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繰り返される日々

朝、いつものように目を覚ました。今日も仕事か…と朝早くパンとコーヒーを味わい、スーツを着て、出発する準備をした。今日も仕事だ…

だが突然、会社から連絡が来た。理由は分からないが今日は臨時休業だそうだ。はぁぁ、なんだ…と半分がっかり、半分安堵の溜め息をつき、スーツを脱いだ。まだ寝れるのかな、と思ってベッドに向かったが、もう目が覚めてしまったのでしばらく自宅でのんびりする事にした。

だが、やがてそれも暇になったので、どこか街をぶらぶらする事にした。

いくつかの店がしまるのを見て、自分と同じ臨時休業の者が沢山いるのだろうかと思った。そうだとしたら、どうしてだろう。今日、何かあるのか、あったのか。

その駅に着いて、しばらく街角をぶらぶらしたが、やがて本屋を見つけたので中に入った。そこで長編小説を見つけて取り出して読んだ。

三時間ほどでその小説を読み終え、本棚にしまって本屋から出て、近くのラーメン屋で味噌ラーメンを食べた。その味はまあまあであったが、あまり金がないから仕方ないと思った。

ラーメン屋から出て、ふたたびぶらぶらした時にある男を発見した。それは小学生からの旧友であった。彼もこちらを認め、呼び掛けた。

「須藤!」

「桜田!」

「久しぶり!」

「桜田も休業?」

「うん。」

そしてそのまま桜田と話した。

「いや~、どうして休業かね…」

「ああ、知らない?」

「何が?」

「全面核戦争の噂。だから、それを知ってる社長さんとかが蒸発して会社が休業になると言う噂が…」

「え?それ、本当なの?いつ?」

「分からない。ただの噂だからねぇ…だけど今日中、おそらく今夜と言う話が。」

「そんな…」

「まあ、噂だけど。」

「でも現に休業してるじゃないか。」

「うん…」

「わ、どうしよう、どうしよう…」

夜は不安に包まれた。いつ核ミサイルがこちらに迫って来るのか分からない。死の恐怖に怯えながら酒を飲み、そのまま眠りに就く。




目覚まし時計の音に気付いて、布団から飛び起きた。なんだ、核戦争は起きなかったのか。桜田め嘘ついたな。さて、今日は仕事あるかな…

だが再び会社から臨時休業の連絡が来た。なんだ、またか。あ、でも、ひょっとして核戦争は今日に起こるのかもしれない。昨日は偶然回避と言う訳で。だが、休業がこんなに続いていいのだろうか。会社はどうなる。

また本屋に行き、昨日とは違う長編小説を読んだ。それを三時間程読んだ後、小説を棚にしまい、昨日と同じく、まあまあな味のラーメンを食べた。会計に行った時、奇妙な事に気付いた。お金が減っていない。昨日ラーメン食べたのに。まさか昨日うっかり払い忘れたのかな。レシートすらない。とにかく会計でレシートを受け取り、財布の奥にしまった。

ラーメン屋から出た時に再び桜田に会って再び話した。

「しかし、また休業だね。」

「やっぱり皆怖じけ付いてるんだよ。核ミサイルを押すのもやっぱ怖いんじゃない?」

「うん。そう核戦争なんか起きないよ。」

「そうだよね。でもなんで今日も休みなんだろ。」

「今日起きるんじゃない?」

「まさかねぇ。」

まさかとは思いつつ、夜はやはり不安であった。恐らく雷のような閃光が来た瞬間世界は終わるのだ。もはや記録なぞ無意味な世界。もしかしたら死後の世界はその時になって始めて意味を成すのかもしれない。現実の全てが消えたその時に。核戦争後の荒廃したその世界の向こうになにがあるのだろうか。色、形、音、それらは現実の知覚に過ぎない。それらがなにもかもないのか。むしろなにもかもなのか。それらは死んだ後に分かるのだろう。「分かる」と言うのがあればの話だが。とりあえず今は眠りの世界に身を委ねよう…




「ちょっと奇妙な話なんだけど。」

翌日、桜田が話した。

「何がだい?」

「僕の友人の、情報通の久一いるじゃん?久一が核爆弾は昨日発射していたはずだ、て言うんだ。空に飛来した核爆弾を観測した、て。じゃあその証拠を見せろ、と聞くと、それがその写真が無くなったんだ、とさ。な?奇妙な話だろ?」

「うん。訳が分からない。嘘じゃね?」

「まあ、ゴシップだよね。」

と、その時桜田の携帯電話が鳴った。なんとその久一からであった。

「あ、もしもし、あ?久一?何?さっきミサイル発見したって?嘘つけ、お前、昨日ミサイル来たなんて訳が分からない嘘ついたろ?うん、うんうん、で今夜来るだろうって?じゃあ確認するために家の屋上でずっと見てるよ。何?だめだって?いいじゃないか、どうせ来たら死ぬのだし。どうしてもだめ?お前そんなに嘘ばれるのがいやなのか?はいはい。はいはい。じゃあね。」

桜田は携帯の電源を切った。

その夜、ベッドの中で桜田はどうしてるのだろうと思い返した。屋上でずっと空を眺めるつもりなのか。自分も眺めてみようか。いや、面倒くさい。いいや。そのまま寝よう。どうせ明日は来るだろう。どうせ明日は臨時休業だろう。今は眠りの世界に身を委ねるのだ…




朝起きた。ほら見ろ。まだ生きてる。どうせ、と思ったが、やはり臨時休業であった。こう臨時休業が続くと、いつもこんな生活を送っていたのでは、と言う奇妙な気分に陥る。いままでの忙しい生活など夢じゃないかとさえ思えた。

ところで桜田はどうしているのだろう。電話をかけてみた。

「もしもし…桜田です」

「あ、もしもし?須藤だけど。」

「あ、須藤?久しぶり!」

ひ・さ・し・ぶ・り

「久しぶり?昨日会ったばかりじゃないか。」

「昨日?まさか、昨日は仕事で忙しかったよ。会えるはずがない。」

「え?でも昨日は臨時休業だったでしょ?」

「今日は臨時休業だけど、昨日は違うよ。お前の会社は早々と休みになったのか?」

友人の言葉はとても不可解であった。昨日と一昨日に話した事さえ彼の記憶がない。夢だったのかな。証明する何かが必要だ。確か昨日も一昨日もラーメン屋に行った。財布は以前よりか幾分か減って、その上レシートがあるはずだ。だがお金は減っていない。レシートすらない。あれは夢で俗に言うデジャヴだったのか。でも夢にしては妙に生々しい感覚はある。夢じゃないのか。どっちだ。

そうだ。

「そういえば知りたい事があって、情報通の久一いるじゃん?彼と話したいんだけど。」

「あ、いいよ。じゃあ電話番号教えるね…」

そして久一と会った時、彼は用件がすぐ分かったらしくこちらを見つめて頷き、手招きした。

中に入ると久一は話し出した。

「桜田はどうだった?」

「どうだったって…元気でした。」

「そうか。彼の記憶が抜けてなかったかい?」

「あっ」

やはり夢でなかった。

「そうです、昨日、あなたと電話した事も忘れていました。」

「やはりか。で、多分彼は夜、いつものベッドを辞めて屋上にずっといたと…」

「多分…」

「…」

しばらく沈黙が続いたので尋ねた。

「あの、どう言う事でしょうか?」

「単純な話だよ。君が毎日臨時休業が続いてると思っているが、じつはそれらは一つの日、同じ日なのだよ。」

「?」

「つまり、毎晩核戦争は起きている。まあ、それで、奇妙な事に、核戦争のエネルギーが非常に大きいが故に、時空の歪みが生まれる。そしてその歪みに呑まれた者はどうやら約1日前にタイムワープすると言うわけだ。それで君も私もこの退屈な日々を送っている。」

「でも、どうして桜田は記憶が無いのですか?」

「いいか、君が一日前の『今日』を覚えてられるのは毎日同じベッドに寝てるからだ。君のベッドには丁度時空の歪みが発生しているのだ。桜田は一日前に過ちを犯した。君と同じように常に歪みの影響下にあるベッドに眠らず、恐らく時空の歪まない屋上で核爆弾を見た。だから、君が一日前まで会話を交した『桜田』はすでに死んでいる。今いる桜田は、初期化された、始めてタイムワープしたうぶな桜田だ。そして多分、またベッドから離れて死ぬであろう。」

「まって下さい…訳が分からない…」

「いいか、世界は毎晩滅んでいる。この表現はおかしいが、そう言えるのは君や私みたいに時空の歪みに救われて、毎回過去に遡っているからだ。桜田はそこから抜けた。それだけだ。」

夜、ベッドの中に考え続けた。恐らくこの日々を永久に繰り返すのだろうか。臨時休業の続くこの毎日を。退屈だろうな。こんな事ならせめて二人で暮らしたいものだ。誰かと共に永久に同じ日々を過ごすのも何かロマンチックである。でも目覚めるのは昨日だからどうせ一人なんだろうな。寂しいな。

ふと思った。例えば自分がどこかに行って時空に呑まれずに死んだら、今いる自分は死ぬ。だが、他に時空に呑まれ続ける人がいるかぎり新たな自分が、今の記憶がない自分がその人にとって居続ける事になる。その人にとっての自分は、今の自分と違う存在か。それとも、もともと自分と言う存在は全人類の数だけいて、人一人死ぬ度にそのストックが減っていくのだろうか。でもその誰かにとっての自分とて、その自分にとっての誰かがいるわけで、そうなると自分は無限に存在する事になる。あぁぁぁ、訳が分からない。

桜田は桜田自身が死んだのか。ならば今いる桜田はなんなのだ。自分自身である自分、つまり本当の自分は存在するのか。自分自身にとっての自分と他人にとっての自分は同等なのか。あぁぁぁ、訳が分からない。これまで何度そう思ったのだろうか。

気配を感じ、ベッドから窓の外の夜空を見た。空には巨大な流れ星がはっきりと見えた。それは突然眩い光を放った。

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