表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

02まだ居たのですか?お帰りください

 中身などどうでもいいのだろう。単に、やめて欲しいことをやめてくれない、という一点のみでやめろと言うだけ。


「あ、の、テーラ?」


「はぁ。もういいですか?私、忙しいので」


 結婚まで、そこまでないという時に言われるとは夢にも思わなかっただろう。冷え冷えとした顔を維持したまま笑みを深めた。


「テ、テーラ?」


 恐る恐る怖がっているように見てきたが今更、こちらの顔色を窺う遅さにもっとがっかりした。


「はぁ」


「!」


 溜め息を聞かせただけで不味いという顔を浮かべて、なんという遅さか。こちらの話を無視して怒らせてからでは遅い。


「まだ居たのですか?お帰りください」


 ここはテーラの屋敷。ぶどうのことを説明するためにこちらへ招待したのだ。なのに、この婚約者ときたらどれだけの大金が生まれるかも知らずに好き勝手言ってくる。

 そんなに理解する気がないのなら用はない。とくと去れ。


「テ、テーラ、その」


「殿下がお帰りです」


 執事を呼びつけて殿下が帰るように空気で押す。


「ま、待ってくれ。まだ話はっ」


「は、な、し?」


「ぐぅっ」


 こちらの話を無視しておいて?

 内容を切り捨てておいて?

 そっちの話を聞けと?


「ふふふ。王太子殿下。ご冗談がお上手ですこと」


「冗談って」


「私がさっきまで話していた内容を必要ないと聞きもしないのに?なぜ、そちらだけの話を聞かねばならないの?もう、聞く意味もないですよ。どうせちょっとくらい土いじりさせてあげるという、上から目線の許しでしょうに」


 低い声音でうっそり述べた。なにか他にも言いかけていたが無言の圧力により退室する男。やれやれ、となる。なにしにきたのだろうか。

 婚約者の否定をするために茶会を開いたわけじゃないのなら呆れるというもの。テーラは息を強く吐き、嫌悪も共に排出。


 その時、微かなぶどうの香りに目を閉じる。ぶどう農園を近くに構えているから、よく香りが風に乗って鼻腔をくすぐっていく瞬間、実りを想像して口元が緩む。


「……品種を決めないと」


 あんな生産性のない、学のない王家の子供に構ってる暇なんてない。早々に父に相談をしてみた。婚約者との縁談を保留にしてくれと頼む。


「そんなことできるわけがないだろう」


「できるわけがない?」


 親に圧のある瞳を向ければ、殺気に怯む騎士でもない文官系の男にこういうのは結構効果がある。


「私と彼の方は相性が悪いのです。なぜ縁談を組んだのですか?」


 次期王と侯爵家ならば家の格が近いからだろうが。


「異性の同年齢の令嬢がお前しかいなくてな」


「いや、いますよね?」


「下位貴族や中位貴族はな。高位貴族は産み控えをしたのだ」


「ああ、ウチが生まれたからですか」


 ちっさい国だもん。下手に国を割ると普通になくなるくらい。


「小国の王子がそれなのに私にあれだけ口出しできましたね」


「テーラ……ぶどうはお前の趣味だ」


「勉強も完璧にして、付き合いもちゃんとしているのに文句を言われる筋合いありません」


「そうだが。デートくらいしてあげなさい」


「結婚したらずっと同じ空間にいなくてはならないのですから」


「普通は浮気する方のセリフなんだがな」


 浮気はしてないし、相手はぶどう。


「将来王になるのに国益を潰そうとする王子なんて、私には害悪なんです」


「こら、不敬だぞ」


「不敬でいいです。もう結婚する気もなくなりましたので」


「なにを、考え直すんだ」


「嫌です。仮に結婚しても別居します」


「世継ぎは」


「お父様でも産めばよろしくて?」


「無理に決まってるだろ!」


 少し思い出して手をポンと叩く。


「スイカをそれまでに作っておきますから、世継ぎのことを次に口にしたら鼻に入れますね!」


「え?スイカ、とはなんだ?」


 出産は鼻からスイカを出す痛み、と聞き齧ったことがある。好きじゃない男のためになぜそんな痛い思いをしなきゃならない?

 痛みを知るといい。


「まだ話は終わってない」


「お父様がうんと言わないなら別居ですから。どうせ、王室に入ったらお父様より上になります。そのときは……」


「えっ、そ、そのときは!?」


 扉にスッと向かい素早く閉める。


「どうするというんだ!テーラ!?待ちなさっ!」


 父の声が聞こえるが知ったことではないと無視して廊下を進む。


「テーラ」


 呼び止められて振り返ると母が。


「なんでしょう」


「婚約を無くすと聞こえたわ」


「ええ。お母様には関係ないことですけれど」


「あるわ。娘の話だもの」


「お母様がなにを言おうと変わらないものなので、関係ないです。どうせ口添えもしてくれないでしょうし」


「私には口出しできないことなの」


「……話しかけてきたのはなぜですか?」


「えっ?」


 この人がずっとわからない。貴族令嬢だからか、教育のせいで深いことを考えない思考にされている。


「慰めようと?王家ではなく侯爵家に嫁いだあなたになにかわかることなどないと思いますが。やることの多さも違います。あり方も」


 きっぱりと告げる。役に立たないくせに、意見だけは言ってくるのは何故か。何もしない、なにもできないと言っておいてさも、慰めてあげるわという風に話しかけてくる。鼻をつくったらない。


「慰めにもならない、ご自分が気持ちよくなるだけの戯言なんて。聞いていて面白いわけもないです」


「な、なんてことを」


 すかさず封じる。


「聞いていて不快なので話しかけないでください」


「なっ、なっ」


 なにか言いかけては口を閉じる。


「もう、聞きたくないのです。お母様の声は」


「っ」


 そこまで?なんて言いそうな表情を浮かべる。


「昔から、あなたは殿下の婚約者になるの。国一番の女になるのと。煩いこと煩いこと」


 まだなにか言いたそうなので、口を封じるつもりで重ねていく。攻撃のサンドイッチ。


 ぶどうを作ることさえ、やることをやって趣味のように見せている癒しの時間にしているのに。なのにそれでも顔を顰められる不愉快感といえば言葉にできないような、気持ち悪さがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ