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06彼らは一切、利益を得られません。

 やはり彼は高位の貴族にもてなされることに、まだ慣れないらしい様子にテーラの心は自然と和んでいった。いつ見ても慣れないなんて可愛らしい人だ。


「気にせず、どうぞ。フェチル様とは肩書きを気にせずにお話できるので、私も気が楽なんですよ」


 テーラの言葉にフェチルの表情が緩む。


「はは……ありがとうございます。テーラ様といると本当に心が安らぎます」


 照れたように微笑んだ。アシェルのようにテーラの情熱や才能を軽んじる者とは違い、いつも彼女の意見を尊重し、耳を傾けてくれるのでこの数ヵ月間、彼女が感じていた王家や家族への苛立ちが溶けていく。


「テーラ様、実は……新たな取引のご提案がありまして」


 フェチルが切り出した。


「ぜひ聞かせてください」


 前のめりになる。


「はい。わが商会に、テーラ様が考案された星彩果のぶどうを使った、新しいワインの共同開発を持ちかけたいという話が来ています。向こうの商会は隣国の王室とも強い繋がりがある大商会です。連絡をしてみましたらよい返事を貰えたのです」


「えっ、それは凄く素晴らしいお話ですね!」


 目を輝かせた。話が成功すればテーラのワインは隣国の王室にも認められることになる。

 つまりそれはアシェルやカベルネ侯爵家が見向きもしなかったぶどうが、どれほどの価値を持つかを証明する何よりの機会。


 価値あるものを価値がないと切り捨てたでしょ?と、顔に押し付けられるではないか。


「この話がまとまればヴァレンシアブランドは、この国だけでなく、隣国にまで広がるでしょう」


 輝くだろう未来にテーラの胸が高鳴る。


「ですが……父や王室はこの話に反対するでしょうね」


「おそらく、ですが……この計画書には彼らが簡単に口出しできないように、いくつかの罠を仕込んでおきました」


 フェチルは笑みを浮かべた。笑みはテーラがいつも見せる無邪気なものとは違い、商売人としての鋭い知性が光るもの。やはり、この人は下っ端などではないな。


「たとえば……契約書ではワインの醸造から販売までの全ての権限は、ヴァレンシアブランドの創業者、つまりテーラ様個人に帰属します。利益は提携先の商会とテーラ様で分配される。もちろん、商会が受け取るのはごくわずかですが」


「では、父や王室は?」


 目を輝かせていくテーラ。期待に胸が躍る。


「彼らは一切、利益を得られません。たとえ彼らが税金を徴収しようとしても、契約書にはぶどう農園の運営にかかる費用や研究費が、すべて国の財政から賄われるという項目が盛り込まれています。彼らが口出しすればするほど彼らの財政は圧迫されるというわけです」


 フェチルが指差す先には見慣れない契約書の雛形があった。緻密な内容に感嘆の息を漏らす。


 婚約保留になった経緯やカベルネ侯爵家が彼女の事業に無関心であることを、すでに察していたのだろう。情報収集能力が抜きん出て、高過ぎる。


「フェチル様、あなた……」


「わが商会はテーラ様を王族や貴族のしがらみから守る盾となり、共に新しい道を切り拓いていきたい。それが私の、わが商会の願いですから」


「ありがとうございます!ぜひ、この計画を進めてください」


 本音はどうあれこの国では到底叶えてもらえないことを知るテーラは、フェチルの手を取り、熱い想いに感謝を伝えた。


 この世界に転生してからずっと一人で戦ってきたと思っていたが、ようやく心から信頼できる仲間を見つけた気がする。涙も浮かぶというものだ。


「一つだけ、お願いがあります」


 フェチルが真剣な表情で言った。


「なんでしょう?」


「テーラ様は、もう……ご自身を無価値だなんて思わないでください」


 はっと息をのんだ。アシェルや両親に軽んじられ、無価値だと決めつけられた過去の自分がどれほど傷ついていたか、フェチルは気づいていたのだろう。震えてしまう。


「テーラ様が持つ知識と情熱は黄金よりも価値のあるものです。それを私が知っています。全部」


 フェチルのまっすぐな瞳にギュッと胸が熱くなるのを感じた。


「フェチル様」


 思わず名を呼ぶ。こんなに応援してくれている人がいたことに感動は募る。


「あ、えっと、さ、さあ、やるべきことがたくさんあります。王族や貴族の雑音など気にしている暇はありませんよ!」


 気恥ずかしくなったのか慌てて空気を入れ替えようとする男に、たくさん笑った。ヴァレンシアブランドがぶどうより先に発足されたのは一重に彼のおかげなのだ。


 前から考えていた方法。シリーズを、食べ物にも付け加える案が思い浮かぶ。協力してくれている人を呼び、試食会、体験イベントを開催した。


 ゼリーのつるりとした食感。口の中に広がるぶどうの香り。舌に残るほのかな甘み。五感で感じる、素晴らしい体験をしてもらうため。ぶどう尽くしだ。


 パンも試作品が置いてある。ゼリーが持つ豊かな風味を直接伝えることも効果的で、作り手たちも自分達が作ったものの結果を知れば、作るという行為に更なる愛着を抱く。


「美味しい!」


「私達が作ったものがこんなふうに美味しく加工されて、こんなに綺麗なんて」


 農園の作業員たちも目をキラキラさせている。ゼリーを売るときは高い商品も考えていて、ヴァレンシアプレミアムシリーズを企画している最中。


 プレミアムならば富裕層と下位階層の人達とで分けやすい。分けるなと思われるかもしれないが、こういう商売には特別感という購買欲を刺激する方法がある。


 ゼリーはヴァレンシアのブランドイメージを広げるだけでなく、ワインを知らない層にもブランドの魅力を伝える良い機会となって。高品質なぶどうから生まれた特別なデザートとして、新たなファンを獲得できる可能性を秘めている。

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