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「うぁぁぁァァァアアアアアアアアア!!!!!!」
零夜は超大きな声で絶叫しながらとある平原を駆けていた。理由は簡単。怪物に追いかけられているのだ。そしてその数、約10匹。その怪物の形見た目は異常で、ワニみたいな顔にムカデのような体。8本の足を素早く動かして零夜を追いかけてくる。その足の動きを見ていると何か、吐いてしまいそうな気分へと追いやられる。あまりに汚いのだ。そもそもリアルの世界でゲジゲジやムカデなどをみたら、気持ち悪いと思う人が大半であろう。あの大量に生えている足がそう思い込ませる。うねうねといくつもの足を駆使して移動する姿はまるで悪魔の様だ。(自論)
後ろを振り向く暇もなく走り続けた零夜は、ついにスタミナ切れという状態に陥った。そもそも、零夜が一人でこんな所に来るモンじゃなかった。ダンジョンに一人で出向くのならもう少しジョブレベル上げてからにしろ。今更自分自信に叱咤激励しても意味がないのだが。なんて思いながら零夜は、今頃寝ている自分の仲間を思い出す。
今は朝の8時半。そんな時間に零夜の仲間が寝ている理由も簡単。昨日ダンジョンから帰ってきたのは夜中の3時。そして寝たのはその50分後。おそらく彼女らが起きるのは10時過ぎになるだろう。そして零夜は寝ていない。新たに取得したスキルをマスターして、仲間に見せてやろうと頑張ってここに来ては見たものの、疲労のため10匹ものキモい生物を目の前にすると、精神的に萎えてしまうのが普通である。
肩で息をしながらゆっくりと立ち止まり、追いかけてくる10のムカデに目をやる。なんて気持ちの悪い見た目をしているのか。頭は緑、体は黄土色。どんな生き物だよ!とツッコミたくなるような形をしているワニムカデを切るための太刀を背中の鞘から抜刀する。
黒い刀。刀身は黒く太陽の光に反射して輝いている。長さ約1.4m程で、どんなモノでも簡単に切り落とすことができそうな刀だ。零夜は運よく、このゲームという現実世界でこの刀をドロップアイテムとして拾った。手に入れた。
この武器を使い始めて早々1カ月たっただろう。初めて手に取ったときは、何て重い刀なんだと思ったが、今はこの重さ……威力Lvが俺の筋力を鍛え、攻撃を通してくれている。この世界だと、武器に重要なのは攻撃力ではなく、威力Lvの方が重要だ。威力Lvが小さいと、敵の甲羅や鱗を突き破ることができない。攻撃力だけあっても、敵のソレを打ち破れなければダメージは通らない。様は敵が身を守るために持つ壁を突き破るためのLv。この刀の威力Lv.25というのは、かなり高い方なのだ。威力Lv.は30までしかないため、25はかなりの高レベル。だが、その代わりに攻撃力が低い。
今、面と向かっているムカデは、さきほど突いてみたところ、結構な硬さの甲羅を携えている。前まで持っていた俺の刀だと、おそらく刃が通らなかっただろう。そして今の体力で普通の斬撃を与えてもかなり小ダメージで済んでしまうだろう。
「はァ……、ちくショウ!うまく使うことできねェけどやるしかないのか……。まぁ、もともとこれを練習するために出てきたんだけどな」
呟きながら俺はさっと左手をだし、パソコンのキーボードをたたくような素振りを見せる。実際、俺の視界には持ち運び可能のパソコンの様なモノが見えているのだが。そこでアイテム欄を選択する。そこには、合計三本の刀があり、そこから一つ、この太刀と二刀流することができる小太刀という部類の刀を取り出す。
左手でそれを握り、唱える。
「BladeDance(剣舞)」
呟くと、俺の背中の周りに四本の光剣が浮き上がる。両手に握る二つの刀と合計六本の刀を装備できるユニークスキル、Bladedance。システムが勝手に活動してくれて、両手に握る刀の動きに合わせて斬撃を行い、敵に追加ダメージを与えることができるスキル。なにかいずい気もするが、生きるためだ。このスキルはまだ人前で使ったことがなく、こうやってソロでダンジョンへ赴くときに練習しようと考えていたのだ。
そして今、そのスキルを解放した。
「ウォォォォォォラァァァァァ!!!!!!」
俺は四本の羽の様に携えられた光剣と共に、ワニムカデ、正式には【アリゲイツフッド】10匹のもとへと走る。10匹は、俺と取り囲むように円を作り出し、四方八方から俺にとびかかってきた。俺は6本の刀を使い、それに相対する。実に綺麗な剣だった。なんかゴージャスなアクセサリーをたくさんつけているような優雅な気分となる。
背中の4本の光剣を体の周りを回転させるように移動させ、近づいてくる【アリゲイツフッド】を振り払う。そして、宙を舞うソレに向けて手を向ける。その動きに従い、4本の剣がその体を貫き、再び背中の定位置へと戻ってくる。
手の動きに合わせて動く剣は自由自在だった。手を向けた方に飛んで行ってくれる。それもものすごい速さで。光剣というくらいだから、光の速さで動いてるのだろう。
青光る光剣は残像を残して次々と【アリゲイツフッド】の胴を貫いて、その体をポリゴン化させていく。残り4体。このままBladedanceで片を付けようと思っていたところだった。
バッと、残り4対のほうへと手を向けたところ、光剣は飛んで行かない。いや、飛んでいく前に無くなっていた。スキル使用時間が終わった。
「ぁッ!?ちょっとマジかよ!早いよ終わるの!あと4匹いるのにィィィィィ!!!!」
再び逃走を開始する。平原と言っても、草は靴が隠れるくらいの長さで足場は安定していない。この状況で転んだりしたらアウ……トッ!
ドカッ!!と音を立てて俺は草原にうつ伏せに倒れこんだ。見事に大きな石に足を躓き、走っていた勢いのまま倒れこむ。
「がぁぁぁ!鼻がぁぁぁぁ!!!!」
倒れた時に地面に初めて着地したのは鼻で、何かポキッと音が鳴ったような気もするが、精神的な面の問題が発生しそうなため、そこは知らないふりをしておく。
「くそくそくそ!ムカデめ!なんで俺よりレベルが高いんだよ!本当の世界のちっこいムカデならキモいッて言うだけで我慢してやるのにぃぃ!」
そういいながら、走っている時も握りっぱなしだった刀を再び力強く握る。なんか手汗かいちゃったな。なんて思いながら俺はムカデ野郎を睨み付ける。来たねェ外見しやがってよぉ……。
とりあえず俺は走る。刀を握って走る。4対のムカデ野郎に向かって走る。