傘の返却と学校生活
「はぁー疲れたー」
ソファーにカバンを投げ捨てると同時に深く座り込む。
今日は七瀬さんの一件もあって今日は一段と疲れた気がする。
そんな時は料理をしてストレス発散、これが樹の帰宅後の楽しみである。
外ではまだまだザーザーと雨音を立てている。
樹は俗に言う雨男なのでそこまで運動が得意ではないだが小学生の頃に雨で家の中で作ったカレーが自分で作ったという補正はあるだろうが絶品でそこから料理にハマっていった。
料理なら雨でも出来るので問題なしだ。
早速カバンから借りた本を取り出しページを捲る。
「最初はクッキーとかが良さそうだな」
材料と手順を見てもかなり簡単そうなのでクッキーを早速作る。
材料は薄力粉や砂糖、バター、卵黄など樹の家にあるもので構成されていたのですぐ作る事ができた。
「では早速。頂きます!」
感想から言うとめちゃくちゃうまかった。
今までこのジャンルには手を出していなかったがお菓子作りもハマってしまいそうだ。
明日はちゃんとした材料を買って、シュークリームでも作ってみようかな。
そんな事に心を躍らせていたが明日までが期限の課題を思い出しテンションが下がった。このクッキーを片手に課題を終わらせてさっさと寝よっと。
翌朝樹は課題のせいで寝るのが遅くなってしまい眠い目を擦りながら登校していた。
自分の教室の前に到着すると、ドアの前で昨日貸した紺色の傘を大事そうに抱えている七瀬さんを見つけた。
ホームルーム前に返すとは言っていたがまさか教室の前で待っているとは思っていなかった。
そうしている間にこちらに気づいた七瀬さんが話しかけてくる。
「澤幡さん昨日は傘を貸して頂いてありがとうございました。とても助かりました」
深々とお辞儀をした後、七瀬さんは傘を差し出してくる。
「こりゃ丁寧にどうも」
「澤幡さんが傘を貸してくれなければ途方に暮れていたのでこれくらい当然です」
「そっか。力になれたなら嬉しいよ」
「はい、それでは今回のお礼はまた後日考えておきますね」ニコッと笑って樹に背を向けた。
「いや、そんなの要らなっ…」
七瀬さんがお礼を考えておくと言う発言に一瞬戸惑い反応が遅れてしまった。
その間に七瀬はテクテクとクラスの中に消えていってしまった。
樹は少し唖然としつつゆっくりと教室のドアを開けた。
教室に入り、自分の席に荷物を開いたところで背後から人が話しかけてくる。
「ヨォ樹七瀬さんとはどんな関係だぁい?」
クラスで話す相手など樹には1人しかいなかったのであらかた予想はついていた。
「あぁ瑛二か。七瀬さんとは昨日ちょっと話す機会があったからその時の話をしてただけ」
「ほんとかぁ?かなり親しげに見えたけどなぁ」
「七瀬さんなら皆んなあんな感じの対応だろ」
「そうかなぁ、なんかいつもとは違う気がしたけど…ま、気のせいか」
「そうだ気のせいだ」
「じゃいきなり話しかけてすまんな」
「ああ、またな」
今樹が話していたのは、樹のゆういつの友人の船越瑛二。
入学して間もない頃に瑛二から話しかけてきて、そこから仲良くなれた。
先程の会話からもわかるようにコミュニティ能力は高く大雑把な性格である。
あまり話す事が得意でない樹が親しい友達を作るのは至難の業なのだが、瑛二とは自然と話す事ができる。
学校生活ぼっちで過ごしていないと言うのは瑛二様様である。
そうこうしてるうちに先生が教室に入ってきて、朝のホームルームを始める。
その後は1から4限を終えたのちに50分のお昼休憩に入る。
たった今4限の授業の終わりを告げるチャイムがなる。机に広げていた教材類を片付けていると、コンビニで買ったであろう昼食を片手に樹の首に手を回してくる。
「一緒にメシ食おうぜー」
「食べるからまずはその手をおろせ」
「そんなこと言うなよぉー相変わらず辛辣だなぁ樹は」
「誰でもこれは鬱陶しいだろ」
少しの間攻めぎあっているとようやく観念したようで首から手を下ろしてくれた。
そして瑛二は慣れた手つきで学食に行っており、空席の隣の席を樹の席につなげて対面の形を作る。
樹もカバンの中からお弁当を取り出して、ランチョンマットを広げ、お弁当の蓋を開ける。
「お前の弁当毎回うまそうだよな、しかもこれ自分で作ってるんだろ?すげーよなぁ」
「お前もそろそろコンビニ飯卒業したらどうだ?」
「体に悪いのは分かってるんだが、やっぱりコンビニ飯が1番美味いんよね。てか弁当自分で作るだけの料理スキルも体力もないんよなぁ」
「確かに俺は好き弁当で作ってるしとやかく言えないかもしないな」
「俺も見習っておにぎりくらい持ってこれるように頑張るかな」
「うむ瑛二よ良い心がけだぞ」
「何様だよ」
そう言いながらおでこにデコピンを喰らう。
そうして2人目を合わせて笑いが込み上げてくる。
我ながら充実している学校生活である。
昼食を食べ終え次の授業の準備をしていると呼び鈴が鳴る。
その後は5から6限までを終えると学校は終了である。
人によっては部活などがあるのだが、樹はもちろん帰宅部なので帰りのホームルームを終えるとすぐに帰宅する。
今日は昨日借りた料理本の中のシュークリームを作ろうとしていたので材料を買う為にいつもとは違う道で帰宅していた。
スーパーに向かいながらシュークリーム作りの材料を確認しつつ、帰ってからのシュークリーム作りの時間を想像すると一層楽しみになってくる。
宿題は今日提出したので心配無用だ。
そんな中ふと視線を上げると公園の中のベンチに座って何かを呟いている1人の少女を見つけた。
樹が通っている学校の制服だったので少しよく見てみると…
七瀬さん!?




