08手に入れられるのは空のワインボトルだけ
税金や費用、王妃になった時の利益を計算し、とっくに王家と侯爵家には納めている。
それぐらいヴァレンシアの名は世界に轟きつつあった。そうなっても父達侯爵家、王家はぶどう関連の莫大な利益をもらえないようになっている。
契約書があるのだ。サインせねば王妃にならないと言ったから。まだその時は話題になり始めた時なので迷いはあったろうがサインさせられたのは大きい。
それに、己が上から下までやったので権利など誰にもないし税金に関しても得られない。テーラを仮に亡き者にしても権利は隣国行きになるといった、そういう保険をかけていた。
祖国に生国の王侯貴族らにはお金は回らない。特に上には。一応贈答品は貴族なので送ってはいる。
うちのワイナリーの空のボトルを、中身がないボトルを。あなたたちにはこのワインの真の価値(中身)を味わう資格はない。
手に入れられるのはその外側(名声や肩書き)だけだという、テーラなりの意思表明。
ワイン博士と呼ばれるほどぶどうやワインを好きすぎて、部屋を本だらけにした自分が物言わぬ証拠を送りつける行動なんて、優しいぐらいだと思う。
貴族たちは王妃が城に不在でも気にしてない。なんせ小さな国だし、そんな小さな国には大きすぎるくらいの知名度を持つ王妃がいるのだ。
ワイン令嬢と呼ばれ、今はヴァレンシア王妃とも呼び声高い。
ぶどうの品種である星彩果は彩という漢字を使うことで、星の光が様々な色に輝くように多種多様な風味を持つ。その年の気候によって味が大きく変わる、神秘的な品種。
品切れと増産を商品が起こり、発売するたびに周りは喜んで購入していく。予約で在庫が追いつかず、生産量を倍にしてもまだ足りないとブームの勢いを物語っている。
「ヴァレンシアの極上パン。プレミアム・ヴァレンシア・ゼリーの売り上げがまた上がりましたね」
考案していた、干し葡萄を練り込んだ香り高いパン。お土産にちょっと奮発して自慢できるような高級感を持つゼリー。ようやく商品化にこぎつけた時にはフェチルは自分のことのように共に喜んでくれる。
「ありがとうございます。おかげでこうして、まだまだ意欲が湧いてきます」
お客の声はどこもかしこも聞こえてくるくらい好評、大好評。ゼリーやパンを手にした消費者たちが「これがお嬢様の作ったものか!」と驚いたり「大切な日の贈り物にはヴァレンシアだよね」と話したりする様子はブランドが人々の生活に浸透していく実感が湧く。
「今では、私のことなんて興味もなかった王都の貴族たちも虫が良すぎて、呆れていますけど。この間話しかけてきた人なんて、私のぶどう作りを最初から応援していたなんて言う始末でした。思わず嘘はいけませんわ、と言いかけてしまうくらい言葉を無くしてしまいました」
王都でのニュースもよく入ってくる。普段、テーラの話題を口にしなかった貴族たちが夜会で「ヴァレンシアのワインはもう手に入れたか?」と噂話をすることも。
テーラを軽んじていた人々が掌を返す様は痛快な気持ちにならず、益々祖国の特権階級が嫌いになる。
「まぁまぁ、多めに見てあげましょう。彼らには国の金庫にこれっぽっちも利益が入れられていないことを知らないでしょうし」
むっすりとするテーラを慰めるように笑い、畑で一緒に昼食をとりましょうと誘われる。
「今年のぶどうもよい育ち具合ですよ」
「うちの国の土の相性がよかったようですね」
互いの成功を心から喜び合う。サンドイッチを手に取る。ぶどうジャムだ。
勿論、テーラの特権の特別なぶどうを使用している。わざわざ言わずとも従業員達が一番いいところを持ってきてくれるのだ。良い人達に囲まれているとこのジャムで心がふわりとなる。
「これ、私にどうぞとくれる、一番出来の良いぶどうなのですよ。よかったらどうぞ。とは言ってもフェチル様はこれが目的だったのでしょうから、遠慮なく食べてください」
指摘すると彼は少し恥ずかしそうにジャムサンドイッチを受け取る。
「やはり、ばれていましたか」
「目が輝いていますからね」
「我が国の王子も食べられないので、よいのかとたまに思います」
「国に広めた先行優先者ですから、構わないと思いますよ」
新たな商品ラインナップの話を持ち出す。ぶどうゼリーやぶどうパンだけでなくぶどうの葉を使った紅茶、ぶどうの種を使ったオイルなど、より多様な商品開発に乗り出したいと企画を提案。売上が増えても決して品質を落とさないテーラの言葉に、彼は楽しそうに頷く。
「大量生産しても、一つ一つの品質は手作りの頃と同じ。テーラ様のこだわりには我が国も見習わねばと思いますよ」
ブランドの信頼性をさらに高めていけば、いずれ。
「ソムリエとしてこの国だけではなく、全ての国へ世界全体をワインで満たしたいと思っていますから」
大きな目標を掲げながらも、王妃になってもワイン令嬢と呼ばれる程度には定着してきている。
ちゃんと王妃にはなったので将来はぶどう農園のワイン令嬢、と言われるようになりたいものだ。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。他にも作品がありますのでどうぞ




