#1:灯りの魔女(1)
1:灯りの魔女
石造りの床には二十人ほどの少年、少女たちがずらりと座り、かたずをのんで壇上を見つめていた。
壇上では一人の老人が薄い巻物を手に、とうとうと名を読み上げている。
「ハミール、ラナ、ナーセル」
痩身の老人だ。頭にはターバンを巻き、その身には幾重にも長布を巻き付けている。
かわいた肌に、もろい枯れ木のような腕、長く伸ばしたひげは白く、けれど半ばシワに埋もれたその慧眼は確かな知性を宿し、まるで古くより叡智を集め、探求してきた、この『館』そのもののような存在だ。
部屋の飾り窓からは午後の光が差し込み、石造りの床に複雑な幾何学模様の影をおとしている。宙に舞う粒子に光があたると、室内にキラキラと不思議な輝きが瞬いた。
いや、光のせいだけではない。この『館』には、整然と立ち並ぶ柱の影や、書物棚の間、あるいは壁に刻まれた魔除けの文字、そこかしこに何かの気配がただよい、『館』全体がピンと張り詰めた清冽な力で満たされているのだった。
――――そう、『魔法』の気配だ。
老師を食い入るように見つめる少年たちの中に、一人の少女がいた。イオだ。
黒髪をかるくまとめ、耳元には唯一の装飾品である青い石が揺れる。いつもならば若く伸びやかなその横顔は、今は緊張にこわばり、胸元で両手をきつく握りしめている。
はりつめるような静寂の中、老師の声が淡々と流れていく。
低く、細く、まるで蜂の羽音のような小さなかすれ声に、いつもならば眠気を誘われるイオだったが、今日ばかりはそうはいかなかった。
一言も聞き漏らすまいと、必死に意識を集中させる。
カサリ、カサリ。
老師がめくる、巻物の残りは少ない。
(あと少し、もう少し。お願い、今度だけは・・・)
祈るような気持ちで少女は目を閉じる。あまりの緊張に耳鳴りがしてきた。
けれどイオの願いもむなしく、
「ファーティマ、アズマール。以上だ」
老師が告げると同時に、まわりからはじけるような歓声があがった。若い少年たちの声は薄暗い石造りの建物に反響し、ガンガンとイオの頭に響く。
―――――読み上げられた合格者の中に、イオの名前はなかった。