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第1章3節 賢者が築いた国

歴史は、勝者によって語られる。


誰が救い、

誰が滅び、

何が“なかったこと”にされたのか。


書物に記された平和は、

本当に、すべてを語っているのだろうか

ルーヴェン王国の成り立ちは、王城の書物庫でも特に目立つ場所に記されていた。


古い装丁の歴史書。

誰もが一度は目を通す、いわば“公式の物語”。


そこに描かれているのは、一人の賢者だった。


今からおよそ四百年前。

この地一帯は、魔の軍勢によって蹂躙されていたという。

人の国は滅び、都市は焼かれ、生き残った者たちは森や山へと逃げ込んだ。


そんな時代に現れたのが、賢者ルーヴェン。


名もなき一人の魔術師。

だが彼は、魔法を“力”としてではなく、“理”として扱ったと書かれている。


魔の軍勢を退け、結界を張り、

人が人として生きられる土地を切り拓いた。


「剣ではなく、知によって平和を築いた」


それが、ルーヴェン王国建国神話の核心だった。


……なるほど。


俺はページをめくりながら、淡々と読み進める。

戦争の終結。

領土の確立。

王制の誕生。


賢者ルーヴェンは王にはならず、

“守り手”として国の基礎だけを残し、歴史から姿を消したらしい。


その後、彼の名を冠した王国が生まれ、

今に至る。


恒久平和。

魔の脅威なき国。


少なくとも、書物の上ではそうなっている。



ページを進めると、近隣諸国についての記述があった。


北には、ヴァルグレン帝国。

強大な軍事力を誇り、騎士と重装兵による制圧を是とする国家。

魔法よりも武を重んじる。


東には、アルシェルト魔導連邦。

複数の都市国家が集まった同盟体で、

魔法研究と技術革新に長けている。


南には、セレス平原国。

豊かな土地と交易路を持ち、

表向きは穏健だが、内情は複雑だ。


西には、かつて魔の軍勢が出現したとされる黒境界域。

国家とは呼べない、未だ整理されていない土地。

今も“何か”が眠っていると、遠回しに書かれている。


俺は本を閉じた。


……つまり。


この国は、

魔を退けたという成功体験の上に立っている。


禁忌を禁忌として封じ、

賢者の遺した理を“完成形”だと信じている。


だからこそ、魔族召喚は禁じられている。

触れれば、建国神話そのものを揺るがすからだ。


影の中に潜む気配を、ほんの一瞬だけ意識する。


……賢者は、本当にすべてを退けたのか?


それとも、

“隠した”だけなのか。


俺は静かに立ち上がり、本を元の場所へ戻した。


世界は、思っていたよりも整っている。

だが同時に、

整えられすぎている。


その歪みを理解してしまったことを、

俺はまだ、誰にも話すつもりはなかった。

第3節をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、ルーヴェン王国の建国神話と周辺諸国について触れました。

一見すると整った歴史ですが、

どこか「書かれていない部分」が多いことに、

気づいていただけたら嬉しいです。


次節では、

その神話を“別の視点”から照らし合わせていきます。


影の中にいる存在は、

この国の始まりを、どう記憶しているのかーー。

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