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Elecが凄い!
とりあえず、ファイァドレイクとレッドパピーを討伐した俺たちは、暑さに耐えながら歩いていた。途中いくつかのトラップに引っかかりそうになったが、俺の失敗した【トラップ索敵】を使用して、それをかわす。何度かレッドパピーが襲いかかってきたが、奴らは俺たちの平均レベルより3Lvくらいしか高くないため、難なく討伐できた。
「それにしても、本当に強いですね。Electryckさん!」
さっきからElectryckの強さに、恵里奈も魅琴もかなり驚いていたが、今になってやっとお褒めの言葉を口にした。隣では魅琴もコクコクと頷いている。まず、速さ。ステータスがSPD重視な事もあり、彼の速さを超える者はいないだろう。いわゆる極SPD型といったところだ。
ステータスはこんな感じに決められている。
POW 物理攻撃力を上げる。
SPD 素早さ、攻撃速度をあげる。
VIT 防御力、HPを上げる。
INT 魔力をあげる。
LUK 回避力、運を上げる。
彼はこのSPDを中心的に極振りしているため、基本的な足の速さや移動速度、攻撃速度がとてつもないほど速い。さらに、彼の元々の運動神経と反射神経により、ステータスがさらに磨きかかっている。彼の双槍を振るう速さは尋常ではない。人が出せるスピードではない。
「いや、それほどでもないよ。俺並の速さで攻撃力もある10位以内は他にもいるからな。それに零夜だって……」
「待て待て待て待て!!!!!!それは言わない約束だろオイ!」
彼が何か言おうとしたことを俺が察し、すぐに引き止める。とりあえず彼女達にはまだ教えていないことだったので、今はまだ知られたくなかった。Lv的には彼女たちと近かったため、そのまま仲良くなり、今こうしてパーティを組んでいる。
「まぁ、そうだったな。そういえば、魅琴さんは一体何体くらいの召喚Mobスキル持ってるんだい?」
召喚Mob。召喚士専用スキルを使用して異世界からMobを召喚するスキル。まぁ、名前のままなのだが。召喚スキルには全部で1~10までLvがあって、そのLvによって出せる召喚Mobが変わっていく。彼女が先程召喚したMobは【蒼龍ネペンディア】。必要召喚Lvは5。アレでも5Lvなのだから、10Lvになるといったいどんな強力なMobを召喚できるのか。パーティメンバーである俺も興味津々な訳だが、とりあえず彼女の返答を聞いてみる。
「えーと、最近召喚スキルが5Lvになったから、今のところさっきの蒼龍と、鉄壁のアイアンゴーレムが新しく出せるようになったMobね。それ以外はまだ4Lv以下しか出せないわ」
鉄壁のアイアンゴーレム。名前からしてかなり防御力が高いモンスターだろう。そういえば、前行ったことがある【鉄道鉱山】っていうダンジョンでアイアンゴーレムってMobを見たことがあるような。でっかい体に鉄の岩石が埋め込まれている。全長2m程だろう。
召喚士には出せるMobの最大量が決まっている。1~30Lvが1体まで。31~80Lvが2体まで。81,300Lvが3体。この世界でのLv制限は今のところ300Lv。だが、それはジョブレベルのモノで、自分自身のLvとは違う。表示されるのはジョブレベルだけで、大抵の人自身のLvはわからない。てか、知られないようにするためにジョブレベルだけを公開している。まぁ、本当に心を許した人には教えるだろうが。
でも、俺は今だElectryckにしか本体Lvは教えていない。
「まぁ、ジョブ最大Lvは300だからね。それが初めての職なんだろ?」
Electryckは俺のほうをチラッと見てから、魅琴に視線を移す。彼女の本体Lvは知っている。本体LvはジョブレベルよりもLvUp速度が速いため、彼女は召喚士Lvは35で本体Lvは42。恵里奈も同じくらいのLvだろう。
「えぇ、でも召喚士って結構楽しいわよ。いろんなMobと仲良くなれる」
「まぁ召喚士ソロの人とかいたら寂しくなさそうだね」
「……、恵里奈はなんで魔戦士にしたんだ?」
俺はこれ以上Lvの話をされて俺の本体Lvがさらけ出されるのが怖くて話を変えた。
「え、私?えーと魔法も剣技も両方使えるのは何かいいなぁと思って」
「魔戦士は状態強化とか魔法攻撃、魔法剣技とかスキルが一番面白い職だからね。俺も一応魔戦士やっていたことあるけど、一番気に入ってたのは【光の舞】だね。アレはかなり美しいよ」
Elecが語りだした。彼の本体Lvはギルド紹介の時に載せられるため、公開状態となっている。そして彼は147Lv。今の騎士【双槍特化型】は第2の職で、俺は彼が魔戦士の時に知りあった。確か彼のLvは……、108?
「え、そうなんですか!?私攻撃スキルは少しだけにして、状態以上や基本値増量のスキルばっかり上げているから……。大抵のMMOって、攻撃スキルって普通最後に上げるじゃないですか?」
そう、彼女の言うとおり。MMOのスキル振り分けは、必要最低限の攻撃スキルを少し上げ、後はバフスキルや、永久基本値増量スキルを上げることで、基本攻撃力や命中率。一時的な効果だが状態以上対策やこれまた一時的な攻撃量激UPなど、戦闘を有利に進める振り分け方が何パターンも存在する。そのため、掲示板などには【魔戦士のスキル振り分け】などといったスレが建てられ、どんな振り分け方がいいか他の人に聞いたりする者もあらわれる。
「まぁ、確かにその通りだよ。それに【光の舞】はたしかジョブレベル72Lvからのスキルだからまだ先だよ。でも今回の【火炎洞窟】で3Lv以上ジョブレベル上がるだろうね。無論、本体Lvも」
気が付けば俺の剣士Lvもいつの間にか38→40になっていた。俺の彼女と同じバフスキルなどを中心に上げているため、今回もまた攻撃スキルに上げず、今結構火力が上がるため気に入っている【演舞の闘志】というスキルに振り分ける。このスキルは使用から5分の間、物理攻撃力が30%上がるスキルだ。それに範囲型のため、パーティメンバー全員にその効果が付属される。
こういう範囲型のスキルを多く持っている職は、騎士【支援特化型】である。もうほとんどがバフスキルと永久増加スキルで、本当に人の手助けが好きで、Lv上げの根気がいい人しか選ぶ者はいないという。そのため、パーティメンバー募集の説明のところに大抵、騎士【支援特化型】大歓迎!と書かれている。おそらく、俺はなることがないだろう。
「おっとファイァドレイクだ。俺が狩ってくるよたった3体だし」
Electryckが双槍を抜刀する。そしてゆっくりとファイァドレイクの元へと歩き出す。距離が離れていき、陽炎のせいで彼の身体と槍がボヤケテ見えるが、お手並み拝見とするか。
俺達3人は、Elecがどう3体を相手に相対するか観察することにした。魅琴と恵里奈二人にとっては良い手本となるだろう。
ランキング第6位の実力。
SPD極振りステータス+双槍という名の、高火力ランキング第1位武器のコラボ。
ファイァドレイク3体は、まだElecとの距離が10m以上ある状態での火炎ブレスを放ってきた。モン○ターハ○ターなどに出てくるリ○レウスなどが発射するブレスは、なんだか早くないようにも見えるが、この世界ではブレスのスピードはあんなもんではない。アレの2倍程の速さはあるだろう。SPDそこそこ振りor振っていない人なら、そこから全力で回避行動をとらなければ避けることは不可能だろうが、彼は違った。その状態で、ただの横ステップでブレス3つを避けた。一瞬残像を残して、約10m程ステップで移動した。誰もいないところに発射されたブレスは、虚しく地にぶつかり弾ける。
「「速い……ッッ!!?」」
俺の隣で恵里奈と魅琴が声を揃えてそんな感想を残した。たしかに速い。自分でいうのもなんだが、俺は結構動体視力や反射神経は優れた方だと思っているが、彼の速さには目で追いつけなかった。それに、ただの横ステップであの距離を一瞬で移動する。かなりのSPDステータス補強だ。
そして、そのまま一度のステップで加速して、3体の目の前まで移動する。
スキル発動、【デュアルスピアリング・ラッシュ】。両手に握る槍で11回突きを加える技だ。もともとのPOWステータスの200%の攻撃力で11回の突き。それを3体相手にだから、一体3回か。
態勢を低くし、連撃を加える準備を整える。そのまま身体ごと前に乗り出し突きを開始する。黄色い眼光が揺れる、ズバッズバッズバッと高速で槍が振るわれていく。1秒に10回。もう、人間が出せる速度のレベルを超えていた。ラストの一撃を加えた後、空中でムーンサルトの様に回転しながら後退し、着地地点から3体に突き攻撃を加えた。最後の攻撃は必要なかったが、システム上の問題で繰り出さなければいけない攻撃だったため、途中で中断はできなかった。白目をむいたファイァドレイクがポリゴン化して消えていく。
魅琴と恵里奈、そして俺までもがいつの間にか拍手を送っていた。
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