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第7話 勇者の資格

 沙耶が光に溶けて消えたあと――

翼はしばらくその場に膝をつき、

胸元の石を握りしめていた。


「……沙耶。

 ありがとう。本当に……ありがとう。」


涙の跡を拭い、顔を上げる。


目の前に、精神の試練を突破した者だけが通れるという

光の扉が静かに揺らめいていた。


翼は震える息を吐き、ゆっくり手を伸ばした。


 扉に触れた瞬間、

まばゆい光が視界を包んだ。


気がつけば、

柔らかな草の匂いと森のざわめきが戻っていた。


「……翼さん!!」


走る足音とともに、リリアが飛び込んできた。

その顔は泣きそうに強ばり、

腕は震えていた。


「よかった……無事で……!」


「心配かけて、ごめん。」


翼は苦笑して言ったが、

リリアは首を横に振った。


「謝らないで……!

 だって、翼さん、すごく……つらい顔して戻ってきたから……」


彼女はそっと翼の手を握った。


「でも……乗り越えたんですね。

 精神の試練。」


「……ああ。なんとか……ね。」


心の底にまだ痛みは残っている。

それでも、“進む”と決めた。


翼は強く息を吸い、リリアを見る。


精神の試練を越え、光の扉を抜けた翼の視界は、眩しい銀光に包まれていた。


その中心に一本の剣が刺さっている。


台座に突き立つ聖剣は、まるで意思を持つように脈動していた。


リリアがそっと翼の横に立つ。


「これが……“聖剣”。

 勇者に選ばれる者へ、運命を見せる剣。」


翼はごくりと唾を飲む。


「俺が……これを?」


「うん。精神の試練を越えた者だけが、ここに来られる。

 本当に勇者の素質があるのか――その未来が映し出されるの。」


翼が聖剣の柄に触れた瞬間、

世界がひび割れ、景色が反転するように崩れ落ちた。

光が弾け、闇が流れ込み、

翼は気づけば荒れ果てた大地に立っていた。


 空は赤黒く濁り、

剥き出しの地面は焦げ、

風すら泣いているようだった。


「……ここ、は……?」


俺の声は震えていた。


そのときだった。


──カラン。


足元で何かが転がる音がする。


翼はゆっくりとそれを拾い上げた。


それは、

ボロボロに砕けた光の石のネックレス。


沙耶からもらったものと同じ形。

翼の胸が凍りつく。


「どうして……。なんでこれが……ここに……」


震える指先。


そして――

その先に“倒れている誰か”がいた。


翼は息が止まる。


白い髪。

細い指。

胸元の赤。


「……リリア……?」


喉が裂けるように乾いた声が出た。


動かない。

呼吸もない。

翼が何度呼んでも返事がない。


近づくほどに、胸が締めつけられていく。


「嘘、だろ……?

 どうして……どうしてお前まで……!」


指先が触れた瞬間、

リリアの肌はひどく冷たかった。


死んでいた。


守れなかった。


まただ。

また自分は大切な人を守れなかった。


翼はその場に膝から崩れ落ち、リリアの体を抱きしめた。

胸が張り裂けそうだった。


「なんで……っ!

 なんで俺は、こうなんだよ!!

 沙耶のときと同じじゃねえか!!

 何ひとつ、守れねえ!」


砂のように崩れていく声。


涙が頬を伝って落ち、

リリアの髪に染みていく。


そのとき、周囲の影が蠢いた。


黒い霧。


魔王の力が世界を飲み込み、

街は消え、国は消え、

人々の声も消えた。


残ったのは――


俺ひとり。


「これが……俺が望んだ未来……?」


その時、聖剣が淡く光り、声が響く。


『お前は勇者ではない。

 勇者の血を持たぬ人間が、世界と戦えばこうなる。』


冷たい。

残酷なまでに間違いのない音だった。


『守りたい者を守れず、

 救いたい者を救えず、

 やがて全てを失う。』


翼の肩が震えた。


『そして、最後に死ぬのは、お前ではなく

“お前が救いたいと願った少女”。それが運命だ。』


翼の視界が揺れる。


自分のせいでリリアは死んだ。

自分のせいで世界が終わった。

自分が“勇者ではない”から。


「なんだよ、それ……。

 俺が、勇者じゃないから……?

 血筋がちがうだけで……?

 それで全部……失ったっていうのか……?」


涙が止まらなかった。


「ふざけるな……

 俺は特別じゃなかった……?

 勇者になれなかった……?

 そんな理由で……リリアが死ぬなんて……!!」


翼は吠えた。

喉が裂けてもいい。

世界に響くほどの叫びで否定した。

だが――

崩壊した世界は何ひとつ答えてくれない。

翼だけが、泣いていた。

過去も未来も、

自分は守れない。

沙耶を。

リリアを。

世界すらも。


“特別な人間じゃなかった”。


それだけの事実が、

翼の心を潰すようにのしかかった。


 翼は膝をつき、両手を床についた姿勢のまま、試練の間に戻ってきていた。


呼吸が荒く、涙が床に落ちる。


「……なんで……俺は……何も……」


そのとき――優しい手が頬に触れた。


「翼。」


顔を上げると、

未来では冷たくなっていたリリアが、生きてそこにいた。

翼の頬を両手で包み、泣きそうな顔で言う。


「わたしは……死んでないよ。

 未来は決まってない。

 翼が見たのは……“きっとこの先で起こるかもしれない不確実な未来”だよ。」


翼は泣きながら首を振る。


「俺は……勇者じゃねえ……。

 俺がそばにいたら……君が……!」


リリアが俺を抱きしめた。

痛いほど強く。


「違う。

 あなたがいたから、わたしはここにいるの。

 未来は変えられる。

 翼が一緒に歩いてくれるなら。絶対に」


翼の胸の奥に、

消えかけていた炎がまた灯る。


「翼、わたしの騎士になって。」


リリアはまっすぐ俺に言った。


俺は特別な人間になりたかった。

この世界に来ても俺は勇者でもなければ

女の子の前で泣きじゃくる弱い男だ。

そんな弱い俺に君は言ってくれた


「勇者よりも、この世界の誰よりも……

 わたしは、あなたを必要としてる。

 だから、わたしの騎士になってくれませんか?」


翼は震える手で、リリアを抱きしめ返した。


「それにね、翼は勇者なんかじゃなくていいの

 弱くて、怯えていて、でも立ち向かう君の姿はもう

 私にとって勇者そのものだったから」


リリアはニコッと笑った。

その笑顔に助けられたのはこの世界に来て何回目だっけ。

俺がこの世界に来た理由も、この先戦う理由も

全部この笑顔を守るために決まっている。

理由なんてそれだけでいい。


「……守るよ。

 今度こそ、絶対に……」


涙の跡を残したまま、二人は立ち上がった。


もう俺は、“勇者なんかじゃなくていい”。


ただ――リリアを守るために生きる。


そのために進む。

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