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第4話 小さな焚き火と、ふたりの距離

──試練の森へ向かう道中の一日。


 森へ向かう道は穏やかで、昨日までの惨劇が嘘のようだった。

鳥のさえずり、光を受けて輝く木々。

あまりに平和で、翼は思わず苦笑する。


「……世界って、こんなに優しい顔もできるんだな」


リリアが横で微笑む。


「昨日は大変でしたから……こういう時間、少しホッとしますね。

 翼さん、ずっと怖い顔してましたし」


「え、マジで?」


「はい。眉が“へ”になってました」


「へ!? どんな顔だよ!」


翼が必死に眉の形を直して見せると、リリアはくすくす笑った。

その笑顔を見るだけで、胸の奥の重さが少しずつほどけていく。


「そういえば、翼さん……家族とか、友達とか……」

リリアが恐る恐る聞く。


「うん、まぁ……いたよ。でも普通の学生って感じ」


翼は言いながら、胸元に手を伸ばした。

そこには──小さな石のネックレスが揺れていた。


リリアが目を瞬かせる。


「やっぱりその石……すごく綺麗ですね」


「ああ……これ?この世界では光晶石って呼ばれてるみたいだけど

 実はこれは……」


翼は少しだけ迷い、けれど優しく微笑んだ。


「俺が小さい頃さ……初めて“好きだ”って思った子がいたんだ。

 その子がくれたんだよ、この石」


リリアが少し驚いた表情を浮かべる。

翼は静かに続けた。


「でも……その子、体が弱くて。

 小学校の終わり頃に……亡くなっちゃったんだ」


風が一瞬だけ止まった気がした。

リリアは胸に手を当て、そっと聞き入る。


「周りからは“そんな石いつまで持ってんの”って笑われたけど……

 最後にもらったプレゼントでさ。

 どうしても手放せなかった」


この石はどこにでもあるような普通の石ころだ。 

だけど翼には、どんな宝石よりも価値がある。


「……優しいんですね、翼さん」


「優しくなんかないよ。ただ……忘れたくないだけだ」


リリアが少しだけ嬉しそうに微笑んだ。


「その子……きっと今も、翼さんのこと見守ってますよ」


その言葉に、翼の胸が温かく揺れた。

どうしてこの世界に来ても、この石だけは残っていたのか──

その理由が、ほんの少しだけ理解できた気がした。


「じゃあ次はリリアの番な。小さい頃、どんな子だった?」


リリアは頬を赤くする。


「……よく転んでました」


「それはなんとくわかる気がする!」


「ち、違います! 本当に、すごく転んでたんです!!

 石にもつまずくし、草にもつまずくし……地面が天敵でした」


「地面と戦ってたの!? 強敵すぎるだろ!」


「はい。きっと闇の国より強いです」


「これから先で転ぶなよ!?!?」


笑い合いながら二人は森を歩いた。

日が沈みはじめる頃には、相変わらずくだらない話で盛り上がっていた。


 


 夜、二人は森の開けた場所に腰を下ろし、焚き火を囲んだ。


「よし、夕飯つくるか! 任せろ!」


翼は得意げに包丁を持ったが──


「翼さん……切り方が……怖いです」


「そんなに!?!?」


切られた野菜は厚さが極端に違い、もはや“作品”のようだった。

一方、リリアは均一に薄く切り揃えていく。


「なんでそんなプロみたいなの?」


「家庭のお手伝いは大事ですよ?」


結局、料理のほとんどをリリアが作ることになった。

ただし、翼が焼いた魚だけは見事に仕上がった。


「おいしい……!これ、翼さんが?」


「そう。俺、焼きだけは得意なんだよ」


「じゃあ明日から焼き担当お願いします!」


「なんで当然みたいに決めてんの!?」


焚き火の光が二人の顔を柔らかく照らす。

その光景は、どこか家族のようで、どこか恋人のようだった。


 食事を終え、星を見上げながらリリアが呟いた。


「翼さん……不思議ですね。

 昨日まで普通の村にいたのに……今は、こんな旅をしてる」


「ほんとだよな……俺なんて、少し前まで就活でボロボロだったのに」


リリアはくすっと笑った。


「でも……今日、一緒に歩けてよかった。

 翼さんがどんな人か、もっと知れた気がします」


「俺も。リリアって案外、おっちょこちょいなんだな」


「う、うるさいです!」


二人は肩を寄せるようにして焚き火を見つめた。


「明日から……試練か」


「はい。でも……二人なら、きっと大丈夫です」

「うん。絶対に突破するよ」


そのとき、翼の胸元の石がほんの一瞬、淡く光った。

焚き火の明るさのせいだと二人は気づかなかったが──


その光は、二人の旅の未来をそっと照らしていた。

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