12
サラマンダーまでもうすぐ!
再び赤犬、【レッドパピー】の大群に遭遇した俺達は、一瞬でそいつらを滅殺して、先へと急いだ。今俺達はエリア3にいる。ここは、サンダードレイク、ファイァドレイク共々、強力なMobが沸きやすいエリアでもあったため、常時すぐ戦闘を行えるように武器は抜いたまま歩いていた。
「もうすぐサラマンダーか……、」
そう呟いたのはElecだった。そんな彼の額からは汗が一滴流れ落ちる。もうこの熱い洞窟に足を踏み入れてから30分以上かかっている。体冷薬を飲んではいるモノの、熱いものは熱かった。
「Elecは今まで一体何回くらいサラマンダー倒してるんだ?」
「あぁ、ざっと10回くらいかな……、でも、リィナの形見は……」
「言わなくていい。言わなくていいよElec」
10回。10回も死と隣り合わせのダンジョンに足を踏み入れてきているElec。それは十分尊敬に値する。この世界はLvと本人の反射神経、運動神経が戦闘のカギとなる。鈍足で鈍いやつはこの世界で真っ先に死んでしまうタイプだ。
それに、Elecは本体Lv108。経験値もかなり溜めているだろうが、戦闘の経験もかなり積んでいるはずだ。そもそも戦闘は精神力をかなり削る行動で、たくさん戦闘をした方が、それに馴れて段々と戦いやすくなるという傾向もある。彼は108Lv分の戦闘を行ってきた熟練者。
俺は……、本当は……。
「零夜危ない!避けて!」
突然の恵里奈の回避要求に体が勝手に応じ、緊急回避行動をとっていた。そして、今さっき俺が立っていた場所を雷撃ブレスが通り抜ける。前を見ると、再びサンダードレイクが雷撃ブレスを放ってきていた。もう一度緊急回避行動を取り、刀を強く握りしめる。
「大丈夫ッ!?零夜!」
恵里奈がサンダーブレイク相手に【火炎の乱舞】を放ちながらこちらを向き叫ぶ。俺は大丈夫だと返答しながらサンダーブレイクへと向けて走り出す。【火炎の乱舞】は見事にすべて的中したが、サンダードレイクは身じろぎ一つもしなかった。何かおかしい。先程戦闘を行ったサンダードレイクは、【火炎の乱舞】を受けて怯んでいた。俺はその異変に気が付き、奴のLvを確認した。
47Lv。
前のサンダードレイクは41Lvだった。それよりも6Lvも高い。そりゃぁHPも防御力も変わってくる。だが俺はそんなこともあまり気にせず、一気に接近して序盤からスキルを発動。【スラッシュ】。普通なら、渾身の一撃を100%与える1発攻撃なのだが、今は二刀流だから、渾身の一撃を2回。そして、そのどちらもがサンダードレイクの胴体に当たる部分にヒットした。だが、
手応えが悪い。体が堅い。あまりの堅さに手がしびれてしまう。これ以上続けたら刀を落としてしまうと判断し、俺は一気に後方へと回避する。
「奴は堅い!恵里奈、魅琴!魔法攻撃で行け!物理は通りずらいが、魔法攻撃なら通るはずだ!」
「「りょーかい」」
二人は声を揃えてスキル詠唱を始める。
「いでよ、炎舞の轟者・イフリート!!!」
魅琴のスキル詠唱により、Lv4Mobの炎系で基本強いイフリートが召喚された。全身紅色に染められており、両腕は太木のように大きく、その腕には炎が纏われている。炎系代表のMobで、物理攻撃、魔法攻撃療法に特化している。
恵里奈は、相手が雷属性なためやはり有効な炎系のスキル、【火炎の乱舞】の一段階上のスキル【炎獄の乱舞】を放った。正確には、この好きで放たれるドラゴンは炎ではない。炎よりも強力なマグマの塊。そのマグマのドラゴンはやはりうねりながらもすごいスピードで進んでいき、サンダードレイクに直撃した。今はまだHPゲージがまだ余っているため、怯んだ時の鳴き声すらあげなかったが、攻撃を加え続ければ奴も怯むだろうと、俺達は攻撃を続けた。
Elecは物理攻撃しか使えないため、ちょくちょく攻撃して、恵里奈や魅琴に矛先が向かない様にサンダードレイクの気を引かせていた。
俺も同様、何度も何度も両手の刀で斬りつけたが、やはり堅い。そして手がしびれる。まぁ、そんなことはいいのだが、俺の愛用の刀が折れてしまうんじゃないか?と心配するほどの堅さだ。現実世界でいえば、あんな細い刀でコンクリートを斬りつけている気分だ。
だが、俺はとある事に気が付いた。
さすがに堅すぎる。さきのサンダードレイクも、決して堅くないとは言えなかったがここまでではなかった。これは何かある。でも、何がある?…………バフ?
「そうだ!バフ!」
「零夜?」
Elecは突然叫んだ俺に驚き訪ねてくる。
「奴はバフを使っている!それもかなり物理防御力UPのだ!おそらくもうすぐ切れるはず……。その時を狙うぞ!」
「わかった!」
今、サンダードレイクと戦闘を開始して3分程。バフは最大でも4分が限界だったはず。もう少ししたら奴のバフが切れるはず……ッ!?
ドスン!という音と共に、サンダードレイクの身体がつぶれた。正確には何かに潰された。
それを潰したのは、とても巨大な足。その足を伝って上を見ると、サンダードレイクと同じ色の巨大な体。その口からは雷が漏れている。目は赤色で巨大。俺の全長ほどあった。角なんて俺の5倍ほどあり、蚊取り線香の様に内側へと巻かれていた。
「さ…サンダードラゴンだと!?こんな所に出現するわけないのに!!!」
「はぁ!?サンダードラゴンだと?ふざけんなっ!!!サラマンダーの5倍くらい強ぇじゃねぇか!!!」
サンダードラゴン。コイツを討伐しただけで今のLvだと10Lvも上がるだろう強力なモンスター。SSランクのモンスターで、こんな奴と戦うのは250Lvを超えた超熟練冒険者ぐらいだ。
そして、Lv250を超えたBOSSモンスター、この世界の人はユニオンモンスターと呼ぶモンスターを討伐するには、遠征隊という30人以上のグループを組んで行くというのが規定になっている。こんなの4人で相手はできない。
「こんなの無理だ、引き返すしか……ッ?!」
超絶大音量な咆哮を上げるサンダードラゴン。今まで食らったことがある咆哮とは格が違っていた。鼓膜が破れる。とっさに俺はしゃがみこみ、耳を押さえていた。周りの3人も同様にしゃがんでいた。
後から来る痛みが、俺の脳を攻撃した。
「ぐぅうぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」
強烈な痛みにのた打ち回る。今まで感じたことがない痛みだ。それに、このLv差だと、サラマンダーの一撃必殺同様、普通の攻撃でも一撃で死んでしまいそうだ。ここで俺は足が震えるかと思ったが、そうでもなかった。今は逆に、目の前に現れたカッコいい巨大なドラゴンに興奮していた。
「すげぇ。これがこの世界の高みか!!!!!!!」
なんだかんだ言って、この世界は現実の世界よりも楽しかった。いろんな仲間と出会い、いろんなところへと出かける。何よりも楽しい事だった。それに、気持ちが悪いモンスターを見るのは気分最悪だけど、カッコいいモンスターや美しいモンスターを見るのは好きだった。そう、なんだかんだ言ってこの世界を楽しんでいた。
「おい零夜!そんなこと言ってる場合じゃ……」
「だったよ!俺達だっていつかはコイツを倒すんだろ!」
「まぁ、そうだけど」
「今のうちに拝んどくよ!テメェの顔、体を!!!」
俺はかなりテンション上げ上げでサンダードラゴンを睨み付けたが、サンダードラゴンは鼻で笑って、(そう俺は思った)飛び立って行った。
俺は満足だった。遥かなる高みにいるサンダードラゴンだが、いつかはまた拝むことのあるその姿を脳に刻み呟いた。
「なんかサラマンダーの一撃必殺も吹っ切れたわ」
「確かにな、あんなのが出てきたらサラマンダーなんてどうってことないよな」
「だって今のがサラマンダーの数倍強いんでしょ?」
「なんかカッコよかったしね。楽しくなってきちゃった」
「もうサラマンダーは目の前だ。Elec、恵里奈、魅琴。準備はいいな?」
みんながもちろん!と元気良く返答してきて、テンションがいい具合に上がってきた俺達は、使えるバフスキルをすべて使用し、BOSSエリアを目の前に雄たけびを上げる。
「よし、行くぞ!!!!」
ありがとうございました!PV 5000超え、ユニークアクセス1500超えしました!
ありがとう!感想などくれたらうれしいです!
「Another World」もお願いします!