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第5話 試練前──祠へ続く白の森

 朝靄がうっすらと漂うなか、翼は寝袋からゆっくりと上半身を起こした。

焚き火はすでに消え、白い煙だけがふわりと空へ消えていく。


「……もう朝か」


体は少し重い。

けれど昨日より心が軽かった。

リリアと他愛のない話をし、昔のことを語り、笑い合った──

その時間が、どれほど翼を救ったのか自分でも驚くほどだ。


「翼さん、起きました?」


リリアが振り返り、朝日に透ける髪がふわり揺れた。


「おはよう、リリア。……なんか、今日めっちゃ顔明るくない?」


「昨日、楽しかったので!」


リリアは胸を張って答える。


「そ、そうなのか……よかった」


お互いに照れながら、簡単な朝食を取る。

パンと干し肉、そして昨夜の残りのスープ。


「さて……行くか。試練へ」


翼が立ち上がると、リリアは小さく頷き、荷物の紐を結び直した。


「はい。今日、翼さんが向き合う場所ですから」


「なんか……言い方重くない?」


「試練ですので!」


ぴしっと言い切るリリアに、翼は苦笑するしかなかった。

ふたりは焚き火跡を整え、森の奥へ進んだ。


進むほどに、森の様子が少しずつ変わっていく。

木々の緑は薄く淡く、ところどころ白い靄が流れていた。


「……なんか、雰囲気違うな」


「はい。村長さんが言ってました。

 “試練の祠の周りは、世界を覆う光の力が残っている”って」


「光の力……」


翼は歩きながら胸元の石に触れた。

昨夜、不自然なほど温かかった気がする。

気のせいかもしれないが──。


すると。


ポッ……と石が小さく光り、すぐに消える。


「え?今、光った?」


「えっ!?どっちですか?石ですか?顔ですか!?反射ですか!?」


「顔じゃねえよ!!」

 翼が慌てて否定すると、リリアは胸を撫でおろす。


「よかった……いや、よくはないんですけど!」


「どういう状態ならよかったんだよ俺!?」


ふたりの掛け合いは、森の静寂にやわらかく響いた。


 やがて、森が途切れた先に、白い石畳の道が伸びていた。

その先に──重厚な石造りの祠が、ひっそりと佇んでいる。


「……見えてきた」


翼が呟く。

リリアの横顔は、緊張で少し強張っていた。


「翼さん」


「ん?」


「……昨日ね、あなたが初恋の話をしてくれたとき……

 正直、胸がぎゅってして、苦しくなったんです」


「え……?」


リリアは静かに続けた。


「でも……あなたが大切にしている想いは、とても綺麗でした。

 だから……その想いごと、あなたを守りたいと思ったんです」


翼は、不意を突かれる形で言葉を失った。


「守るって……俺を?」


リアは小さく頷き、胸に手を当てる。


「ほんとは怖いんです。

 “光の王家の血”を継いでいることも……

 自分に何ができるかもわからなくて。

 けど……翼さんと一緒なら、前に進める気がするんです」


その言葉には、言葉にできない想いが込められていた。


「……ありがとう、リリア。

 俺も……お前がいてくれるから、進める」


ふたりは見つめ合い、照れたように目をそらした。


そして、二人は祠の巨大な扉の前までたどり着いた。


白い石には古い紋章──光の国エリュシアの象徴が刻まれている。

石をかざすと、紋章が淡く輝いた。


「開いた……!?」


「この石……やっぱり、これが鍵なんだな」


翼は息を呑んだ。

これから自分が挑む“精神の試練”が、この奥にある。


リリアがそっと翼の肩に手を置く。


「翼さん……大丈夫です。

 この試練はあなたの中にある痛みと向き合うためのもの。

 あなたなら、絶対に乗り越えられます」


「……ああ。行ってくる」


翼は拳を握りしめ、ゆっくりと祠の中へ一歩踏み出した。


その瞬間、胸元の石がもう一度、淡く光る。


 まるで──

 “行ってこい”

 と背中を押してくれるように。

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