5.声
「そろそろ戻るか」
そう言って立ち上がった秀は私の方に手を差しのべた。
「ねぇ、時間大丈夫かな」
「ん? 大丈夫だろ」
引っ張ってもらって立ち上がり、その場を後にしようとした。
その時。
『ライ……』
突然後ろから声が聞こえた気がした。
バッと後ろを振り返ったけどそこには誰もいない。
「どうした?」
隣の秀は不思議そうに私を見ている。
――聞こえてないの?
『ライ……』
また聞こえた。
「ねぇ、何か声聞こえない?」
「は、声? そんなの聞こえないけど」
『ライ』
「ほらまた! 」
今度はハッキリ聞こえた。
今まで1度も聞いたことのない声。
だけど何だか凄く懐かしい……
一体誰なの……?
『ライ』
「あなたは誰なの?」
『ライ』
「私はライなんかじゃないっ」
『やっと会えたな……』
その言葉に胸が高鳴る。
涙が溢れて視界がぼやけた。
ふと目に留まった義長のお墓。
私は吸い寄せられるようにそちらに足を踏み出した。
「お、おい! 一体誰と話してんだよ?! どこ行くんだ!!」
秀の焦った声が聞こえたけど、凄く遠くから聞こえる感じがする。
今、私の耳に響くのは……
『ライ、会いたかったぞ』
お墓の前で立ち止まる。
「誰なの?」
『私のことを忘れたのか?』
「忘れるもなにも貴方のことなんて知らない…し……」
突然激しい頭痛に襲われる。
グラリと視界が歪み、膝から崩れ落ちた。
「っっ! 桜 !!」
駆け寄った秀のお陰で倒れることは避けられた。でも、未だに頭が割れるような痛みは続いている。
「お、おい大丈夫か?!」
秀の声がだんだん遠くなっていく。
ダメ……目開けてられない……
途切れそうな意識の中、最後に耳にしたのは
『桜……』
私の名を呼ぶ、秀ではない声だった。
イラストは二太郎さんにいただきました!
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