大丈夫ですか?ずっと眠いとも言っていましたし、今日はお休みになった方がいいのでは」

「そうだね」

「では部屋に」

「ちょっと待ちなさい」


立ち上がろうとした小夜ちゃんを百合さんが引き止めた。


なんだか考え込んでいる百合さんを全員が見つめる。


「蕾様つかぬ事をお聞きしますが、月のものは毎月ちゃんと来ています?」

「へ?」

「月のものです」


何を言われたのか一瞬分からなかった。


月のものって……あれだよね。

えっと、え?


「えぇぇぇ?!」


顔が真っ赤に染まる。


鶴寿丸君といい百合さんといいなんてこと聞いてくるんだ!!


「で、どうなんですか?」


さらに聞いてくる。


どうしてそんなプライベートなこと公表しないといけないのよ!

しかも鶴寿丸君だって聞いてるのに。


毎月来てるかなんてそんな……こと……



そこでふと冷静になる。

そういえば。


「来てないわ」


あれ、いつからだ?

二か月か三か月か。


え、てことは……



「それって」


呟いた小夜ちゃんは目を丸くしている。


百合さんがフッと微笑む。


「お子でしょうね」



子供……

私妊娠したってこと?

義長様の子を?



信じられなくて反応が出来ない。


そんな私の肩を小夜ちゃんが掴む。


「おめでとうございます蕾様!」

「そんなに騒がないの。きちんとお医者様に見てもらわないと正確には分かりませんわ」

「そうですか。あ、私殿を呼んでまいります!」


そう言い立ち上がる小夜ちゃん。


私はハッと我に返り彼女の服を掴んだ。


「ちょっと待って。殿にはまだ伝えないで」

「え?」


私の言葉に目を見開く。


そりゃあそうだ、普通なら喜ぶところだもの。


「どうしてそんな」


困惑している小夜ちゃん。

そして百合さんは怖い顔をして私を見た。


「まさか殿の子ではないから、などという事ではありませんよね?」

「それはない。誓って殿の子よ」

「なら何故」


何故、それは。


「今殿に問題を増やしたくないの」


最近毛利が不穏な動きをし始めているらしい。

だから義長様は休む暇なく誰かしらと話し合っている。


それに大友のお兄さんに送った書状の返事があまりいいものじゃなかったらしく、そのことでも悩んでいるみたいだった。


そんな状況なのに私を気遣って会いに来てくれる。

その時は疲れてるところは見せず笑っている。


「私のことで手を煩わせたくないの」

「煩わせるなんてそんなこと」


首を振る小夜ちゃん。



分かってる。

義長様はそんなことないって言うだろう。


だけど今は少しでも考えなきゃいけない事を増やしたくない。



「ちゃんと私から伝えるから。だから今は待って」


百合さんがはぁとため息をついた。


「貴方は本当に……分かりました。ですが私の判断で伝えるべきだと思ったら殿に伝えますからね」

「うん分かった」

「小夜もそれでいいですね」

「はい……」

「ごめんね。ありがとう」


微笑むと小夜ちゃんは少し寂しげに笑った。




私は自分のお腹に手を当てる。


ここに私と義長様の子供がいるんだ。

百合さんはまだ分からないと言ってたけど、私には分かる。

ここに小さな命があるって感じる。


すごく嬉しい。

好きな人との子供だもの。


だけど同時に不安でもある。

この状況で生まれてきてこの子は幸せになれるのだろうか。




ギュッと手を握ると、そこに小さな手が添えられた。

顔を上げると心配そうに鶴寿丸君が私を見ている。


なに弱気になってるんだ。

この子は私が守らないといけないんだからしっかりしないと。


私は不安を振り払い鶴寿丸君に笑いかけた。





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