幼馴染とパンツを買いに
縁側。
琴葉は空を見上げていた。
白いシャツに短パン。外出予定ゼロの完全オフ。
琴葉「……いい天気だな」
今日は何もしない日。
そう決めた日に限って――
ガサッ。
庭木の向こうから、見慣れた顔が覗く。
敦「おっす」
琴葉「……来たな」
敦は当然みたいな顔で柵を越えてくる。
敦「今日は1日女型?」
琴葉「そ、見ての通り」
敦「……なるほど」
特に何も変わらない。
そのまま琴葉の横に腰を下ろす。
琴葉「敦も暇?」
敦「ああ。家いてもやることねぇし。
……切り替え日?」
琴葉「正解」
肩を回す琴葉。
琴葉「家にいる日は女型の方が後が楽なんだよなー」
敦「定期メンテ?」
琴葉「言い方!」
敦「……やらないと、どうなんだそれ」
琴葉「なんか落ち着かなくなる」
敦「情緒が忙しいな」
琴葉「うるさい」
――少し沈黙。敦が真面目な目。
敦「……」
敦「……面倒そうだな」
琴葉「慣れた。小さい頃からだし」
敦「……そうか」
敦「まぁ」
敦「どっちでも、お前いると落ち着くし」
琴葉、止まる。
視線だけ外へ逃がす。
琴葉「……さらっと大事なこと言うな」
敦「普通のことだ」
琴葉「普通って言葉便利すぎね?」
敦「肯定だろ」
琴葉「……まぁな。ありがとよ」
琴葉は立ち上がり、台所から麦茶を持って戻る。
琴葉「ほら」
敦「サンキュ」
自然と落ち着く距離に座り直す二人。
さっきより近い。
一口飲む。
氷が小さく鳴った。
敦「……うま」
何気ないセリフ。
琴葉「……ただの麦茶だぞ」
敦「知ってる」
当たり前みたいに口をつける。
琴葉は、その様子をじっと見ていた。
琴葉「……慣れたな、お前」
敦「……何に」
琴葉「俺に」
少しだけ間。
敦はコップを見下ろす。
この家のコップ。
この位置。
この距離。
敦「最初からだろ」
もう一口、麦茶を飲む。
琴葉「……」
琴葉は小さく笑った。
少しだけ風が抜けた。
敦は空を見上げ、目を細めた。
敦「こういう日も悪くねぇな」
琴葉「だろ――」
ふと思い出したように顔を上げる。
琴葉「あ、そうだ」
敦「その入り方やめろ」
琴葉「いいこと思いついた!」
敦「嫌な予感しかしねぇ」
琴葉「暇だろ!付き合え」
敦「内容による」
琴葉「ランジェリーショップ」
敦「……は?」
一拍。
敦「却下」
琴葉「考えた末に却下すんな!」
敦「単語が強すぎる!!」
琴葉「必要だろ!?女型だぞ!?」
敦「そこは分かる。でもなんで俺」
琴葉「……一人で入れると思う?」
敦「……思わないな」
琴葉「だろ?」
敦「ネットで買えよ」
琴葉「サイズ分からん」
敦「測れよ」
琴葉「測り方分からん」
敦「詰みが早ぇんだよ」
琴葉「……あと」
敦「まだあんのかよ」
琴葉「お母さんが準備してくれた下着見るか?」
敦「やめろ」
琴葉「0.001秒で封印してそれ以来袋開けてない」
敦「開けるな一生」
琴葉「すごいぞ」
敦「聞きたくねぇ」
琴葉「光ってた」
敦「何がだよ」
琴葉「全部」
敦「やばすぎるだろ」
琴葉「欲しいならやる」
敦「いらん」
敦(……これは確かに詰んだな)
覚悟の気合を体中に巡らせる。
――にや。
琴葉は敦の腕を軽く掴む。
琴葉「敦」
敦「断る」
琴葉「まだ何も言ってねぇ」
琴葉「なぁ」
敦「効かないからな」
琴葉「何が」
敦「分かっててやってんだろ」
琴葉「頼むよ〜」
敦「効かない」
琴葉「パンツずれるんだよ〜」
敦「離れろ」
琴葉「歩きづらいんだって」
敦「自分で直せ」
琴葉「無理〜」
琴葉、少し体を寄せる。
無意識。
敦(寄るな)
一拍。
琴葉「……じゃあいいや」
敦「は?」
琴葉「一人で行く」
離れようとする。
敦「おい」
止める。
敦「……はぁ」
敦「……行くだけだからな」
琴葉「よし」
敦「早ぇんだよ!!」
琴葉「最初からその顔だったぞ」
敦「してねぇよ」




