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#2:市場・グランドバザール(2)
ぞくりと言いしれぬ感覚に、イオは身を震わせた。
「っ」
なんとか視線を外すと、慌てて指輪を台にふせ、大きく息を吸う。
(何だろうこの感覚は・・・)
頬を流れる汗をふいていると、背後からジズがイオの手元をのぞき込んできた。
「ねえさん、何か見つけたの?へぇ、指輪か・・・」
「だめっ」
「いいじゃないか、少し見るだけだよ。ふうん、装飾はずいぶん汚れてるけど、きれいな石だね・・・うん、これをもらおう」
気に入った様子で指輪に見入るジズを、イオはあわてて止める。
「ジズ、やめようよ、その指輪。よくないよ」
「なんで?イオはいらないんだろ。なら、ボクがもらうよ」
さっさと代金を支払うと、ジズはイオの手からひったくるように指輪をもぎとった。
「あっ!」
その時、石を支える台座がイオの指をひっかいた。金属製の爪はたやすく少女の皮膚を破り、赤い血があふれ、盛り上がる。
ゆっくりと、まるで時の流れがとまったかのように、血の一滴が落ちていく。
――――ぽたり。
イオの血が、黒い石に落ちた。