第2章1節 王子として
学ぶことが増えれば、
できることも増えていく。
それは才能なのか、
それとも、ただの考え方の違いなのか。
その答えを、
周囲はまだ知らない。
王子としての生活は、少しずつ輪郭を変えていった。
読み書きや歴史の学習はすでに日常の一部になっていたが、それに加えて、父である国王の公務に同席する機会が増えた。
会議の空気、使者の言葉選び、沈黙の意味。
そうしたものを、横で見て学ぶ時間だ。
そして、それらと並ぶようにして――
魔法の講義も始まった。
「今日は実技を見てみましょう」
そう言われ、講師に連れられて向かったのは、王城の中庭だった。
十分な広さがあり、多少の魔法を使っても問題のない場所。
周囲には、念のため数名の使用人と護衛が控えている。
「まずは、これまでお話した火、水、風、土の4元素魔法のうち、エリオ様がご興味を持たれていた火魔法から。」
講師はそう言って、俺に場所を示した。
火
両手を前に出す。
魔素を集める前に、思い出す。
転生前、中学の理科室で使ったガスバーナーのことを。
火は、ただ燃やせばいいものじゃない。
燃えるための“準備”が必要だ。
空気。
特に、燃焼に必要な部分だけを、手のひらの前に集めるイメージ。
そこへ、最小限の火を与える。
――小さな火球が生まれた。
見た目は控えめだ。
だが次の瞬間、乾いた音とともに地面が抉れた。
「……」
講師が、目を見開き続ける。
「素晴らしい.....では次に......」
俺は火球を消し、手を下ろした。
そして講師の言葉に耳を傾けず次の魔法を打つ。
水
次は水。
思い浮かべたのは、ウォータージェット。
水は量じゃない。
形と圧だ。
水の流れを細く絞り、押し出す。
一直線に放たれた水が、地面を走り、石畳に深い痕を残した。
「切った……?」
誰かが小さく呟くのが聞こえた。
風
風は、コンプレッサーのイメージだ。
押し縮めて、逃がす。
ただし、太くしない。
細く、鋭く。
放たれた風が、少し離れた木に当たり、幹を貫いた。
音は小さい。
だが結果は、はっきりしていた。
土
最後に土。
これは、壊すためじゃない。
形を作るための魔法だ。
地面の土砂を集め、
水を加え、
火で軽く熱を通す。
それだけで、簡単には崩れない壁が出来上がる。
指で叩いても、びくともしない。
「……なるほど」
講師は一度、深く息を整え、
改めて俺の方を向いた。
「……エリオ様」
その声には、先ほどまでになかった熱がこもっていた。
「通常、人が扱える元素魔法は一つ。
二つ扱えれば、天才と呼ばれます」
講師は、少しだけ間を置く。
「ですが――」
「エリオ様は、
火・水・風・土、
四つすべてを、理解し、使っておられる」
周囲が、静まり返る。
「これは訓練の成果ではありません。
才能という言葉でも足りない」
講師は、はっきりと言い切った。
「まさに――
神童であります」
その言葉に、
使用人たちがざわめいた。
俺は、特に返事をしなかった。
ただ、足元に伸びる自分の影へ、
ほんの一瞬だけ視線を落とす。
(……闇魔法、なんてものがあったら
使ってみたいな)
そう思った、その時。
影が、わずかに揺れた。
――気のせいかもしれない。
だが、そこから、
小さく笑ったような気配がした。
魔法の講義が終わると、今度は剣の訓練だった。
王国騎士団長――
重厚な鎧に身を包んだその人物は、俺を一目見て、軽く頷いた。
「力比べをするつもりはありません」
俺はそう前置きし、木剣を取る。
剣を振る前に、体の節々へ、少量の魔力を流す。
筋肉を強くするわけじゃない。
動きを、邪魔しないようにするだけだ。
振る。
重いはずの剣が、抵抗なく走る。
速度だけが、自然に上がる。
何度か打ち合ったあと、騎士団長は俺の目を見た。
その目は真剣だった。
「これは、技術だな」
訓練が終わる頃には、周囲にいた者たちの視線が変わっていた。
「神童だ」
「才能が違う」
そんな言葉が、ひそひそと聞こえる。
俺は、特に何も言わなかった。
説明する必要も、否定する必要もない。
ただ、学んだ通りにやっただけだ。
中庭を後にしながら、ふと思う。
影で考えていた時間は、もう終わったのかもしれない。
これからは、王子として見られ、評価される。
――それでも。
理解していることは、変わらないのだと。
第8章をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、影で思考してきたエリオが、
王子として表に立ち始める節でした。
魔法や剣の描写もありますが、
無双というより「どう見られるか」に焦点を当てています。
これから先、
王子という立場だからこそ見えるもの、
言えなくなることも増えていきます。
引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです。




