ランジェリーショップへ突撃
玄関を出た瞬間、夏の日差しが殴ってきた。
敦「今日も暑——」
琴葉、ピタッ。
敦「……?」
琴葉「あ、待て」
敦「嫌な予感」
琴葉「クラスの誰かに見られたら終わる」
敦「何が」
琴葉「世界線」
敦「急に壮大だな」
琴葉「帽子とメガネ取ってくる!」
敦「変装ガチ勢かよ!」
返事も聞かず、琴葉ダッシュ。
ドタドタドタドタ——!
敦「落ち着け!」
数秒後。
琴葉「敦!装備完了!!」
黒縁メガネ。
つば広帽子。
敦「……」
一瞬、黙る。
敦(……似合ってんじゃねぇか)
すぐ視線を逸らす。
敦「……“変装してます”って服装だな」
琴葉「顔隠せば俺だって——」
敦「“俺”言うな」
メガネ、スチャと顔に押し込む。
琴葉「どうだ。普通の女子——」
敦「待て」
琴葉「ん?」
敦、無言で近づく。
ズレたメガネを直す。
帽子からはみ出た髪を軽く押し込む。
敦「……よし」
琴葉「……なんか変わったか?」
敦「適当過ぎ」
歩き出す。
琴葉「……どこ行くんだっけ」
敦「忘れんな」
敦「例の店」
琴葉「あー……」
敦「覚悟決めろ」
琴葉「任務前みたいに言うな!!」
家から五十メートル。
琴葉は帽子を押さえながら歩く。
歩き方がぎこちない。
靴が余ってる。
敦「……歩幅」
琴葉「無理」
敦「即答か」
琴葉「靴がデカい。地面と仲良くなれてない」
敦「友情結べ」
琴葉「人生初対面くらい遠い」
敦、無言で歩調を落とす。
琴葉「……あ」
敦「?」
琴葉「今、合わせたろ」
敦「……うるさい」
商店街。
人が増える。
琴葉の動きが小さくなる。
指の背が、唇に触れる。
琴葉「なぁ敦」
敦「今度は何だ」
琴葉「俺、今どう見えてる?」
敦「……」
歩きながら横を見る。
服、少し大きい。
袖が余っている。
靴もぶかぶか。
(……彼氏の服借りてるみてぇだな)
視線を戻す。
敦「不審ではない」
琴葉「比較対象ひどくね?」
敦「普通」
琴葉「ほんとか?」
敦「気にしすぎ」
琴葉「……女の子に見えてる?」
敦、少しだけ足を止める。
琴葉「髪は伸びるけどさ」
琴葉「顔、あんま変わんねぇし」
琴葉「変じゃ——」
敦「変じゃない」
即答。
琴葉「早いな」
敦「事実だし」
琴葉「……普通で可愛いか?」
敦「可愛い」
琴葉「……雑!!」
敦「断定だ」
琴葉「気遣いは」
敦「ない」
琴葉「……」
帽子のつばを少し下げる。
小さく息。
琴葉「……ありがと」
敦「……ああ」
歩幅だけ、自然に揃う。
店が見える。
ピンク。
ガラス。
フリフリ。
琴葉「……情報量」
敦「……多いな」
手前の店を通り過ぎかけた瞬間。
敦の視線が止まる。
ガラスに、二人の姿。
帽子を押さえる琴葉。
少し大きい服。
隣を歩く自分。
並んで映る。
(……)
一歩、遅れる。
琴葉「?」
敦「……いや」
歩き直す。
ガラスの中では――
少し距離の近い男女。
自然に並んでいる。
敦(……普通に)
言葉が続かない。
琴葉「なぁ敦」
敦「ん」
琴葉「恋人のフリで行こう」
敦、少しだけ間。
もう一度、ガラスを見る。
敦(……フリ、か)
敦「……分かった」
琴葉「キラキラ禁止な」
敦「分かってる」
琴葉「俺の普段のパンツは黒かグレーだ」
敦「聞いてない」
琴葉、無意識に唇を触る。
敦「……」
敦「……俺が先行く」
琴葉「?」
敦「“恋人に下着選ぶ彼氏”役」
琴葉「……助かる」
その一言だけ、素直。
敦、息を吸う。
敦「行くぞ」
琴葉「おう」
ドアが開く。
二人、入店。
——逃げ場、なし。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この後、店内でどうなるかは――ご想像の通りです。




