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桜の蕾《完結》  作者: アレン
3章
41/99

41.出来ること

厳島への出兵が決まった日から屋敷の中は騒がしくなった。

男の人は稽古や作戦などを考えていて、女の人は出兵に向けて様々な準備をしている。


始めのうちは私も小夜ちゃんについて手伝いをしていたんだけど、今までの仕事が数倍の量に加え、そのうえ新しい仕事も増えて、私は完全に足でまといになってしまった。

それを見かねて私には今までの量の仕事だけが任されるようになったけど、力になれない自分が申し訳なさすぎる。


「ほんと情けないなぁ」


井戸の水を汲みながら溜息をつく。

これから戦が始まってしまうっていうのに今からこんな状況で、これから先私がここに居てもいいのだろうか。


このままじゃいけないって分かってる。


「ねぇ聞いた?」


また溜息をつきそうになっていると、少し遠くから声がした。


だ、誰か来る?!


慌てて木陰に身を隠す。

すると女の人が三人こちらに歩いてきた。


いや、そもそもなんで私は隠れてるんだ?

別に悪い事してるわけじゃないのに。


だけど今更出ていくこともできず、そのまま三人の話に耳を傾ける事にした。


「もう戦が始まったって男たちが騒いでたじゃない」

「そうね。もしかしたらここまで攻めてくるかも」

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ」


ほぉ、これがいわゆる井戸端会議というものか。

なんて感心しながら聞いているけど、はたから見たら不審者に見えてるんだろうなぁ。


「だけどここが戦場になったらどうするのかしら。私怪我の手当てなんて出来ないわよ」

「私だって」

「そうよねぇ。覚えないといけなくなるかもしれないわね」

「えぇ、でも噂だと……」


その後も会話は続いていたけど、私には聞こえていない。


そうだ、それなら私にもできるかもしれない!!




**************


「というわけで、応急処置の方法を教えて欲しいの」

「は、はぁ」


なんでもそつなくこなしている小夜ちゃんなら教えてもらえるんじゃないかなって思った。

だけど私の話を聞いた小夜ちゃんの顔は強張っている。


「応急処置……ですか」


視線を泳がす様子を見てなんとなく察しがつく。


「あ、もしかして小夜ちゃん」

「うぅっ、申し訳ないですが私は応急処置は出来ないんですよ」


泣きそうな声で言うもんだからものすごく申し訳ない気分になった。


「ご、ごめんね。小夜ちゃんって料理とか洗濯とか上手だから応急処置もできるのかなぁって思って」

「長い間やっているので慣れているだけなんです。私不器用で細かい作業とかは苦手で」

「そっかぁ」


うーん、じゃあどうしようかな。

他に頼める人いるかな。


「あの、応急処置ができる人に心あたりはあるんですけど」

「え、本当?!」


身を乗り出した私に、小夜ちゃんは言いにくそうな顔をした。

そんな様子に首をかしげる。


「いるにはいるんですけど、蕾様に紹介するのはどうかと思うのですが……」

「どういう事?」


渋る小夜ちゃんをジッと見つめていると、観念したように溜息をついた。


「百合様です」

「え」


顔が引きつる。

うん、まぁ確かに百合さんならできそうだ。

だけど彼女に頼むのかぁ。


「即答で断られそうだな」

「いや、まぁ……そうですね」


なんで私が、とか言われそうだ。

最近は前みたいに嫌がらせを受けることはなくなったけど、会えば一言二言嫌味は言われている。

正直頼みたくない、けど他の人なんて思いつかないし……


「よし、百合さんに頼んでみるよ!」

「えっ、本気ですか?!」


好き嫌い何て言ってられないもんね。

心配する小夜ちゃんを宥め、私は早速百合さんの元へ向かうことにした。




**************


「なんで私があなたに教えなければいけないのですか?」


想像した通りの答えが返ってきた。


「た、確かにそうだけどさ。私も何か役に立ちたいと思ったんだけど、応急処置を教えてくれそうな人は百合さんしかいなくて」

「まぁ、ここで私以外にできる人はほとんどいませんからね」

「じゃ、じゃあ教えてもらえないでしょうか」


めいいっぱい笑ってみるけど、百合さんの睨みが痛くて引きつる。

だけどここで引き下がったら絶対に教えてもらえない。

しばらくこの状態が続き、先に口を開いたのは百合さんだった。


「まぁできる人が増えるのは助かることには助かりますからね」

「えっ、じゃあ」

「ただし私は小夜と違って決して甘やかしたりしませんからね」


開いた口がふさがらない。

てっきり何日も粘らないと教えてもらえないと思っていたのに。


「なんですかその顔は」

「あ、ちょっと以外で……」


言った瞬間睨まれて慌てて口を閉じる。

だけど本当に意外だったんだから仕方がないだろう。


百合さんはプイッと顔をそらした。


「あなたにはいろいろしてしまいましたから……」


ボソッとつぶやかれた言葉に目を丸くする。

少し覗く百合さんの頬は真っ赤に染まっていた。


やばい、なんだか異様に百合さんがかわいく見えるんだけど。


「ありがとう百合さん」

「な!!言っておきますけど着いてこれなくなったらすぐに辞めますからね!?」


真っ赤な顔で放たれる毒舌はいつもより威力が半減している。

これならいくらでも聞いていられそう。

あれ、私ってМっ気あるのかな。


「でしたら今すぐ始めましょうか。さぁ道具を取りに行きますよ」

「え、今から!?」


私の言葉は完全に無視され百合さんはスタスタと歩いて行ってしまった。


まぁとりあえず教えてもらえることにはなったんだよね。

この機会を最大限に生かさないと。


「よし、頑張ろう」



**************


「貴方こんなこともできないんですの?説明したでしょう。これくらい誰でもできる事ですわよ」

「うぅぅ」

「あら、手が止まっていますわ。もうここまでにしましょうか?」


あれから数時間。

上から浴びせられる毒舌を聞きながら必死に手を動かしている。


いや、私が不器用で覚えが遅いっていうのもあるけど、百合さんの教え方が分かりにくくて一向に進まない。


「早くしてくださいな。これが完璧にできるまで今日は終わりませんよ」


ゲッ、嘘でしょ?

今でももう眠くて目が閉じそうになってるのに。


私は強烈な眠気と百合さんの威圧に耐えながら必死に手を動かした。


す、スパルタだ。

最初からこんなのでこの先大丈夫なのだろうか。


「ほら止まっていますよ!」

「イタッ」


一瞬でも可愛いんじゃないかと思った過去の自分に今の状況を伝えてやりたい。


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