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桜の蕾《完結》  作者: アレン
3章
29/99

29.新天地

足を止めゴクリと唾を飲み込む。


あれから何日たったのだろう。

ひたすら歩き続けてようやく目的地である櫻尾城を確認できるまでの距離になった。


ここまで案内してくれた人とは2日くらい前私と同じで城に向かう男達が増えたからと別れた。

その時の不安といったら……

もう無我夢中で前の人にくっついていって、城が見えた時には思わず泣きそうになった。


本当に女ってバレやしないだろうか。

未だに自信がなくて襟を意味なく正したり髪をいじったりと挙動不審な態度ばかりしてしまう。


大丈夫大丈夫……


自分に言い聞かせながら胸元にしまってある短刀の存在を確かめ私は城へ入るための列に並んだ。



うわ、すごい人。

ゆっくりと進む列に並んだ男たちはみんな農民なのか土に汚れた服に浅黒く日焼けした顏ばかりだ。しかもほとんどがっしりした体格のひとばかりでちっさい私は圧迫感だけで押しつぶされそうになっている。


「次の者」

「は、はい!」


やっと自分の番が来て慌てて呼ばれた方へ走る。


「名は」


目の前の男は面倒くさそうに机の紙を見たままこちらを見ようともしない。

嫌な態度。まぁバレるリスクが低くなってこちらとしては好都合ではあるんだけど。


「秀と申します」


名前はなるべく馴染みがあって間違えにくいのにしろって言われて浮かんだのが秀だけだった。

そもそも男の子の知り合いが少なかった私がスッと言える下の名前なんて秀以外いなかったのだ。

なんだか複雑な気分ではあるけど仕方がない。


私が名乗った瞬間さっきまでうつむいていた男がゆっくりと顔を上げた。

ヤバい。そんなに声は高い方じゃないから地声でも大丈夫かと思ったけどまずかったか……

男は私の体をじっくりと観察するように眺め眉をひそめる。


「お主随分と貧弱だな。農民の出であろう?」

「そうですが……」

「それにしては肌が全く焼けておらんが」


頬を汗が流れる。

農民として入るために服は周りと同じで土で汚しはしたものの肌まではどうにもできなかった。

もともと運動なんて全くだし、ここへ来てからもほとんど屋敷の中にしかいなかったから私の肌は全くと言っていいほど焼けていない。


「よく見ると女子のような顔立ちだな。まさかお前……」


周りもザワザワと騒ぎ出す。

ヤバい、バレたら絶望的な状況になってしまう。

殿にもう二度と会えなくなるかも……


何かこの状況を打破できるものはないかと考えるが、パニックでうまく頭が回らない。

もうだめだと、泣きそうになった時。


「それは言いがかりだろ」


突然の声に振り返るとそこには私と同じくらいの男の子が二人立っていた。


「なんだ貴様ら楯突く気か?!」

「そうゆうわけじゃない。ただあまりに一方的すぎやしないかって言いたいだけだ」


苛立つ男に至って冷静に言った男の子は、クラスにいたら絶対に委員長とかしていそうな真面目な雰囲気。

背も結構高くそれでいてそこそこガッチリした体つきだ。


「そうだぞ。こいつが見た目で女子じゃないかと言われるのなら俺も同じようなものだろう」


もう一人は私と同じくらいの身長で顔つきはいわゆる女顔。確かに女の格好をしたら迷うくらいの顔立ちをしている。だけど体つきはもう一人と同様ガッチリしていて程よく日に焼けていて女と思う人はいないだろう。


「……」


男もそう思ったのかまだ苛立ってはいるものの黙って机の前に座りなおした。


「わかった、お主もう通っても良いぞ」

「あ、ありがとうございます!」


なんとか危機は脱したようだ。

お礼を言おうと振り返ったが列に並びなおしたのかすでに姿が見当たらない。

探そうとしたけど後ろから次々と人が来て押されるように建物の中に押し出されてしまった。



**********


人の流れに沿って歩いて行くと大きな広間のような部屋にたどり着いた。部屋には男たちが大勢いてどうやらここで寝泊りしなくてはいけないみたいだ。


そういえば忘れてたけど寝るとき男の人ばっかりって事だよね。着替えるのとかもどうしよう……


とりあえず入り口近くの隅っこなら精神的にちょっとはマシかな。

荷物を置いてやっと一息と息をついて周りを見回してみると丁度さっきの二人が部屋に入ってきた。

さっきのお礼しそびれたからいいに行かないと。

二人の方へ行こうと腰を上げた時こちらを向いた二人と目があった。


「君さっきの」

「はい、先ほどはありがとうございました」

「いや、礼には及ばないよ」

「そうそう。君名前は?俺は凛太朗でこいつは」

「忠だ」

「わた、僕は秀」

「秀か、よろしくな」


笑って手を差し出してきた凛太朗はどうやら人懐っこい性格みたい。忠の方は軽く頭を下げただけでクールな感じだ。対照的だけど同じ村の出身で小さい頃からの親友らしい。


「俺たちは二人で来たんだけどお前は? 同じ村のやつとかいるのか」

「いや、僕だけで来たんだ。知り合いは一人もいなくて……」


そもそもスパイとしてここに来たわけだからね。

そんな私を見て二人は顔を見合わした。


「ならこれから俺たちと行動しないか?一人は何かと不便だろうしさ」

「え、でもいいの?」

「ああ、かまわない」


二人の言葉になんだか泣きそになった。

一人でここに来ていることに思っていた以上に不安を感じていたんだと気づく。

そしてそんな私を気にかけてくれた二人の優しさに温かい気持ちになった。


「ありがとう、じゃあそうさせてもらうよ」



これが凛太朗と忠との出会いだった。

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