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桜の蕾《完結》  作者: アレン
4章
49/99

49.想い

太一君と一緒に屋敷から出て少し歩いたとことに内藤さんのいる屋敷があった。

門の所には数人の男が立っていて、正面から堂々とは入れなさそうだ。


「どうなさるおつもりなんですか?」

「うーんまぁ何とかするよ」


ニッと笑うと太一君は呆れたような心配しているような表情をする。


いや分かってるよ。

自分で言ってて無謀だって思ってるから。


「貴方という人は。私を助けてくれた時もそうですが、少し考えてから行動した方がよろしいのでは?危なっかしすぎます」


うっ、確かに。

基本考えずに行動しちゃうからいつも行き当たりばったりになってしまう。


「まぁそんな貴方に救われている人はたくさんいるんでしょうけどね」

「え?」


太一くんは照れくさそうな表情でボソリとつぶやいた。


そうなのかな。

そうだといいな。



「では私はここまでです。くれぐれも無茶はなさらないでくださいね

「うんありがとう」


去っていく太一君を見送ってから屋敷の方へ目を向ける。



さてどうしたものか。


太一君にも言われたけどこの状況で行き当たりばったりはさすがに危険すぎる。


周りを見回しふと屋敷の前に止まる荷台に目が留まった。

少し離れたところで商人らしき人が男と話している。

おそらく屋敷の中に荷物を持っていくのだろう。

ということは……


私はニヤリと口元を上げた。




***************


そっと辺りを伺う。

人の気配は感じられず、移動するなら今のうちだ。


私は迅速かつ静かに立ち上がって廊下の方へ走った。

陰に隠れてホッと息を吐く。


「取り敢えず潜入成功かな」


なんだかスパイ映画の主人公みたいな気分だ。


私は止まっていた荷台に隠れて屋敷の中に入った。

そんなことテレビか小説の中だけだと思っていたけど、案外成功するものだな。


「さて内藤さんはどこにいるのかな」


どこに人がいるか分からないから闇雲に動くことはできない。

もしかしたら殿が来ていて鉢合わせになるかもしれないし……


てゆうか今殿が内藤さんと話をしていたらどうしよう。

根本的なところを忘れていたけど、それは自分の運がいいことを期待しておこう。


「殿の部屋は奥の方にあったからもしかして内藤さんもそうなのかな」


根拠はないけどそれくらいしか思いつかなかった。

私は足音を立てないようゆっくりと奥へと進んだ。




***************


しばらく歩いていき、何回目かの角を曲がる。

そしたら縁側に座る人影があった。


慌てて戻ってそっと人影を伺う。

その正体は内藤さんだった。



やっと見つけた。



周りに誰もいないことを確認して内藤さんの方へ近づく。

足音に気付いて彼は私の方を向いた。


「蕾……様?」

「ごめんなさい突然」

「いえ、どうやってここに?」


珍しく動揺している内藤さんの姿に私はクスッと笑った。


「それは秘密かな」


そう言うと内藤さんの表情が緩んだ。


「また無茶をされたのですね」


まぁ確かにそうだけど。

彼の中では私は完全にお転婆な子だとなっているみたいだ。


ムッと唇を尖らせると内藤さんはますますおかしそうに笑った。


「どうぞ座って下さい」

「うん」


近くに行って縁側に座る。

ふうと息をつくと内藤さんは笑みを消して私を見た。


「で、どうしてここに?」


一気に変わった彼に一瞬たじろいだけど、グッと顔を引き締めた。


「話をしたくて来たの」

「御屋形様に言われて?」

「違う、私の意思で来たの。むしろ殿には外に出るなって言われちゃってるから今見つかったら怒られちゃうかな」


怒られるだけで済めばいいけど……

あの時の殿を思い出して少し冷や汗が流れた。


だけど私が出来ることはしたいと思ったからここに居るんだ。


「ねぇ仲間内で争うなんてやめて。今そんなことをしている場合じゃないでしょう?」


内藤さんは複雑そうに顔を歪める。

私は必死に彼に話し続けた。


「私たちの敵は毛利でしょう?」


問うとジッと私を見つめていた内藤さんは目を閉じた。


「そうですね。ですがそう簡単な話ではないのですよ」

「どうして?何でこんな風になってしまってるの?」

「謀反を冒した重輔は陶様が起こした前当主への争いの時に父親を殺されていたのです。今回のことはおそらくそのことへの復讐でしょう。たとえどんな理由があろうとも仲間を討つなど許せない事。これを黙認など出来ないのです」


内藤さんのいう事は民部くんや他の内藤さん派の人たちが言っていることとほとんど同じだった。

だけどそれを語る内藤さんの表情に違和感を感じた。


「本当にそれだけ?」


その言葉に内藤さんは大きく目を見開いた。

ジッと目を見つめると段々と悲しみに染まっていく。


「貴方は痛い所を突いてきますよね」

「え」

「そうですね。今のはただの建て前かもしれません。私はただ甥である長房を殺され頭に血が上っているのかもしれない。これでは重輔と同じです」


泣きそうな顔をする内藤さんに私は彼の手に触れた。


「お願いそう思うなら考えなおして。こんなこと内藤さんのためにならないよ」


内藤さんは手を振り払うことなく私を見つめた。

しばらくして彼はフッと微笑んだ。


「貴方が私を止めようとするのは御屋形様の為ですか?」


私はハッと手を放した。


彼の言葉は完全に図星だ。

私は殿のためにここにきていると言っても間違いじゃない。

内藤さんの為とか言っても結局根本はそれなんだ。


「そう、かもしれない。私はこれ以上殿が傷つく姿を見たくない」


悲しそうにゆがむ内藤さんの顔を見る。


だけど、だけどね。


「それと同じくらい内藤さんにも傷ついてほしくないとも思ってるの」


もう一度内藤さんの手を取った。

すると内藤さんはピクリと震え瞳を閉じた。


「本当に貴方には敵いませんね」


そう言った瞬間内藤さんが私を抱きしめた。

いきなりで反応出来ずそのまま彼の腕の中に。


「え……」

「そんなに深く関わってこられると勘違いをされますよ」


前に抱きしめられた時とは全く違う状況に私は頭が真っ白になった。



いったい何を言っているの?

勘違いってどういうこと?



体を離され内藤さんと目が合う。

真剣な瞳に目を離すことが出来ない。


固まる私へ内藤さんが近づいていく。

その顔が秀と重なってますます私は混乱した。


だけど一つだけはっきり浮かぶ。




いやだ




私は精一杯の力で内藤さんの体を腕で押す。

あまり力を入れていなかったみたいで内藤さんは簡単に離れてくれた。


「どうして」


訳が分からなくてそう問いかける。


内藤さんは泣きそうな目で微笑んだ。


「貴方が御屋形様を慕っていらっしゃることは分かっています。出来ればその想いが通じればいいとも思っているんです。しかし貴方がこうして心に深く入ってくる度よからぬことを考えてしまうのです」


私はギュッと胸元を掴んだ。

そこに触れる短刀の冷たい感触がこれは現実なのだと私に突きつける。


内藤さんがそんなこと思っていたなんて。

つまり私のこと好きだってこと?


「だけど私は……」


内藤さんの気持ちに応えることは出来ない。

だって私が好きなのは殿なんだから。


グッと口をつぐむと髪を撫でられた。

顔を上げると内藤さんはいつもの優しげな笑みを浮かべている。


「分かっているんです。だからそのように思いつめないでください。私は蕾様の味方でもあり、御屋形様の味方でもあるのですから」

「なら……」

「しかし今回はもう引けないのです。分かって下さい」


結局私はそれから何も言えなくなった。

これ以上私が何か言っても内藤さんを傷つけるだけになる。


私はそのままその場を後にした。





***************


暗くなった夜道をうつむきながら歩いた。

屋敷にたどり着くと殿がもたれ掛っていた。


「殿……」

「遅かったな」


私はバツが悪くて殿の目を見れない。


殿の言葉を無視して内藤さんのところに行った挙句、説得も出来ず逆に彼を傷つけてしまった。


黙ったままの私に殿はため息をつき、そして私の手を引き歩き出す。

私はそれに素直に従った。


しばらく黙ったまま歩く。

さすがにこの時間には人はいなく、廊下は静寂が包んでいる。


「怒らないの?」


私はつぶやくように聞いた。

殿は目だけこちらを向け前を向きなおす。


「そのような顔をしている者を怒れはせんよ」


彼の背を見る。


もしかしたら殿は内藤さんの気持ちに気付いていたのかもしれない。

だから私に行くなって言ったのかな。


じゃあなんであんなに怒ったように言ったんだろう。



あんなことがあったのにそんなことを考える自分に嫌気がさす。

どう言い訳しようと私は殿のことしか考えていないのかもしれない。


だけど本当にそれだけであそこに行ったんじゃないんだ。

内藤さんが傷ついてほしくないって思ったのは本心だった。



目から涙が零れる。




「ごめんなさい。内藤さんを説得できなかった」


泣きながら言った私を殿は顔を振り向かせて見た。

そしていつもの悲しい笑みを浮かべる。


「そうか」





***************



それからしばらく後、殿の説得は届かず内藤さんと重輔さんとの争いは現実のものになってしまった。



争いは激しく、今まで見ていた外の光景は一変しほとんどが灰と消えた。


そこでみんなはやっと気づく。



取り返しのつかないことになってしまった、と。



しかし後から気づいても後の祭り。

目の前の惨状とこの戦のせいで建築が遅れてしまった高嶺城はこれからの私たちの未来を暗示しているように思えてしまう。




そうしている中でも毛利の魔の手は止まることはない。




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