04認めてくれる人もいるんだからあんな人達いらない
ぶどうのおかげでワインが売れてもこの家にも、この人達にも利益を一つも渡すつもりはない、絶対に。収入もワインという名前で得られる栄光も、税金もなにもかも渡しはしない。
話したくない、話しかけるなという意思表示のそれに即気付く男は顔を青く、白く染めていく。完全に嫌われてしまったこと、嫌悪されていると瞳だけでも侮蔑を含んで静かに見つめてやる。
黄金を産む粒をいらないと捨てた相手に、敬意も必要あるまい。ぶどうはテーラ、テーラはぶどう。ぶどうをいらないというのならば、それは自分の存在をいらないと否定したわけで、あれだけ熱弁したのに土いじりはやめてくれと言った言葉は決別と受け取り、受理し終えた。
「テー、ラ」
婚約者が何か言おうとしているが聞く気はなく耳をシャットアウト。
「あ、その」
ただ、言葉を話すだけの人類猿がなにをテーラと同じ種族だと思い込んでいるのかと、汚らわしくて堪らない。
「お願い、だ。話し、を、したく」
文化レベルが低い生物のくせに。まだなにか話そうとしている猿人へ一瞥もくれないままカツ、と靴を響かせて存在しない前提で夜会の休憩室へと男へ背を向けた。
「お願い、だから……ぁ」
夜に鳴く夜泣き虫でも聞きに行こう。夜会の翌日からまた、精力的にぶどう畑へ向かっていく。父や母の目など気にならない、鼻で笑って弾いた。
全く気にならないのは無関心。それがとても心地よい。親も何かを言ってきても雑音だ。ぶどうを使ったものといえばを考えるのに夢中になる。
やはり、基本はパンに練り込むことかなと、笑みを浮かべてしまう。ぶどうは美味しくてお腹に溜まっていく。名産品にも匹敵するくらい格段に味が美味しくなる。
「葡萄パンには干し葡萄が必要ななるから……」
「テーラ様」
考えていると真後ろから呼ばれて、くるりと振り返ると。
「あ、フェチル様!もうお仕事は?」
「ええ。かなり早く終わりました。売れ行きが良くてですね。嬉しい悲鳴です」
「それは、とてもよい報告となりそうですね。あ、立ち話もなんですのでこちらへどうぞ。ふふ!」
知り合いの男を小屋に案内する。父と母は爵位がない相手だと中に入れたくないというので、仕方なく。テーラからすると極上の爵位があっても常識やマナー、押し付けをする相手だった場合、ハリボテに匹敵する肩書を愚直に守る思考はどうかと思う。
現に、国一番の子息の称号を持つ婚約者を見れば否が応でもわかるというものだろう。ため息を深く吐いてしまいそう。あんなのに爵位があっても対応する時間が無駄、無駄過ぎる。
フェチルは整えられた内装の小屋へ行くと、傍にメイドが来てお茶を出すのを申し訳なさそうに見ていた。彼は隣国の大商会の小さな支店を任されている代表であり、とても偉い人なのに。
隣国とはいえ高位の貴族にもてなされるのは、ないことなので未だに慣れないらしい様子にほのぼのと心がシュワッと昇華されていく。やはり、肩書きが黄金でも性格が下の下なら話すに値しないのだと再確認できる。
思い出して、つい悪態をつくが直ぐに持ち直すと朗らかな笑みが自然と浮かぶ。ワインについて話し合う。
「味は落ちたりしていませんか?」
テーラは確認がてら問う。
「変化はありません。相変わらず美味しくて、人に勧める分まで飲んでしまいたくなります」
そこまで褒められるなんて最高の言葉だ。まだ仮の実験段階だがワイン自体の開発は行っていた。それは、父も母も興味がないと見ているので報告もしてないし、教える義理はない。
この土地もぶどうの開発費用もテーラの個人資産から出している。それに事業が上手くいったら今までにかかった教育費を上回る金額を渡すからと、冷ややかに頭を回転させてぶどうの紅茶を手に取った。
婚約を保留にしてからというものいいことずくめだ。下町用の服を着て、側には雇った用心棒的な女性を侍らせて散策。ぶどうの商品に良さそうな食べ物を探しに来たのだ。
できれば、甘いものがいい。パンはすでに生産工程が頭にある。
「甘いものを扱うお店……この世界にある?うーん、ないかもしれない」
腕を組んで悩み、唸る。砂糖は高いけどちょっと贅沢をしたら買えるくらいには安定して取れているので、作って売る分には高額にしなくても済む。
商売は上から下が基本だが、テーラのぶどうは貴族筆頭からよく思われてないので売り込む時間、プレゼンの時間は無意味だろう。
干し葡萄自体を商品として売り出すのもよいが、もっと凝ったものを作りたいので店を見ながらなにかないかなと見回す。
「ん、ぷるぷるしてる」
なにかぷるぷるしているのを見つけて、お店に寄ると商品ではなく、お店の片隅にぷるぷるしたものが置いてあった。
「すみません。これはなんですか?」
女の人がそれを指で示すと顔を赤くして慌てて、それは商品ではないのです、と言うけれど最初から並べられてないことからわかっているので落ち着いてと声にする。
なぜ、そこまで恥ずかしがられたのかと聞いてみると、それは適当に作っていたら勝手にできていたもので食べてみたら美味しくないが、腹持ちがよいのだと顔をボフリと染めながら、照れた。
失敗作を賄いにしていたから知られて恥ずかしかったらしい。可愛らしい人だなと、笑みで口元が綻ぶ。
文明が低くとも人は純粋なのだと改めて思う。
農園を手伝ってくれている庭師だって、別途手当のおかげもあるが真剣に様子を見てくれているのを考えると、傲慢なのは貴族が多いみたいだ。
「食べてみたいのですが」
「えっ、お、美味しくないですよ?不味い方なのですが?」
必死に不味いことをアピールしてくる。可愛いなと思いつつ、強引に頼み込むと渋々、とても渡したくないという顔で渡して貰えた。




