うそつきの旅
うそつきが歩いていました。
川がありました。釣り人が2人、釣りをしていました。
うそつきは言いました。
「やぁ、あそこで誰かが溺れているぞ」
慌てる釣り人を尻目に、うそつきは歩いていきました。
うそつきが歩いていました。
子供がいました。
「やぁ坊や、あっちから狼が来るよ。逃げなきゃね」
うそつきは歩いていきました。
うそつきが歩いていました。
貴婦人がいました。
「はじめましてマダム。我が主人があなたとお友達になりたいと申しております。つきましては本日午後、山の上にあるお屋敷においでください」
流暢に言って、うそつきは歩いていきました。
うそつきが歩いていました。
前から急ぎの馬車が来ました。
「あれは人買いの馬車だね。これから売りに行くのかな」
独り言にしては大きくうそつきは言って、すれ違って歩いていきました。
うそつきが歩いていました。
嵐でした。木の枝枝がしなって、嫌な音を立てておりました。あの飛んでいるものはなんでしょうか、どこかの家の屋根でしょうか。うそつきは粗末な家に雨宿りを頼みました。
「実はこの嵐は悪い魔法使いが起こしているのです。魔法使いは誰かの死を願っています。それはたった一人でいいのです」
重大なことのように言って、青ざめて出て行く粗末な家の主をうそつきは見送りました。
うそつきが歩いていました。
小鳥が春を歌っていました。
うそつきは言いました。
「小鳥さん小鳥さん。今日はいい小春日和だねぇ」
静かな道を、うそつきは歩いていきました。
うそつきが歩いていました。
うそつきは歩いていました。
うそつきは嘘をつき、その結果に興味などないように歩いておました。
うそつきは歩いていきます。