表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の蕾《完結》  作者: アレン
1章
16/99

16.罠

「蕾様」


洗濯物を干していた私。

後ろから声をかけられて振り返った。


「っっっ!!」

「少し宜しいでしょうか」


そこにいたのは今2番目にあいたくない人。


「ゆ、百合さん……」


彼女の顔を見た瞬間にあのときの情景が思い出されてまた涙が溢れそうになった。


「あら目元が少し腫れていますね。どうかなさいましたか?」

「っっ」


百合さんは自分の目もとを指でなぞりながら口の端を少し上げた。

カァーと顔が熱くなる。



百合さんの言う通り私の目もとは誰が見ても分かるくらい腫れている。

でもこれでもましになったほうだ。



最後に殿と会ってから三日。

私はあの後丸一日部屋にこもって泣き続けた。

自分でもビックリするぐらい涙が止まらなくて、

どれだけ泣いても胸の痛みは消えなくて。


私が彼を傷つけるようなことを言ったくせにバカみたいに傷ついている。

やっと自分の気持ちに気づくことが出来たのに自分で彼を遠ざけてしまった。


後悔と悲しさが私の心を覆い尽くす。




やっと部屋を出たときには小夜ちゃんが悲鳴をあげるほどパンパンに腫れてしまった。


小夜ちゃんが気を使ってくれて今日は洗濯だけをすることになっていた。

のに何で百合さんに会うのよ?!


まだ全然気持ちの整理がついていないのに。



「な、何かご用でしょうか」


せめてもの抵抗のつもりで皮肉っぽく言ってみる。

でも百合さんには全く効かないらしく一層笑みを深くした。


「蕾様はこのあと何かご予定は?」

「無いですけど……」

「今日は林には行かれないのですね。昨日もいらっしゃらなかったようですし」


この皮肉は私には効いた。



行けるわけないじゃない!!


どんな顔をしてあそこに行けばいいっていうのよ。

私は彼を酷く傷つけてしまったのに……



「それなら少しお頼みしたい事があるのです」

「頼み?」

「はい。ヨモギを採ってきて頂きたいのです」

「ヨモギなんて何処で採れるの?」

「裏の林の奥です」


は、林?!


「えっ、林ってあそこですよね?」

「この近くに林は一つしかありませんよ」


い、行けるわけないよ!!

林に行ったら殿に会う可能性がある。

正直今会ったら泣いてまた何を言ってしまうか自分でも分からない。

これ以上彼を傷つけてしまうことは絶対にしたくない。


「あの――」

「今日は手が空いている者がいないのです。蕾様にこのような事を頼むのは忍びないのですがどうかお願いします」


断ろうとしたが、百合さんに言葉を重ねられ防がれてしまった。


「だ、だから――」

「近々重臣の方々がこちらに来られるようなのですが、ヨモギが足りなく困っているのです。殿もよもぎ餅がお好きなようで是非お作りしたいと思っているのです」


頬を赤らめながら百合さんは言った。

瞬間、ドロドロとした感情が沸き上がった。


どうして百合さんが殿のために作るなんて言うのよ。

百合さんは彼とは何もないはずでしょ?

それともあの後二人は付き合いだしたとか?



「仕方ありませんね。蕾様もお忙しいようですし私が採りに行って――」

「いい! 私が行くから!!」


百合さんが自分で採りに行って作った物なんて殿に食べてほしくない。

よもぎ餅がいるのなら私が自分で作ってやる。



「では引き受けて頂けるのですか?」

「ええ」


お互いかお互いを睨めつける。

漫画とかだったらバチバチと火花が散っていそうだ。



これ以上話したくもなくてズカズカと林へ向かって歩きだした。



「蕾様」



振り返ると百合さんはニッコリと笑って、



「林の奥には小さな崖がいくつかあるそうです。なにとぞ足下にはお気をつけて」



何か引っ掛かるような笑み、私にはそう感じた。


**********



木の影からそっと辺りを伺う。


いつもの木のところに殿の姿はなかった。


居ないことにホッとするけど、居ないことが残念な気もする。



木のそばに近づき彼がいつも寝転んでいる場所を見る。

そこは周りと比べて草がペッタリと地面に張り付いている。


「ほんとにずっとここで寝てるんだなぁ」


そっと手で草を撫でる。

百合さんじゃないけどこんなところで寝ていたら風邪を引いてしまってもおかしくないと思う。


私は近くにあった木の棒を手に取った。


**********


「ヨモギって何処にあるのよ」


小一時間ほど探したけどそれらしいものはまだ見つけられていない。

近くの木に背を預けてしゃがみこむ。



結構奥まで来ちゃったな……



何処を見ても初めて見るところ。

迷ったりしないように印をつけておいたから帰りの心配はないけど、流石に不安だ。



早いとこ見つけちゃって帰ろう。



ふぅと息を吐いて立ち上がる。



「って言っても闇雲に探しても見つからないし。どうしよう……」


百合さんもせめてどこら辺か言ってくれればいいのに。

こんなに大変になるなんて想像してなかった。



ふと少し向こうを見ると地面が緑に覆われた場所が目についた。

気になってそこへ行ってみる。


「あった!!」


緑の正体は集まって生えていたヨモギだった。


「よかった。見つかって」


宝物を見つけたみたいに凄く嬉しい。

これって達成感ってやつかな。


さっそく摘もうと足を踏み出す。



「おわっっ!!」


いきなり地面が無くなり危うく倒れそうになった。

体勢を立て直し確認してみると、ヨモギは崖のギリギリの縁に生えている。


「あ、危ない……」


結構な深さの崖だ。

これは落ちたら確実に無事では済まなそう。



「さっさと摘んで帰ろ」


クルリと後ろを向こうとした。

が、目の前に大きな壁のようなものが立ちはだかった。

何か確認しようと顔を上げようとした瞬間。



「っっっ!!」



ドンッと肩を強く押された。



私の体はそのまま呆気なく後ろに倒れていく。


足から地面の感覚消え、体が崖の底へと堕ちる。


余りの事に声を全く出すことが出来ない。







一瞬見えた人影はニヤリと笑みを浮かべていた――










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ