君の歌
誰もいない公園のジャングルジムの上で、私は歌う。毎日、毎日。
低く、唸るようなアルトで。
「何を歌ってるの?」
下から声を掛けられて、歌うのをやめた。足もとを見ると、知らない男の子がニコニコしながらこちらを見ている。
「…この世界の破滅を願う歌」
私は低い声で呟いた。彼はポカンとした顔をしてから、笑った。
「その割に、綺麗な声とメロディだった」
そんなことない。私の声は汚い。気持ち悪い。声も、身体も、心も、全部気持ち悪い。
男の子は私の隣に上ってきた。そして呟いた。
「続き、歌って」
私は歌った。世界が早く終わればいいのに、と。
彼は眼をつぶってそれを聴いていた。聴き続けていた。
それから、彼は毎日やってきた。
私は毎日、ジャングルジムの上で歌を歌った。
彼は毎日、ジャングルジムの上でその歌を聞いた。
「君が君のことを嫌いでも、僕は君のことが好きだよ」
彼は笑顔でそう言った。
その彼は、もういない。
自殺、だった。彼は私よりも先に、自分の世界を終わらせてしまった。
誰もいない公園のジャングルジムの上で、私は歌う。毎日、毎日。
高く、透き通るようなソプラノで。
彼の幸せを祈る歌を。
空の向こうまで、届くように。