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桜の蕾《完結》  作者: アレン
3章
35/99

35.友


私はご飯を口に運びながら悩んでいた。

昨夜元就さんの話で、陶さんが騙されて江良さんを殺してしまうかもしれないという事が分かった。

だから私は一刻も早く陶さんのところに行ってそのことを伝えなきゃいけない。


朝からどうにかここを抜け出せないものかといろいろ探してみて、鍵の空いたままの裏口を見つけた。

だけどそこは人目に付きやすい所で昼に使うことは出来なさそうだった。

あと陶さんのいる場所をそれとなく探りを入れていたけど、結局どこにいるかは分からずじまい。


このまま情報をつかめなかったらどうしよう。

急がないといけないという焦りが増えていく。

そしてあともう一つ、私の中にもやもやしたものが胸に居座っている。



「おい秀。飯落ちてるぞ」


呆れながら言う凜太朗と向かいに居る忠を見て胸が締め付けられる。


出ていかないといけないと思った時、私の頭に二人のことが浮かんだ。

私がここから出て大内に戻ったら多分もう二人に会うことはないだろう。


「あのっ」

「どうしたんだ?」

「えっと、その……」


意を決して口を開いたものの、不思議そうにこちらを見る二人に私は次の言葉がなかなか出てこない。


出ていくなら二人に一言でもいうべきじゃないかと思う、だけどそう出来ないという事も分かっていてその正反対の思いが私をさらに悩ませる。


「ううん。なんでもない」






***************


夜が更け、みんなが寝静まったのを確認して私は準備しておいた荷物を持って部屋を出る。

結局二人には何も言えずじまいになってしまった。


だけどそれで良かったのかもしれない。

もし別れを口にしてしまったら、行くと決めた決心が揺らいでしまいそうな気がした。



ドキドキ鳴る鼓動の音が静かな廊下に響いて誰かに聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。

落ち着こうと深呼吸しながら裏口へ急ぐ。


何とか誰にも見つからずたどり着いた。

周りに人がいないか確認しようと顔を出す、その時いきなり肩を掴まれる。

驚いて振り返るとそこには凜太朗と忠が立っていた。


「な、んで……」


部屋を出るとき二人が寝ていることは確認したのに。

私は目を丸くして固まった。

そんな私に二人は目線を合わせるように腰を下ろす。


「お前が出て行ったから追いかけてきたんだ」

「今日一日様子がおかしかったから気になってたんだよ」


確かに今日の自分は挙動不審過ぎたからな。

私はバツが悪くなって頭をかく。


「ここから出ていこうとしてたんだな」


そう聞いてきた忠から顔を逸らすように私は黙って俯いた。


「秀、理由聞かせてくれないか?」


胸が苦しくなる。

私のことを心配してここまで来てくれた二人に本当のことを何も言えない。

だからって適当な嘘をつきたくもない。

なら……。


私は覚悟を決め彼らの方に目を向ける。


「ごめん、それは言えないんだ。でも行かなきゃいけないところがある」


真っ直ぐ顔を見て言った。

こんな言い方をしたらもっと疑われてもおかしくない、だけど嘘をつくよりずっといい。


二人は黙ったまま私を見つめ、しばらくして同時にフッと微笑んだ。


「うん。やっぱり秀は秀だな」

「へ?」


何故か納得している二人にますます訳が分からなくなる。

そんな私に忠が優しく頭の上に手を置いた。


「大丈夫。お前がここから出ていくことは誰にも言わないから」

「え、いいの?!」

「凜太郎と相談してお前が嘘をついたら報告、そうじゃなかったら見逃してやろうって決めたんだよ」

「まぁお前は俺たちに嘘つかないって分かってたんだけどな」

「でもなんで。そんなことしてもし見つかったら二人が罰を受けることになっちゃうかもしれないのに」

「うーん、なんでだろうな。ただ一つ理由があるとすればお前が会いたいって言ってたやつに会わせてやりたいと思ったからかな」


そう忠は笑う。

凜太朗の方を見ても同じように笑っている。

確か会いたい人がいるって話は忠にしか話していなかったけど、この様子だと凜太朗にも話したんだろう。


胸がキュッと締め付けられ目頭が熱くなる。

こんな危険を冒してまで私の願いを叶えてやりたいと言ってくれる二人に言葉では表せないほどの思いが湧き上がってくる。


「ありがとう」


こんな一言で今の思いは伝わらない。

だから足りない分は笑顔で彼らに伝えよう。


泣きそうなのを我慢して笑っているからきっと変な顔になってる、だけどきっと二人には伝わったはずだ。


「そろそろ行かないと」


名残惜しいけどいい加減行かないと日が出てきてしまう。

立ち上がって乱れた着物を整えていると凜太朗が落としてしまっていた荷物を取ってくれた。


「なぁお前ここからどう行けばいいのか分かってるのか?」


忠の問いに首を振る。

結局陶さんがどこにいるのか突き止められなかった。


「途中誰かに聞こうと思ってるんだけど」


確かこの近くに村があったはずだからそこで聞こうと思っていた。

戦に行くときちゃんと見たから場所は覚えている。


「そっかじゃあこれ持ってけ。何もないまま聞くよりあった方がいいだろうからな」


そう言って差し出してきた紙を受け取る。

中身を見てみるとそれは地図だった。

確かに何も持たずに道を聞くよりも地図を見せて聞いた方が教えてくれる可能性が高くなる。


「だけど貰ってもいいの?これ忠のだろ?」

「まぁそうだけど」


さすがに私物を貰っていくのは気が引ける。

だけど地図は便利だからあった方がいいし……


うーんと二人で悩んでいると凜太朗がそうだと声を上げた。


「この地図は秀が忠から借りるんだ。だからお前がやらなきゃいけない事ってのが終わったら返しにこればいい」

「でもここには戻ってこれないだろ」

「じゃあ俺らの村にこればいい」


ナイスアイデアだとばかりに胸を張る。

凜太朗らしい提案に私は笑みがこぼれた。


「そうだね。じゃあ次会う時まで借りることにするよ」


紙を大切に胸元にしまった。

これは私たち三人がもう一度会うための証だ。

きっと再会は難しいことだろうけど不思議と絶対に会えると思える。


「じゃあ今度こそ。本当にいろいろありがとう」

「あぁ、気をつけろよ」

「うん。忠も無理しすぎるなよ」

「元気でな」

「凜太朗もね。あんまり忠に迷惑かけちゃだめだよ」

「ちぇ、今言う事かよ」


立ち上がり裏口へと足を向ける。

扉に手をかけ後ろを振り返って二人に向かって。


「また会う日まで」


笑顔でそう言った。

二人は笑って手を振る。


「「あぁ、また会う日まで」」



さよならは言わない。

きっと二人に会えるはずだから。





今度こそもう振り返らず足を踏み出した。

一分でも一秒でも早く陶さんのもとへ行かなければ。









ここからは私一人の戦いだ。





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