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第6話 心の迷宮と、さよならを言えなかった少女

 真っ白な霧の世界に、やわらかい歌声が響く。


翼はその声を聞いた瞬間、

胸がぎゅっと縮むような感覚に襲われた。


「沙耶……?」


霧が晴れ、

そこに、あの日と同じ姿の少女が立っていた。


オレンジ色のワンピース。

少しだけ乱れた前髪。

くしゃっと笑う、無邪気な表情。


「翼くん、久しぶりだね。」


翼は目を見開き、立ち尽くした。


幻覚だと分かっていても――

どうしても、涙がこぼれた。


沙耶は翼の胸元に触れ、

小さな光の石のネックレスを見てふわっと笑う。


「まだ……持っててくれたんだ。」


「当たり前だよ。

 ……君の形見なんだから。」


その言葉に、

沙耶の目が少しだけ寂しげに揺れた。


そして――

翼の脳裏に、封じていた“あの日”が一気に蘇った。


 小学校三年の夏の夕方。


風が涼しくて、

蝉の声が響いている、そんないつも通りの日だった。


翼と沙耶は学校の帰り道にあった公園の近くで、

いつものように他愛のない話をして笑っていた。


「ねえ、翼くん。

 これ……あげる。」


沙耶が差し出したのは、小さな光る石。

それを紐につないだ簡単なネックレスだった。


「……どうしたんだよ、これ。」


「おまもり。

 翼くんが泣き虫だから。

 これ持ってたら、やさしいけど強い子になれるよ。」


冗談めかして笑う沙耶につられ、

翼も照れながら笑った。


そのときだった。


──ガサッ。


突然、背後の茂みが揺れた。


振り返ると、

血のような色をした服をまとった男が立っていた。


手には包丁。


目は虚ろで焦点が合っていない。


「……、……」


言葉にならないうめき声とともに、男はフラフラと近づいてきた。


沙耶が翼の腕を掴む。


「翼くん……?」


翼の体が固まった。


逃げなきゃいけないと頭では分かっているのに、

足がまるで地面に縫い付けられたみたいだった。


男は二人に近づき、

突然、包丁を振り上げた。


そして――


沙耶が翼を突き飛ばした。


「翼くん、逃げて!!」


「沙耶!!?」


倒れた翼の目に映ったのは、

沙耶の背中に、

深々と刺さる刃。


時間が止まったようだった。


沙耶の口から小さな息が漏れる。

服がゆっくりと赤に染まっていく。


「なんで……っ、なんで沙耶が……!」


翼は泣き叫びながら沙耶に駆け寄った。


男はどこかへ走り去り、

残されたのは静寂と二人だけだった。


沙耶は震える手で、

翼の胸に触れた。


「翼くん……、ごめんね……」


「謝るのは俺だよ!

 助けられなくて……守れなくて……!」


沙耶は弱く首を振った。


「翼くんは……優しい子だから……」


翼の涙が沙耶の手の甲に落ちる。


少女は震える声で続けた。


「でもね……

 翼くん……

 いつか、誰かのこと……守れるようになるよ……きっと……」


そして最後に君は言った。


「……大好き……」


その言葉を最後に、沙耶の目はゆっくり閉じた。


翼は沙耶を抱きしめながら叫んだ。


あの日からずっと、

俺は自分を許せなかった。


幼い自分にはどうしようもなかった。

それでも――


あの日逃げたのは事実だった。


沙耶は優しく微笑んで翼を見つめる。


「翼くん、ずっと止まっていたんだよね。

 あの日から。」


翼はこみ上げる嗚咽を押し殺しながら言った。


「俺は……弱かった。

 怖くて……逃げたんだ。

 あの一歩が踏み出せてたら……!!」


沙耶は首を横に振る。


「違うよ。

 あの日の翼くんは、子どもだっただけ。

 誰だって、あんなのこわいよ。

 あれは……翼くんの罪じゃない。」


沙耶の体が光をまとい始める。


「でもね、翼くん。

 この世界には……守りたい誰かがいるんでしょ?」


翼の脳裏にリリアの笑顔が浮かぶ。


震え、怖がりながらも、

自分を信じてくれた少女。


「……守るよ。

 今度こそ……絶対に守る。」


沙耶は満足そうに微笑んだ。


「うん……それでいいんだよ。」


光が強くなり、

彼女の姿は薄れていく。


「さよなら、翼くん。

 あなたは……もう大丈夫だよ。」


翼は涙を流しながら手を伸ばす。


「沙耶ぁあああああ!!!」


しかし、手は届かない。


光の粒となって消えていく少女。


──残されたのは、

胸元で震える石の温もりだけ。


そして眼前に現れる、

精神の試練突破を証明する光の扉。


翼は涙を拭い、静かに前を向いた。


「ありがとう、沙耶。

 ……俺は、進むよ。」

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