55.高嶺城
高嶺城は山の上に建っていて、移るために山登りをすることになる。
炊き出しで何度か行きはしたけど、荷物を持ってとなると倍くらいしんどい。
私は息を荒らげながら必死で足を動かす。
「少し休みます?」
小夜ちゃんに言われるが、声が出なくて首だけ振った。
このまま一気に登りきらないともう動けなくなる。
「あ、ほら見えてきましたよ」
顔を上げるとお城の石垣が見えた。
私は最後の力を振り絞る。
「ついったぁ」
石垣に手をつきながらへたり込む。
ヤバイもう動けないかも。
石垣にもたれかかり息をつく。
そして目を開けると。
「わぁ……」
眼下には澄んだ青空。
下を見ると、少し南に今まで過ごしてきた屋敷も見えた。
いい眺め。
圧倒される私に小夜ちゃんは手を差し伸べる。
「さぁ行きましょう」
「うん」
立ち上がり後ろを振り返る。
ここが今から過ごす高嶺城なんだ。
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「ふぅとりあえずこんなもんかな」
部屋に自分の荷物を置いて一息つく。
こころなしか前のより広い部屋にちょっとテンションが上がる。
「蕾様よろしいですか?」
外から内藤さんの声がした。
「どうぞ」
返事をすると内藤さんが入ってきた。
その後ろには初老の男とその影に隠れる少年もいる。
「内藤さんどうしたの?」
「少し頼みたいことがありまして、こちらは野上房忠と陶様の未子鶴寿丸様です」
「初めまして蕾様。私野上房忠と申します。よろしくお願い致します」
深く頭を下げた野上さんに私も慌てて頭を下げる。
「いえいえこちらこそよろしくお願いします」
「ほれご挨拶を致しなされ」
野上さんは後ろの少年の背を押す。
少年は恥ずかしそうに俯き気味にこちらを見た。
「鶴寿丸だ」
そう言ってまた野上さんの後ろに隠れてしまった。
「これこれ。すみませんいつもは素直な方なのですが、なにぶん人見知りなところがあるようで」
「いえ気にしないでください」
私は鶴寿丸君に微笑みかける。
「鶴寿丸君っていくつなの?」
「6つ」
6歳か、それにしては大人しい印象だな。
「で、頼みたい事って?」
「鶴寿丸様の面倒を見ていただきたいのです」
「私が出来ればいいのですが、それは難しいのです」
なるほどそういうことか。
「分かりました。私でよければ」
私はうなづいた。
「良かった。ありがとうございます」
「内藤殿そろそろ」
「そうですね。蕾様よろしくお願いします」
そう言って内藤さんと野上さんは部屋を出て行った。
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鶴寿丸君と二人になった部屋はシンと静まりかえる。
うーん、ここは私が話しかけないとだよね。
「えっと、疲れてない?ここに来るの大変だったでしょう」
「……」
返事がない。
これはどうしたものか。
このくらいの子供と触れ合う機会なんてなかったからどうすればいいのかイマイチ分からない。
こんなんで大丈夫なんだろうか。
「蕾」
頭を抱えていると、可愛らしい声が耳に入った。
ん?今呼ばれたよね。
だけど呼び捨て?
周りを見回してみるけど他に誰かが入ってきた様子はない。
えっと、じゃあまさか……
「おい聞こえないのか蕾」
声に似合わぬ生意気な口調。
それは目の前に座る鶴寿丸君から発せられていた。
「え、鶴寿丸君?」
「聞こえておるなら返事をしろ。のろまだな」
「なぁ!!」
なんだこの生意気なガキは?!
さっきまでの大人しい少年はどこへやら。
全く違う態度に開いた口が塞がらない。
「眠い。私は休むぞ」
鶴寿丸君は立ち上がる。
私はその姿をただ眺めるしかできない。
「何をしている早く行くぞ」
そう言ってさっさと部屋を出ていってしまった。
な、何が起きたんだ?
まさかさっきまでの大人しい子供は演技だったのだろうか。
それよりもあの態度だ。
偉そうというか。
これからあの子の世話をしないといけないなんて。
頭を抱えたい気分だ。




