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桜の蕾《完結》  作者: アレン
4章
43/99

43.抱擁

知らせが来てから数日がたった。

あれからだんだんと情報が集まり、厳島であった事が大体分かった。




毛利軍は奇襲攻撃を行う際、三方向から大内軍に攻め入った。


前夜の暴風雨で完全に油断していた大内軍は為す術なく舟を焼かれ、攻撃をもろに受けたらしい。

狭い島では大軍は上手く進軍できず、総崩れに。


兵士達は島を脱出するため舟に乗り込むが、混乱状態で次々と舟は沈没していった。


何人かが毛利軍に立ち向かうが、その甲斐なく陶さん達は大軍に追われつつ舟を求めて西へ。

だけどそこにも舟はなく重臣の一人が毛利の大軍を足止めしたらしい。

そして陶さんは数人と共に逃げ、最後には自害した。




噂話も含まれていて、全てが真実かは分からないけど、陶さんの首が毛利の手に渡ったらしく、彼の死は真実であった。


厳島から逃げのびた者はほんの一握りで、今回の戦いでほとんどの人が亡くなってしまった。

何より陶さんの死は大内の人間に強い衝撃を与えた。



屋敷の雰囲気は重く、聞こえてくる会話からはこれからの不安が滲んでいる。

そのほとんどがこれから誰が大内を導くのか、ということだった。

そして皆口々に言う。



『あの傀儡では駄目だ』



その言葉を聞くたび怒りで声を上げそうになる。

今まで中心になっていた人が突然いなくなって動揺しているのは分かる。

だけど、本来大内の当主は殿なのに。


知らせがあってから直ぐ殿は混乱する人たちを纏めようと動いていた。


あの時、殿だけが冷静だった。



なのに、彼の言葉を誰一人聞こうとしない。

今は民部くんも動いてくれているみたいだけど、その効果は全くない状態だ。



大股で廊下を進んでいると、向こうの部屋から何人かが出てきた。

その中には殿と民部くんも混じっていたけど、私の目が止まったのはその後に出てきた人だった。



内藤……さん?



彼の顔には疲れが滲み、いつものような表情をしているけど無理をしていると分かる。

それになんだか目に生気が感じられない。


気になった私はそのまま進み歩いている内藤さんの裾を掴んだ。

それに気づき振り向いた内藤さんは目を見開いた。


「蕾様……?」

「あの、大丈夫ですか?」


聞いた瞬間彼の目がますます見開かれる。

周りにいた人は既に居らず私達二人になっていた。


「大丈夫です。あ、御屋形様でしたら先ほど一緒に出たので今行けば追いつくはずですよ」


そう笑ったけど、全然いつもの内藤さんじゃない。


「いえ、今は貴方が心配なんです」


真っ直ぐ見つめると、内藤さんはまた目を見開いた。


「内藤さん無理していつものように振舞ってるでしょう?そんなんじゃ直ぐ倒れちゃいますよ」


そうだよ、陶さんの事を兄の様に慕っていると言っていた内藤さんが、今回の事で一番傷つき苦しんでいるはずだ。

それなのに笑みを浮かべる姿がどうしても殿と重なる。


言い終わって内藤さんの様子を伺うと、彼は放心しているようにただ私を見つめていた。


しばらくしてふっと表情が緩み今にも泣き出しそうな笑みを浮かべる。


「貴方って人は本当に……」


その言葉は何故か耳元で聞こえた。

気付くと私は内藤さんの腕の中で彼の胸に顔を埋めていた。



へ?これってどういう……



一瞬頭が真っ白になり、次の瞬間には一気に体温が上昇した。


「えぇぇ!!ちょっ、内藤さん?!」


体を離そうと後ろへ動くと背中に回った腕の力が増した。

それにも動揺してもう頭はパンク状態だ。



え、今私内藤さんに抱きしめられてる?!

ななな、なんで?!



「すみません。少しの間だけこのままでいさせて下さい」


耳元でつぶやかれた言葉は微かに震えていた。

もしかしたら今彼は泣いているのかもしれない。

気づいた私は離れようともがくのを止める。







それからしばらく、私は黙ったまま彼の抱擁を受け入れた。

廊下の真ん中で抱い合う私達は一体どう映るのだろう。


これから戦が続いてこんな悲しみが続いていくのだろうか。


私は真っ黒で先の見えない未来を想像しながら目を閉じた。

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