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#1:灯りの魔女(4)


眠気はないと思っていたが、ウトウトとしている内に寝入ってしまったのだろう。


気づくと窓の外は薄闇に包まれていた。気の早い一番星が西の空に瞬き、室内にも夜がひそやかに忍び込んでいる。


『灯り』をつけようか、ぼんやり考えていると、足音が聞こえてきた。


人の気配に戸口に目をやると、若い使用人が気遣わしげに声をかける。


「あの、お嬢様。お食事のご用意ができました」


「・・・いま行くわ」


物憂げに答えると、鉛のような体を持ち上げ、軽く衣服を整える。


これから今日最後の仕事が待っている。


―――――父たちに、試練の結果を伝えなくてはならないのだった。







「またか」


イオが結果を告げるやいなや、父、アル・ガニーは落胆の色も見せずに、呟いた。


恰幅のよい体を豪奢な絹でつつみ、首や腕にはいくつも金の装飾をつけている。とくにターバンにつけられたエメラルドの額飾りは、ひときわ目をひく装飾で、このネイシャブールでのアル・ガニーの地位を象徴していた。


「仕方ありませんよ、父上。だって姉上の魔法は『灯り』ですよ。『灯り』の魔法で街が守れましょうか。豊かにできましょうか」


そう答えた声は若く、けれど自信にあふれている。アル・ガニーの隣、イオに向かい合うように座る異母弟、ジズのものだった。


「うぅむ。せめてわしや、ジズのように『土』であったなら・・・」


ネイシャブールはオアシス都市だ。わずかな水源を求め、水をひき、栄えてきた街だ。


それゆえ豊かな水源を可能にする『水』、大地に語りかけ恵みをもらたす『土』、そして天候を左右する『風』の魔法がとくに重宝されていた。


「あなた、それはイオに酷というものですわ。もって生まれた素質はどうしようもありませんもの」


ほほほ、と美しい声で笑う義母も、控えめな態度を保っているものの、息子ジズの誇らしさを隠そうともしない。


イオの実母である、モニールは五年前にはやり病でこの世を去り、今は屋敷の主である父のアル・ガニーと、第二夫人のファラフ、彼女が産んだ異母弟ジズ、そしてイオの四人で暮らしているのだった。


「それより父上、今日このネイシャブールに隊商(キャラバン)が到着したそうですね。明日バザールに特別に市がたつとか」


「まったく、耳が早いな、ジズよ」


「ぼくも見てみたいなぁ。ねぇ、行ってもいいでしょう?父上」


「ふむ、まあ、見聞を広めるためにはいいかもしれん」


「やったぁ」


「あらあら、あなたはジズに甘いこと」


―――――料理の味も何もなかった。


「お先に失礼します」


砂を噛む思いでようやっと料理を飲み込むと、イオは静かに席を立ち、自室へ戻っていった。イオの背には、年相応にはしゃぐジズと、そんな彼を愛おしげに見つめる両親の姿があった。






―――暗い。


自室にもどってみれば、部屋はすっかり闇につつまれていた。


使用人たちは、イオがまだ食事をとっていると思ったのだろう、部屋の燭台には灯りはなく、ただ切り取ったような静けさと、夜に満ちている。


すぅ、と息を吸い、イオは意識を集中する。


すると少女の体が淡い光に包まれた。燐光は次第にあつまり、形を成していく。


『淡き星の瞬きよ、集いて我を照らせ』


そして、イオが力ある言葉をつぶやくと、次の瞬間、少女のまわりにいくつもの光の玉が現れた。光はふわふわと浮遊し、イオのそばを舞うように飛ぶ。まるで、子猫がじゃれつくように、イオが動けばその後につき、部屋をほのかに照らす。


―――――これがイオの魔法。灯りの魔法だった。


ぼんやりと浮かび上がる室内を進み、イオは寝台に腰掛ける。


(なぜ、わたしは『灯りの魔女』なんだろう。せめて『光』ならよかったのに・・・)


悪しきものを退け、邪なるものを清め、闇を払う、光の魔法だったなら。


どれほど誇らしかったか。試練に落ちることもなかっただろう、街の役にも立つ、そして何より、父もイオを見てくれたはずなのだ。


すぐわきの飾り窓にもたれると、イオは夜空を見上げて嘆息する。


少女の気持ちなどお構いなしに、濃紺の夜空には星々がうつくしく輝いている。


ふわふわと、そばを浮遊する灯りを指でつついてみる。ぼんやりと明るいその光は、触れるとほのかにあたたかい気がする。


「母さま・・・」


切なさに呟けば、薄闇に懐かしい声がよみがえる。


『わたしは、イオの魔法が好きよ。あなたの魔法はあたたかい、やさしい魔法ね』


そう答えてくれた声も今はなく。


イオはため息をつくと、堅い寝床に潜り込み、体を丸め小さくなると、ぎゅっと目をとじ、眠りについた。



星が静かに瞬き、砂漠の夜はふけていく。



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